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祝日組寮のアルカナ  作者: よつば ねねね
1章「マティーニ」
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8話「王様の耳は狐耳」

「でも…どうやって過去なんて調べるの?

 過去を見る魔法は高度だから私たちには多分扱えないよ」


「そこで役立つのが君ってわけ」


「え?」


「ちょっとあの王子様を魅了して聞いてきてよ…昔『何があったのか』」


「ちょ…ちょっとひどい!私の魔法を悪用する気!?」


「悪用じゃないの、言ったろ?クレアの為!

 僕が人気のない場所までマティーニを誘導するからさ

 隙をみて君はマティーニに近づき

 『ねえー?マティーニさぁーん?クレアと昔何があったの?』って聞くわけ!

 そしたら君も必要以上に群がられたりしなくていいだろ?

 あの男に近づける機会なんてこの先そんなに無い!僕はともかく君は怪しまれる

 クレアの為にはこれしかないんだよ」


「………」


エリは暗い表情をしながら目線を落とす。


「…遊助はさ、私の魔法…どんな風に思ってる?」


「え?便利な能力だと思ってるよ

 男も女も君が本気を出したら言いなりだもの」


「…いいよ、他にいい案が思いつかないから手伝う…けど

 遊助のことちょっと見損なった

 私がどんな気持ちで…」


言いかけて、彼女は黙り込む


「何?どんな気持ちなの、言いなよ」


「もういいってば!私どこに隠れてたらいい?」


そう言って不機嫌に歩き出した。

なんだよもう…エリの事は評価してるんだぜ?

鏡の試練で一番手強い敵を倒して見せた、

『アルカナ』の僕にさえ出来なかった事だ。


戦う相手が人や、人に恋できる生物ならば

彼女はきっと僕よりも強い


なのに何であんなに自分の能力を嫌うんだろう


ーーー


僕は一度エリと別れた後、

人の波をなんとか潜り抜けてマティーニの肩を掴み


「なあマティーニ!決闘について話があるんだ、ちょっと二人で話せない?」


と言った。


マティーニは仕方ないな、とでも言いたげに肩を上下すると、エリの待つ廊下に向かった。


「それで?条件は決まったのか

 この私に時間を取らせたんだ

 つまらない条件だったら承知しないぞ」


高圧的な態度で言い放つ彼を横目に

僕が合図をすると、

エリが飛び出して彼の手を掴み


「ねえ、教えて…!

 昔クレアと何があったの?」


少し離れている僕にでも解る、

彼女は今かなり強力に魅了の魔術をかけているのだろう

僕は少しくらっとしながらも、

マティーニの様子を伺う。


「え…えっと…く、クレア…とは…

 昔…!」


そこまで言いかけるとマティーニは静かに目を閉じて…


ー倒れてしまった。


「…きゃっ!嘘ごめん!先輩だし大丈夫だと思って強めにかけちゃったから」


「強めにかけると死ぬのか!?」


「し、死んだりしないよ!

 けど…例えば魅了に慣れてなかったり女の人と関わりが無かったりする人が魅了の魔術をかけられると眠っちゃうの

 『恋の病』とか…『魅了酔い』とか呼ばれてる」


なるほど情け無い、学校で最強とか言われておきながら魅了耐性0とはね


「ど、どうする?とにかく先生呼ばなきゃ」


「待って!それじゃ君が魅了の魔術をかけた事がバレちゃうだろ そこら辺に捨てておこうよ」


「駄目!魅了の魔術をかけた事は本当だもん、責任とるよ

 …私のせいだし」


はー、真面目だね

しかしどうしようかな

いくら僕がやれと言いましたって言ったって

『王族に魅了の魔術をかけた』とでも噂になればこの子の生活が危ない


一度寝かせて様子でも…


色々考えていると、エリが「きゃっ」と小さく悲鳴を上げる。


「何?どうした?」


「その人の耳!」


言われるがままに彼の耳に目を向けると、

彼の耳がけむくじゃらで大きい…人間のそれじゃない物に変わっていくのが解った。


「何!何これ!」


僕が動揺していると


「この人…半獣人だよ、

 魔術で隠してたんだ」


「獣人!?いや、獣人ってもっと

 顔ごと狼だったりするだろ」


「それは血の濃い獣人の話!

 半獣人は耳と尻尾だけだったり…

 目が獣の特性を持ってたりする程度だったりするの!

 ほら見て、尻尾も出て来てる…狐、かな」


「本当だ」


「とにかく今これを見られたらまずい…あの部屋!ちょっと借りよう!」


エリの提案に僕は頷いて小さな部屋まで彼を運んでいった。


「しかしまあとんでも無いことになったねエリ…

 過去を暴くどころか王家の秘密を暴きそうなんだけど」


「だから言ったじゃん、首突っ込むなって

 …まあ、私も共犯なんだけどさ

 聞いた事ないよ、半獣人の王族なんて…」


エリはそう言って俯いたあと


「いや…そっか…」


と小さく呟く


「どうしたの?この状況をなんとか出来る案でも見つかった?」


「ううん!そうじゃなくて

 気づいたの…王様の耳は狐耳

 そう言う民間伝承があるんだ」


「民間伝承…?」


「そう、イリスって国に伝わる民話で

 とある美容師が王様の耳が狐であることを知ってしまって、井戸にその秘密を吐き出したら何故か国中に広がってしまったってお話し…

 所詮民話だとは思ってたけど、

 代々半獣人の家系なんじゃないのかな」


「イリスはマティーニのいるフラベリア国と仲が悪い…それに隣り合っているからフラベリアでは禁止されて淘汰された筈の民話が間違って伝わってしまって

 今でも残ってる…とか充分あり得る話だね」


「ん…」


「あ!まずい!起きる!」


僕は焦ってエリの手を引き部屋を出ると、

マティーニが起き上がるのを確認し


「元気そうだ、一旦ここから出よう」


そう言ってそそくさと寮を後にした。


「王様の耳は狐の耳、か」


僕が呟くと、エリは僕をきっと睨んで


「しー!どこで誰が聞いてるか解らないんだからそんな事言わない!

 …ほんと、凄いことに巻き込んでくれたよね」


と言った。


「ねえエリ、聞いていい?」


「何?」


「私がどんな気持ちで、の

 その後」


「はあ!?まだ気にしてたわけ!?」


「僕は『愚者』だから…一度気になると止まらないんだよ」


「…私が…どんな気持ちで普段この魔法と付き合ってるか解ってない!

 って、言おうとした」


「どんな気持ちなの?」


「…言いたくない

個人的な事だもん」


「でも言ってくれなきゃ僕だって理解出来ないよ

君は素敵だ!美しいし明るいし固有魔法だって強い!

勿体無いとさえ思ってるんだよ?

君が本気を出せばオリーブ魔法学校も辞めなくて良かった!

それどころか芸能人にでもなれば一躍スターにだってなれる!

なのにどうして自分の固有魔法を嫌うの?

もっと使えば試練の時みたいに…」


僕が言い切る前にエリは僕を睨むと


「言ったでしょ!便利なんかじゃない!

好きになんてなれる訳ないよ

君は何にも分かってない!

悪いけど、十分仕事したし私はもうこの件から降りるから!

遊助なんかマティーニ先輩に負けちゃえ!」


エリはそう言って走り去ってしまった


…あーあ、人ってのは難儀だなあ


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