65話「ナラク引き抜き作戦」
「ナラクー?」
「?」
「布団が本当に吹っ飛んだー!…なんちて」
遊助は布団を風魔法で飛ばして見せる。
これは先日ナラクが言った「自分を一番楽しませた人間が優勝」という提案に乗った結果なのだろう、しかし
「祝日組寮3点減点」
ギャグが響かなかったのかナラクに減点されてしまう。
「えーん!厳しいー!」
「あーあ、遊助早速やらかしてるよ
ナラクのツボって意外と分かりにくいよね」
二人の様子を見守っていたエリが呟く。
「ゲームがいいんでしょうか、やっぱり」
「まあ、ナラクってゲームと機械以外に興味なさそうだし
面白いゲーム一緒にやるとかになっちゃうのかな?
でも面白くってナラクがやって無さそうなゲームを思いつかないや…」
「…ナラク様がやって無さそうな…」
ーーーーーー
「ナラク!俺達とカラオケいかねー?あ、クズ虫はくんなよ」
「とほほ」
「わりい、別にいいや」
放課後、遊助はナラクと一緒に寮に帰っていたが
ナラクを引き抜こうと様々な人間が彼に近寄ってくる度「クズ虫は来るな」
罵声を浴びせられるので心に小さな傷が付いていた。
(どうせナラクは寮を変えるつもり無いのに)
そう考えていた遊助にとってこのイベントは億劫で、
早く平和な学園生活に戻れないだろうかと遊助が考えていた所に
突如、生徒たちのざわつく声が2人の耳に入る。
「ん?なんか騒がしくない?」
「どけ!貴様ら!私が通る!」
大勢の生徒をかき分けてやってきたのはマティーニだった。
「モスコミュール、早速だが私からとてもいい物をプレゼントしようじゃないか」
「出たな!うちのナラクを引き抜こうとする不届きもの!」
「ルールに則っているんだから文句を言うんじゃない!
モスコミュール、うちのホールに来なさい
あー…まあ、岸辺は好きにするといい…別にいてもいなくてもいいからな」
「クズ虫って言って仲間外れにしてくるよりは優しい対応ありがとう」
ーーー
ホールにつくと、ナラクが座ったのと同時に幕が開き
春組の寮生が一斉に踊りを始める。
「すげー!昔じいちゃんと見たサーカスみてえだ!」
「うちの精神は『清き肉体』であるから…
ああいった運動神経の高い生徒が多いのだ
噂によると君はそこにいる遊助と戦って勝ったそうじゃないか!
運動も嗜むのだろう?うちで肉体を鍛えながら健康にゲームを作って行かないか!」
「うーん、確かにジムは欲しかったんだよね…
どうしても運動不足は避けられねえし」
「でーもー!運動運動とか言ってゲーム作る時間減ったらやじゃなあい!?
ほら見てよこのおタイムスケジュール!
寮生ってだけでガチガチに拘束されるのよー!?」
遊助はそう言って春組の入寮案内をナラクに見せた。
「うわマジか!朝練6時から!?」
「清き肉体には清きルーティンが欠かせないのだ」
「うーん、まあ考えとくわ
踊り、すげえ良かったぜ!ありがとなマティーニ先輩
寮生の人にも伝えといてよ」
「むむ…なんだかそこそこの反応だったな…」
「マティーニ先輩はナラクと遠すぎる人種なんだってば!
理解度が足りないの理解度が~」
「鬱陶しいな相変らず」
「春組の番は終わったのかしら!」
ホールに華やかな声が響く。
全員が声の方を向くと、ティナ=フローゼア寮長と
アシュリーがホールの入り口に立っているのが見えた。
「げっ…ティナ!君何処から入ってきた!」
「マティーニ様、今日も麗しいですわ…
アシュリーと私が上目遣いで入れてって言ったら
寮生の方が入れてくれましたの」
「あいつら…!」
「あら!遊助も一緒なのね!運命感じちゃうわ!」
「やあティナ先輩!…アシュリーはもうお腹いっぱいだから話しかけんな」
「酷い言い草ですね、二人の人生はまだまだ長いのに」
「二人のってなんだ!僕の人生は僕だけのもんだっつーの!」
「まあまあ二人とも!仲良くしましょうよ
今度は夏組に来て欲しいわ!楽しい物をお見せするから!
勿論遊助も一緒に…!きゃ!なんかデートみたい!」
「おっ!楽しみー!」
ーーーーーーーーー
夏組寮に到着すると、その変わりように驚く。
「うわ…え!?どうなっちゃってんのこれ!?」
大きなハリボテの城、空中に通った鉄の道、
まるで『遊園地』を思わせる情景だった
「アミューズメントパーク方面に強化したらこうなってしまったのよ
夏組はとにかく土地が広いから…何でも置けるって思って作ってたら
いつのまにかプール併設型の遊園地に」
「ならねえだろ普通」
「まあ…水族館の隣とかにも遊園地があったりするし」
「でもいいなこれ!俺遊園地作ってみたいって思ってたんだよ!
