7話「覆面パーティ」
「春組寮」前、“僕たち”は招待状の地図を見ながら広い敷地にあるここに、何とか辿り着いた
「何でクレアじゃなくて私が一緒にパーティーに行くのさ」
エリが膨れながら言う。
「仕方ないだろ!『絶対に行きません!』って聞かなかったんだから…参加条件は男女ペアだし?
エリしか誘える人いなかったんだよ」
「覆面なのに男女ペア~?やな感じの条件!」
ほんと、やーな感じの条件
「そりゃクレアの為にもなるって言うならついてくよ?
でもほら…知ってるでしょ…私の能力
魔力キャンセラーが途中で壊れたりしたら…」
「大丈夫だよ、その時は俺が何とかする!」
エリはそれを聞いて小さく「ほんとかなぁ」と呟いた。
ドレスを着たエリと俺が覆面のスタッフに促され「春組寮」のパーティーホールへと足を運ぶ。
そこは学園の寮にある一室とは思えないほど豪華で、煌びやかだった。
「お城みたい…」
エリがそう言いながら目を輝かせる。
そしてその声を聞き全員がエリを見た
やっぱり、準備の時から思ってたけどこの子…
魅了なんかなくても目立つよな、かなり
覆面をしてても解る整った顔つき、スタイルの良さ、手入れの行き届いた黒髪
こんな目立つ存在でありながら「常に微量の魅了魔術が溢れている」という彼女の固有…
魔女呼ばわりも納得の厄介さだ
そして彼女の存在に気付き一人の男が近寄ってきた。
覆面をしてようが誤魔化しのきかない存在感、オレンジがかったブロンドに、偉そうな態度
誰でもない、主催者の『マティーニ』だった。
あんなクレアにアピールしておいて美女には節操無し、ね
確かに気に入らないタイプの人間ではある。
でもだからって決意が揺らぐほどでは…
そして、マティーニは僕たちの前で足を止め、エリに一礼すると
すぐに僕の方に向き直り
「何しに来た?決闘の条件は決まったのか?」
とまっすぐ僕を見てそう言い放った。
「…はい?」
まさか…こいつが真っ先に見て寄ってきたのは「エリ」じゃなくて「僕」?
「このパーティーは招待制…つまり招待されたものがまた他の者を招待し参加できる
貴様がここに入れるという事は招待した者がいるということだ
いったい誰がそんなふざけたマネを」
「僕だよ、マティーニ」
マティーニが言い切る前に聞き覚えのある声がそれを遮った。
「…シーザー、君が?」
「ああ、彼は君に恨みが無いからして欲しい事も無いって言ったろ?
なら君と親交を深めてもらって存分に恨んでもらおうと思ったのさ
余計だったかい?」
悪びれもなくシーザーが言うと、マティーニは顔をしかめて
「いや、君に考えがあったなら気にしない…
来たからには楽しんでいくといい」
そう言って人ごみの中に消えていった。
…なんだ?やけにシーザーに対する態度が弱いな
「ごめんね、急に絡まれちゃったからびっくりしたでしょ?
君達ちょっと有名だから目立っちゃうみたいだね、
どう?寮長たちしか入れないVIP席があるんだ
そこでゆっくり話でも」
そう言って二階に通された。
「でも意外だったなあ、マティーニが寄って来た時
てっきりエリが可愛いから釣られて来たのかと」
「いやいや…私今キャンセラー付けてるしそんな訳ないよ」
あ、嘘…自覚無いんだこの子
「確かにとても美しい方だけど
マティーニはクレアしか眼中にないからね
でも僕は興味あるな…連絡先とか聞いてもいい?」
「へっ」
「ちょっと、やめてください人の連れに!
でもおかしいな、クレアはマティーニに『興味を持たれてない』
って言っていたはずなのに」
「ははは、まさか…きっと何かが何処かですれ違っていたんだね
マティーニはクレアに首ったけだよ
じゃなきゃあのプライド高い坊ちゃんが人の目も気にせずに求婚しまくるわけがない」
確かに…
「面白いと思わない?どうしてクレアとマティーニはこんなにすれ違っているんだろう」
「確かに!気になる」
「ちょっと!あんまり人の事情に首突っ込んじゃだめだよ遊助」
「先に人の事情に首突っ込んだのはあの王子様だぜ?
ラブラブ熱々なクレアと僕の仲を引き裂こうってんだから」
「よく言うよ」
エリはジトっとした目で僕を睨む。
しかし僕は呆れられたっていい、あの二人の事が知りたくなってしまったからには調べなきゃ気が済まないのだ
「そこまで情報をくれたからには後は自分で調べな、なんて
冷めるような事は言いませんよね?」
「もちろん!…そこの可愛い君も共犯って事で良いんだよね?」
「いや私は可愛くなんか…じゃなくて!
首突っ込みたくないんだけど!?」
「いーや、突っ込んでもらうよエリ!これはクレアの為でもあるんだ…!
鏡の試練見たろう?
クレアはマティーニの事を考えるだけでストレスなのさ
なら!あの二人のすれ違いを解消してあげれば!
クレアの学園生活がより素晴らしい物になるって、そうは思わなーい?」
「…一理…ある…」
「あははは!君たちいいね!面白いコンビだ
じゃあ良いヒントを教えてあげる
クレアは昔…マティーニの事を『追いかけまわしていた』」
「え!?」
「クレアが!?マティーニが追いかけていたんじゃなくて!?」
「ああそうさ!クレアはそれはそれはもうマティーニにご執心でね
でもそこで『何か』があって
彼女はマティーニと距離を置くようになった
そしてマティーニは昔クレアと『何か』があった後
クレアに嫌われていると解っていながらも求婚を迫るようになった
要するに 二人の謎を解くカギは…『過去』にある」
「過去ね…うん、ありがとうシーザー先輩
しっかし変なの
なんでこんな俺に親切な訳?
あんた一応俺のライバルなわけだけど」
「僕は何かが壊れていくのを見るのが好きなんだ」
「…は?」
「ああ、ごめん…変な意味じゃないよ!
壊れて行くって言うのはさ
意固地に守っている物だったり、価値観だったりの事
僕は期待してるんだ
『どうせクレアと結婚するのはマティーニだ』と思っている生徒たちの予想や
『雪解けする事のないあの二人の関係』を
君が壊してくれるんじゃないかってね」
「変なの」
「そう、変なんだ僕
でも遊助…君は嫌いじゃないだろ?
こういう人間」
「割とね」