60話「夜明け」
「嘘だ!これだけのはず無い!あのマーリンの能力が…」
宛てが外れたサーシャは頭を掻きむしりながら言う。
「話は終わり?クラッカー鳴らすぞって言われて音が鳴らなかった時みたいな気分だよ」
首を振りながらシーザーがサーシャ近付いて行く。
「やめろ…来るな」
「なあ、秋組寮で騒いだらどうなるか知ってる?
まず僕が相手になるんだ、
なんかお前、僕のこと避けてたよな?
糸が付かないから?それとも操ろうとすると自分が操られるから?」
「…お前が…アルカナだからだ
シーザー=トニト」
ざわつくラウンジ。
「シーザー先輩が…アルカナ?」
「初耳ですね…」
「この学園で素顔と名前を偽っていいのはアルカナだけ
…マティーニと遊助の能力もコピー出来なかった
あいつらも多分本名じゃないか…顔が違う」
「君だから気づけたとこだねサーシャ
そうだよ、秋組寮長シーザー=トニトは
『塔のアルカナ』の称号を持っている
僕はマティーニ程正々堂々してないから秘密にしていたんだけど」
「近づくなって言ってるだろ!にやにやするな!」
「君は色々間違えた
1つ目は僕の友人に罪を着せた事
2つ目は僕の管理する寮の生徒を危険に晒した事
3つ目は…アリスを泣かせた事」
「アリス…誰?」
アシュリーの問いに、エリは困ったように
「さあ?」
と返す。
(っていうか!私はアリスじゃないし…!)
「償ってもらうよ、サーシャ」
「…!」
「「その裁き待ったー!」」
遠くから、大きな声で誰かが叫ぶ。
声の方向にはナラクと遊助、マリーの姿があった。
「ナラク!遊助!先輩…!生きてたんだね!」
「生きてはいますよそりゃ!」
「勝手に殺すな」
そして少し遅れてクレアとリオがラウンジに到着した。
「一足遅かったか、遊助達よりは早く駆け付けたかったんだが」
「間に合って良かったです」
「…無事だったか、リオ、クレア」
「ああ、この通りピンピンしてる!」
「全員再登場ってか
でも忘れてない?こっちにはまだ人質がいるってこと!」
「!」
クレアの近くにいた生徒が彼女の喉元にハサミを突きつける。
「この寮にはありとあらゆる場所に糸が張ってある!
天井を処理したくらいでなんとかなると思ったか?
動いたら王女陛下を殺す!下がれよ、お前ら」
「…糸だらけの寮か!そりゃいい!」
「…へ?」
「ならもう1人糸使いがいて
沢山の糸を巡らせたら…
簡単に絡まるよな?サーシャ」
「なっ…」
リオが指を曲げた瞬間、寮生達の動きが止まる。
カシャン、と音を立て
喉元に突きつけられたハサミが寮生の手から離れ、
寮生はまるで宙ぶらりんになったように静止してしまう。
「嘘だ…操作が…効かない!」
「今度こそ万事休すかな?じゃあ次はこっちの番!
ねえシーザー先輩?馬鹿な友達ぶっ飛ばすのは僕の役目でも問題なし?」
遊助が言うと
「ご自由に」
とシーザーは答える。
「天よ、我が声に応え給え」
遊助が剣を出す、そして
「ソード」
もう一本剣を出すとそれをサーシャに投げた。
「おいおい何してんだよお前!」
ナラクが呆れて言う。
「いいじゃん、どうせ終わるなら最後まで派手な方がさ
サーシャ、立ちなよ
僕と戦おうぜ?どうせなら強敵とやりあって終幕した方がいいだろう?」
「まあ…!なんて素敵なの!
遊助ったらまるでスペードの3みたい…!」
観戦していたミモザが興奮気味に叫ぶ。
「岸辺君が?愚者ならジョーカーでは?」
アシュリーが不思議そうに尋ねる。
「いいや!こんな状況でも楽しそうに笑うあの姿…
私の知っているスペードの3と瓜二つさ」
「ミモザちゃんの…知ってる…?」
「僕は君を切っても欲しか切れないけど?
君は僕をそれで殺せるよ
どう?やる?」
「…やる!君のおかげで俺の計画は全て台無しだからね!
ここで決着を付けてやる!」
ガチン!
刃が衝突する音が寮に響く。
「なあ、君の能力凄いじゃん
顔と名前が分かればコピーできるなんてさ」
「君の能力に比べたらっ…!人並みな能力だけどね!制約も多い…」
「昔話しようか、サーシャ
僕は元々…無能力の落ちこぼれだった」
「はあ…はあ…え…?」
「天使に会うまで…自分をゴミだと卑下して人生解った気になってたよ
…そこで虐げてきた全てが敵だった。
言ったろ?僕の能力は…天使の加護
天使から貰った物で…僕の物じゃない
命も能力も借りものさ」
「はっ…あ…何…そんな訳…!」
「君の気持ち、分かるから腹が立つ
君は僕の…存在しない分岐点だ」
「…っ!知ったふうな口効くな!
はあ…!この剣、重いんだよ…!
なんでこんな重いもん振り回して君は平気なんだ!
俺と同じくらい動いてるのに息の…!
ひとつも荒らげないで…!