これ誰が作ったの!?」
「塙よ、彼ってほら…空とか飛べるから建築に向いてるの」
ティナが言うと、塙が不機嫌そうに観覧車の影から現れる。
「ちっ…お前ら何しに来た…ンギョおおおおお!」
「駄目じゃないですか塙君…お客さんにそんな態度とったら♡」
塙は突然痺れたような動きをすると地面に伏せてしまった。
「あんたも懲りねえよな」
「建築は塙が何とかしてくれるからナラクも一緒に遊園地を作りましょ!」
「魅力的だけど…うーん」
「まあとりあえずアトラクションに乗ってみない?わ、私は遊助の隣で…!」
「折角だし乗ってみようよナラク」
「お、おう」
ティナに促され、嬉々として乗ったジェットコースターだったが…
「おっそ…」
ジェットコースターもブランコも全部遅い。
全てが走るというよりお散歩しているといった速度だった。
「法律的にこれが限界速度ギョ」
「なんか風がぬるいよこの遊園地!」
「じゃあ何?あんたが資格とか国の許可とか取ってくれるの?無理だよね
これでも頑張ったんだから文句言わないで」
「しかもマスコットがメタいことばっか言ってくる…」
「あらあら…♡世界観壊しちゃ駄目ですよ?」
「いででででで!すみません!もうメタ発言しないです!」
「語尾は?」
「しないですギョ!」
「改善の余地ありだな、まだほうきに乗ってた方が爽快感あるぜ
いっそほうきにハリボテくっつけて飛ばしちゃえば?」
「頑張って作ったのにギョ…」
「あー!わりいわりい!すっごく良かったよ塙さん!」
「どうやら訴求に失敗したようだな!」
「!?」
ジェットコースターから人影が飛び下りて来る。
ヒーローのように着地を決めたその人物は秋組副寮長の「リオ・モッキンバード」だった。
「ワイヤーアクションみてえだった今の!もっかい!もっかいみたい!」
「みたいなのではない!ワイヤーアクションなんだ!
俺は糸で自分も吊るせるからな!」
「どこから湧いてきたのかしらリオ君!」
「む?普通に入り口でお金を払ったぞ!
楽しいアトラクションをありがとう!とても楽しめた!」
「ただのいいお客さんじゃないの!」
「そういえば昨日からリオ先輩しか見てないけどあの寮長何してんの?」
「一昨日の祝日に見てはいけないものを見てしまったらしく
思い出すたびに心臓が破裂してしまうらしいから俺が代打で頑張っている!」
「あの人…ほんと肝心な時にしか役に立たないな」
「ナラク!遊助!次は秋組に来てくれ!いい物を見せよう」
「えー!?遊助行っちゃうの!?」
「悪いが順番は守ってもらうぞ!俺たちも冬組の番を考慮して巻きで動いている!」
「あ、ちゃんと話し合ってんだそこ…」
ーーーーーー
「すっげー!人形がひとりでに動いてる!
こっちはクラゲが浮いてるし!」
「美術館エリアを改装してコンセプトアート展とやらを作ってみた!
寮生の能力を使えるだけ使って実現させた期間限定の展覧会だぞ!」
秋組の展覧会は海を思わせる空間に様々な美術品が展示された幻想的な物だった。
「すげー!これ『人魚姫』がコンセプトになってんのか!
この小道具とか寮生が作ったの?」
「俺の手作りだ!」
「まじか!何でもできんなあんた!」
「リオ先輩、ここまでしてナラクを引き抜きたいの~?
本気出してきちゃってさあ」
「いや、暫くいろんな生徒に見せて使い回すつもりだぞ!
個人的に好みな女子等に見せる予定だ!」
「堂々と言う事かそれ」
「ほうほう、よく出来てるじゃんか」
声と共に突如、ミモザもといマーリンが現れる。
マーリンは遊助の腕をがっちりと抱いてご満悦そうに展示を眺めていた。
「うわ!?ミモザ=ステライト!?どこから出てきた!?」
「ずっといましたよ嫌だなー!遊助の傍に♡」
「全然気づかなかった…」
「秋組寮にいる間は私人間になれるから…やっと二人になれたね遊助!」
「いや、俺もいるんだけど」
「あー、馬鹿ナラク」
「ほんと可愛くねえなお前」
「君、何か今色んな寮に引き抜かれそうになってるらしいけど
浮かれてんじゃないわよ?いいように使われそうになってるだけなんだから」
「はいはい、ご忠告感謝します栄光の魔女サマ!」
「…でも、本当にいいの?祝日組寮から出て行って
あの王女様また泣いちゃうんじゃない?」
「な…何でそこでクレアが出てくんだよ!
別に学校は同じなんだから会いたきゃまた会えばいいじゃん」
「解ってないねー
あの王女様が自分から『会いたい』なんて言えると思う?
声をかけたりしたらナラクが周りから嫌われるかしら?
変な噂が立ったら決闘を申し込まれてしまうかも…
そんなこと考えちゃってもうまともに声もかけらんないよきっと」
「…ありそう…かも…」
「強くて自由な君は素晴らしい!
…でも、あの王女様は真逆だ
自分がやりたい事の間にいつも自分の存在と影響力が入ってきて衝突する
君が他の寮に行くってなれば『応援します』って言うだろうけど
…君はそれでいいの?」
「…」
「はーい!ストップ!そこまでにして頂戴!
何だか解んないけど次は冬組の番!」
ナラクが考え込んでいると、
秋組寮の扉を勢い良く開きマリーが元気に声を上げる。
「もうそんな時間か!」
「ま、ゆっくり考えるこったね
よくよく考えたら何で私が君に助言してやんなきゃなんないの、
腹立たしい」
「お前が勝手に言って来たんだろ!
…まあ、考えとく…
リオ先輩もありがとな!」
「ああ!是非うちの寮に来てくれよ!」
リオは輝くような笑顔で一同を見送った。




