9話「決闘の条件は」
僕はスーツのまま祝日寮に戻り、誰もいない談話室で考えを巡らせていた。
彼の過去はわからなかったけど
情報は色々仕入れた、次はクレアだな
「クレアがどうしてマティーニを嫌うようになったのか、か」
「私がどうかしたのですか?」
エリの問いに反応したクレアがいつもより低いトーンで返す
「クレア!?いたの!?…ていうかなんか怒ってる?」
「いましたよ!怒ってますよ!
お二人ともどうして帰ってから一言も私に声をかけて下さらないんですか!
この寮誰もいないはずの扉が開閉したりして怖いし!
エリなんか『今は誰とも話したくない』って部屋に戻っちゃいましたし寂しかったんですよ!?」
「王女サマ寮に住んでないからいるかいないか解らないんだもん」
「今日はいたんです!止めたのにどうしてもマティーニ様のパーティに行くって言うから心配で…!」
「まさか待ってたの?」
「…はい」
涙目になりながら頷くクレア。
「健気な事で…
そんなに不安?マティーニと婚約する羽目になるかもしれないのが」
「嫌に決まってます!…故郷の事は…私にはどうにも出来ないけれど
でもお願い 負けないで下さい、遊助様」
彼女は不安そうに訴える
やれやれ、困ったな。
「なら、ちゃんと話してよ
どうしてそんなにマティーニ先輩が苦手なのか」
「ぜ、絶対内緒にしてくれますか!?」
「するする!」
「…昔…私はマティーニ様をお慕いしておりましたの」
「へーびっくり」
(知ってたけど)
「私たち昔はそれはもう仲良しで
その…こ、子供だったからですよ?
け、結婚したいとか思ってたり、それを伝えてしまったこともありまして」
「今とは逆だった訳だ」
「はい…でも マティーニ様はいつも
無理、だって僕ら釣り合ってないじゃないか
とか
嫌だね、格が合わないよ
とか そんな言葉ばかり返すので
次第に『私なんかが好きになっていいお人では無いのだ』とそう思って諦めてしまい
何となく気まずくて遊ぶ事も無くなって行きました 」
「なのに、彼は急に君に婚約を迫った」
「そ、そう!そうなんです!
あんなに散々人の事振っておいて急に!
本当に急に結婚しろ結婚しろって…!
何様なのですかあの方はー!」
「おやおや」
「きっと、私の事になんか興味無いんです
私が王家だから…魔法国家の王女だから
国の為に嫌々やってるんですわ」
「…なるほど?中々に興味深い」
「これで何か解ったのですか?」
「いや!何も解らない!」
けど、これだけは解る
マティーニもクレアが好きだったのに
彼はあえて彼女を振っていた
見るからに不器用そうなお坊ちゃんだ
その理由はきっと…
「まあでも…気が変わったよ
マティーニとの決闘、負けたく無くなった!」
ーーー
次の日の朝、僕は意気揚々としかめっ面の男に声をかける。
「先輩!決まったよ、条件!…てあれ、なんか顔色悪くない?」
「色白だからそう見られやすいのだ...
…まあ私の事はいい、条件を聞こう」
「僕が勝ったら…あなたは『クレアに告白する事』」
「!」
「お待ちください!」
そう言いながらクレアが駆け寄って来る。
「遊助様、黙って聞いていればなんて危なっかしい方なの!?
この方は日常的に私に求婚して来るような方ですよ!そんな方にそんな条件で戦ってはいけません!
貴方の『退学』と比べてあまりにも軽すぎます!」
「軽くなんかないよ、ね?先輩」
「…」
「だって僕の言う『告白』は
あんたが『ずっとクレアに隠して来た事の告白』だから」
「ずっと私に…?」
「面白い、いいだろう、受けて立つよ
どんな条件であろうと…私が負けることは無い」