これじゃっ…これじゃ俺がっ
能力だけにあぐらかいてる大嫌いなあいつらとっ…!
虐めてきたっ…!あいつらと!
同じみたいじゃないか!」
サーシャは泣きながら遊助に切りかかる。
そして遊助はその隙にサーシャの胴体を切りつけ、
サーシャはまるで気絶したかのように眠った。
「…ほんとだ、この剣おっも!
遊助、ズルしてないよね」
サーシャの手から放れた剣を持ち上げ、エリ言う。
「どれ?」
「うわ!ちょっと急に現れないでよ…!」
シーザーがエリの持っていた剣をを後ろから奪い、
重さを確かめるように上下させる。
「レギュレーション的には…問題ない重さだね
君のその剣の方が重いんじゃない?」
「企業秘密!この子どうする?」
「閉じ込めるしかないね、現状は…遊助」
「ん」
「ありがとう」
シーザーはそう言うと深々と頭を下げた。
「おわ!?やめてくださいよ皆の前で!」
「どこだろうと関係ないよ、
寮長として恥ずかしいが僕は少々…いやかなり鈍くてね
小さな歪みに勘付いてはいたが未然に防ぐことは出来ずに
こんな事に巻き込んでしまった」
「そうそう、うちの寮長解決は早いけど問題は起こすもんな」
「肝心な時じゃないと役に立たないから」
あはは、と笑いながら寮生たちは一斉に頭を下げ
「寮生からも礼を言うよ!ありがとうございました!」
と言って遊助に向かって礼をした。
「どういたしまして!」
遊助はそう言ってにかりと笑い、
人知れずサーシャに駆け寄り心配そうに見つめるリオを見て、
少し悲しそうに瞳を閉じた。
ーーー
翌朝、僕達は秋組寮の食堂に呼び出された。
「まずは解決おめでとう!そしてありがとう!皆の衆!先生達は嬉しいよー」
ルイ先生が嬉々として言う。
「ごめんなさい…冬組寮や夏組寮の生徒まで巻き込んで…こんな大事になるなんて」
ロゼ先生は申し訳なさそうに夏組のメンバーに頭を下げていた。
「え?いやいや!そんな…」
「気にしなくて結構ですよ、私達が望んで参加した事ですので
ね?塙君」
「ヒッ…!?た、楽しかったギョ!」
「私は点数稼ぎが出来たし文句はないわ
…憧れの人とも会えたし」
マリー先輩はそう言って隣にいたミモザを見る。
「あの、そう言えばこの子誰…?
授業でも見た事ないんだけど」
ロゼ先生がミモザを見ながら言う。
「おやあ?認識魔法がこの先生には効いてない?」
「ごめんね、この先生洗脳されないお守り付けてるから
実験も兼ねて持たせた物だが効果があった様で何より」
「え!?このネックレスってそうなの…!?
てっきりプレゼントなのかと…」
「私は妖精…まあ説明しても長いし!
ここにいる座敷わらしとでも思ってて!」
「…はあ」
「まあその子は一旦置いておいてさ!
ひとまず皆ご苦労さま!
今回は皆大幅加点だってリンドバーグ先生が言ってたよー!
…うちは減点されたけど」
フラン先生が肩を落としながら言う。
まあ…サーシャにやりたい放題されたわけだし仕方ないと言えば仕方ない…か?
「当然の事だな」
「夏組寮まで点数を頂いてしまって…
私はただ愛する人を守りたかっただけだったのだけれど」
「ねえティナ先輩このお菓子うんまいよ!」
「あ、聞いてないわねこれ」
「今回の件で…いじめの件をしっかり認識出来ていなかった
教師陣の愚かさに気づいたよ
生徒間のトラブルには関わらないのが掟…
だけど、精神的なケアくらいは出来たはずだ
…無能力の生徒は、このアカデミーにも結構いる
これからはしっかり目を光らせておくよ、約束する」
ルイ先生がそう言って頭を下げると、ロゼ先生もそれに続いて頭を下げた。
「今回の件は本当ににお世話になりました、
今度またお礼させて!」
「私も!困ったらいつでもかけつけるから!」
「…じゃあシュタイン君、今日飲みにでも…」
「リカルド君のとこにじゃないよ!?生徒のとこに!」
賑やかに皆が笑ってる。
これで良かったと思う一方、どうしても気になる事がひとつある。
「…ねえ先生達、サーシャはどうなるの?」
僕の質問で食堂は静まり返る。
「退学…に…なる…と思う…
暴動を起こして女王陛下の喉にハサミを突きつけた罪はそう軽くはならないわ
避けられても、この寮にはもういられない…」
ロゼ先生が口篭りながら言う。
「そんな…何とかならないんですか先生!
こいつは…!俺が指導しますから!」
リオ先輩が言い、
「僕からもお願いします、今回の事はいじめに気付けなかった僕に非があります
彼には然るべき指導を致しますのでどうか、最悪の処分だけは」
シーザー先輩も続く。
リオ先輩…あんな事されてまだあんなにサーシャの事…
2人を見ながら困惑して顔を見合わせる先生達。
「そうは言っても…これは私たちだけじゃどうにも」
彼女が言い切る前に、
「その問題、私が預からせて頂きます!」
とクレアが声を上げた。




