63話「アリス」
一同は唖然とした様子で笑い合う二人を眺めていた。
「何か笑いあってる…?どういうことなの?」
「岸辺君もクレアちゃんも恋仲になる予定が無いって事では」
「なーんだ、ただの仲良しなら私も誘って欲しかったなー」
「しかしその…ふふ、なんだ…とんだ取り越し苦労じゃないか
あの二人には!笑ってて欲しいんだ!って…」
「笑うなよマティーニ先輩!こっちは真剣にだな…!」
「そーだそーだ!人の純情な感情を笑うとばちが当たるよ?えい!」
「つめた!」
エリが頬に当てた缶ジュースの冷たさに驚き、
マティーニの耳と尻尾が姿を現す。
「あはは!引っかかったー」
「この…!インターネットでまで知れ渡ってるらしいが関係ない!
この僕の耳を馬鹿にした奴は全員もれなく仕置きしてやる!」
「馬鹿にしてないよー!可愛いったら!」
「それがバカにしてるって言うんだ!」
「こらこら君達、そんなに騒いだら…」
シーザーが言い終わる前に遊助とクレアがこちらに気付き、
遊助が顔を赤くしながらこちらに近づいてくる。
「ちょっと皆!?こんなとこでなーにしてんの!?」
マティーニはエリにぐりぐりとげんこつを食らわせながら
「あー…ご、護衛だ護衛…クレアちゃんに変な虫が寄り付かないようにだな」
と言う。
「普通に気になって着けてただけだよ?」
「何で言ってしまうんだシーザー!」
「ご、ごめんなさい遊助…邪魔する気は無かったのだけれど その
私は止めたのよー…?」
「あんた一番割り込む気満々だったろうが!」
「どこまで聞いてた!?」
「え…その…クレアが遊助を追い抜いちゃおうかなってことまで…」
「全部じゃねえか!ちょっと趣味悪いんじゃない!?」
「まあまあ遊助、じゃあ遊助だったらどう?
例えば…マティーニとエリがデートしてたら」
「…何それ絶対あり得ないよ…!尾行して何があったのか確かめなきゃ!」
「あはは、そうなるでしょ?僕たちもそういう事で気になったのさ」
「えー?僕とクレアってそんなあり得ない組み合わせだと思われてたんだ!?」
「だって…ねえ?」
「なあ?」
「でも!クレアの好きなとこは沢山できたよ!
良く笑うし!センスいいし!
一緒にいると楽しい!…でしょ?」
「私も…同じです
遊助様は面白くて明るくて…一緒にいると笑顔になれます」
「おい!何言ってるんだ遊助!僕はもっといい所を言えるぞ!
声も可愛いし顔も可愛いし笑う時少し声が高くなるところがだな…!」
「…」
エリは騒がしくクレアの好きな所を語るマティーニを横目に、シーザーに駆け寄ると
「あのさ、ちょっとだけ時間ある?」
と言った。
ーーーーーーーーーーー
2人は早めに全員と別れると、
少ししっかりとしたアパートの一室にシーザーは押し込められた。
「おい!何のつもりだこんな怪しいとこに連れ込んで!
話があるって言ったから付いてきただけで…
へえ…君ってその…僕にそう言う気があったりするのか…?」
「何のこと?ごめん私着替えて来るからそこで待ってて!」
エリはそう言い残すと部屋の奥へ消えて行ってしまった。
(着替えるって…ルハートの噂は多少女子から聞いていた)
『あの子男にすぐ手出すんだよー?』
『ルハートさんとそういう事したって自慢してる男子いたし』
(ただ本人が全くそんな感じじゃないから
嫉妬した人間が吹聴したもんだと思っていたけど…
まさか…手を出されるのか!?
帰るべきだろうか…いやでも…)
シーザーが顔を真っ赤にしながら思考を巡らせていると
「お待たせ!」
そう言ってエリはコートを着て部屋の奥から出て来た。
「私が近づいても怖くない?」
エリはそう言ってシーザーに少しずつ近づいて行く。
「だだだ…だいじょうぶだけどその…
何で近づいて来るんだよ…」
シーザーが弱々しく言うと、エリがコートのボタンを外し始める。
「はっ!?おいおい待て!俺は別にそんなつもりで…!」
エリがコートを脱いで出てきたのは、「アリス」の衣装だった。
「…えっ」
「どう?ちょっとは慣れた?」
シーザーは少し固まった後、
「その服を着て…どうするつもりなんだ」
と震えた声で言う。
「え?どうって?この前倒れちゃって見れなかったでしょ?
今日はたくさん見ていいよ!」
「は?え?それ…だけ?」
「うん!ナラクが『俺の事務所貸してやるから撮影していいぞ』
って言ってくれたから!ほら、撮りなよ!」
「…」
シーザーは残念そうにため息を吐く。
「え!?何でそんながっかりしてるの!?」
「君、恥ずかしがってたのに何でその服着る気になったんだよ」
「夏組の時…助けてくれたんでしょ、あれ
マリー先輩が言ってたよ?
『シーザーは封がされてない飲み物は何が何でも飲まない』
って!わざと飲んだの?何でそんな無茶したのさ」
「別に…喉乾いてたから」
「秋組の時も助けてくれたよね
私あの時本当に辛かったから助かったよ
だからそのお礼!膝枕とかは嫌だけど…このくらいならやってあげる」
エリはシーザーを撫でると
「よしよし、偉いですねマスター」
と言う。
「可愛い…」
シーザーはニヤついた顔を咄嗟に顔を隠す。
「君…気持ち悪く無いの?
俺みたいなオタクに媚び売ってさ」
「別に?媚び売ってるんじゃなくってお礼だし
私普段の先輩よりこっちの方が好きだけどなー?」
「はあ!?そんな訳ないだろ!
人が普段どれだけ努力して王子を演じてると思ってんだ!
君はフルメイクしておしゃれしてきた彼女に
すっぴん部屋着の方が可愛いとかデリカシー無い事言う彼氏か!?」
「何で女目線の例えなの?
普段の先輩って誰にでもあんな感じで
全然特別な感じしないんだもん、誰にでも好きって言うしさ
でもさっきのは…ちょっと嬉しかったよ?」
エリはそう言ってにっこりと笑う。
シーザーは耳まで赤くした顔を背けると
「帰る!」
と言って不機嫌に玄関まで来ると
「…俺は自分の使命があるんだ…
君と馴れ合ってる暇なんてない
あまり興味を持たないでくれ」
と言って少しもエリを見ないまま部屋を出た。
「行っちゃった…
また返しそびれたな、これ」
エリはそう言ってアリスの人形を見つめた。
ーーーーーーーーーーーーナラク視点
エリとシーザーが帰った頃、ナラクは機会を逃すまいと
「エリとシーザーは早めに帰ったっぽいし俺も帰るわ」
そう言ってその場を離れようとする。
「えー?ナラク遊んでいかないの?」
「ゲーセンなる物に行こうという話になっているのだ、
モスコミュールも行かないか?」
「あんたらで行ったらいいだろ」
「クレーンゲームで欲しいのあったのにー!」
「知るか!またな!」
ナラクは不愛想に言い放つと、そそくさとその場を離れる。
(今はとにかくこの場にいるのが恥ずかしい…早く逃げねえと)
『あの二人には笑ってて欲しいんだ!』
(あーもー!何であんなこと言ったかなあ!
あの二人が紛らわしいことすっから変に熱くなっちまったじゃねえか!
クールダウンしよう、そうしよう…そうだ!
あの辺とか久しぶりに行ってみるか
開発中のあれも試したいし!)
ナラクが離れた後、クレアはそれを心配そうに目で追っていた。
「クレアちゃん、どうしたんだ?
ゲーセンに行きたいって言ったのは君だろう」
マティーニがクレアに尋ねる。
「えっと…あの…」
左手の薬指を抑えて何か考え込むクレアを見かね、マティーニが
「気になるなら追いかけたらどうだ?
僕が言うのもなんだが…人はずっと一緒にいられる訳じゃない
一緒にいれる内に伝えたい事は伝えておいた方が良いと思うぞ」
と言って優しく微笑む。
「マティーニ様…いいのですか?」
「ああ、僕は君と結婚するつもりだからね!
これからの人生の大半僕と一緒にいる事を思えば…
少し愚民と仲良くするくらい広い心で許すさ」
「ああ、なんかマティーニ様って色々ブレませんよね…」
「友は大事にするべきだ」
マティーニはそう言ってクレアの背中を押す。
クレアは薬指をぎゅっと握ると
「行ってきます!」
と言って走り去った。




