6話「マティーニ」
岸辺遊助:「愚者」のアルカナ 欲を切れる。
クレア=エバンス:王女 マティーニと結婚したくない。
エリ=ルハート:存在するだけで周りを魅了する。
マティーニ=アルゴリア:アルカナ クレアと結婚したい
「ねえ、マティーニ様、私と結婚してくれる?」
「何で?」
「マティーニ様がかっこよくて、優しくて、大好きだからです」
「無理だよ、だって―」
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「おい?あいつかあ?クレア王女の婚約者」
「アルカナらしいぜ…?」
「嫌になっちゃう、こっちは人生賭けて来てんのにさ」
有象無象が僕を見てひそひそを何か喚いているが、
何を言われても気にしない。
何故ならこの状況は僕にとって大変好都合だからだ。
この学園における「決闘」の掟は硬い。
例えば決闘を受けてさえしまえば退学帰省も思いのまま!
誰か僕に決闘を持ちかけて、「負けたら退学しろ」とか言ってくれないもんかなぁ
「そこの愚民!止まれ!」
「?」
「ふん、愚民らしい鈍い反応だ
上だよ、上」
俺が上を向くと、ひどく偉そうな奴がそこにいた。
「我は天上の者、マティーニ=アルゴリア
貴様に決闘を申し込みに来た」
「へえ、何を賭けるの?」
「…私が勝ったら…貴様はこの学校を辞めてもらう…貴様は何を望む?」
きたー!
奴は「王女の婚約者候補最有力」と噂のある学校最強の男!
同じ「アルカナ」同士だし僕の格も守られる!
いい相手じゃないか!
でも…そうだな、勝った時の条件…考えた事無かった
どうせ負けるって言ったって考えなしでは華がない
「決闘はやりたい!けど、条件については
ちょっと時間をくれないか、思いつかないんだよ
あんたに恨みとか無いし…」
「望みが無いのに決闘を受けるのか?」
「ま、そんなとこ」
僕がそう言ってヘラヘラ笑うと、マティーニは僕を訝しそうに睨んだ。
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「絶対に受けてはいけません!」
クレアが声を荒げる。
彼女の顔は耳まで真っ赤で、相当今回の事にお怒りらしい。
「なんで?」
「だって…だって…あの方、苦手なんです
私に興味ないくせに求婚してくるし
…話は通じないですし、しつこいし」
「そんだけ?」
「じゅ、充分な理由ですよ!」
「よーく聞きなよオージョサマ、俺が君と偽婚約してやってんのは強い奴と決闘して!負けて!早くヒノモトに帰る為!
今僕が奴と戦わなくていつ戦うんだって話!
だから君の意見が弱いなら却下だ」
「ね!それ気になってたんだけどさ!
どうしてそんなに故郷に帰りたいの?
ここで私たちといるのも絶対楽しいよ?」
「僕が帰りたいのはやりたい事があるから!
…師匠とか友達もあっちにいるし」
「師匠って、あの凄い魔法使いの人?アル…」
「『太陽』のアルカナ、アルドリリア様です
この学校の校長…リンドバーグ様と肩を並べる大変偉大な魔法使いなんですよ」
「そんな人の弟子なんだ!凄いね!」
「惚れちゃう?」
「それは別に!」
「俺、師匠の事嫌いだけど尊敬はしてんの
あんな強い男そういないってね
師匠、出て行く時もうるさくてさぁ」
「えー?いかないでー!って?」
『僕も連れて行って!可愛くて優秀な子が沢山いるらしいじゃんか!
僕もそこで嫁探すー!』
「…って」
僕が言うとクレアは蒼白な顔で
「アルドリリア様ってリンドバーグ様とお歳一緒だったような…?」
と言う。
確か232歳だったかな…ジジイの癖に本当に元気なもんだ。
「あの人耳長かったしエルフでしょ?なら200歳で20歳くらいの換算だよ、多分」
「エリ、詳しいのね」
「専攻が人種研究だったから」
「そそ、ジジイのくせにエルフだから体力有り余ってて厄介なの!
しかも魔力もすんごくって!
本当、色々俺が世話してやんないとすぐトラブル起こすんだぜ」
「大好きなんだね、オシショーサマの事」
エリが優しく言うと
「…嫌いだってば」
僕はそう呟いて下を向いた。
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しっかしなあー…マティーニにして欲しい事…確か金銭のやりとりは駄目だから、
そうだ!あの高そうなイヤリングを貰って売るとか…
「やあ、悩んでるね」
「おわ!?
あ、あなたは「秋組」寮長の…」
「あ、知ってくれてるんだ!光栄だよ」
当たり前だ!あんたの事は学校に来る前から知ってる…
「シーザー・トニト」
リトリスの隣にあるイリス王国の第2王子で
すっごい モテる!
去年こいつと同じパーティーに参加した時可愛い女子はみんなこいつの所にいた…!
忘れてやるもんか!
いつかギャフンとその涼しーい顔を崩してやるからな。
「あ、あはは、シーザー先輩を知らない人なんかいる訳ないじゃないですか」
「それはどうもありがとう!
それにしても君、凄いね?学校が開いてから今までの間、君の話題で学校は持ちきりだ」
「いや、あはは…」
学校どころか全世界のネット掲示板でも叩かれまくってるよ。
「君の考え事を当てようか、
マティーニに何させるか考えていたんでしょ?」
「さっすが!解っちゃいますか」
「ああ、僕もそれが気になってるくらいだからね
何させるつもりなの?あの鼻っ柱の高い王子様にさ」
「何なら面白いと思います?」
「どうせ負ける気の人に案を出すのは馬鹿げてるが
そうだな、君が彼を深く理解すれば
気が変わってコテンパンにしたくなるかもよ」
「負けるつもりなのバレてた?」
「勿論!何となくだけど、君と僕は気が合うと思うんだよね
だから君の考えもよくわかる
もっと言えば…君はあのマティーニという男を気に入ると思う
今日彼の主催する覆面パーティにおいで
そこできっと君は思うよ
いじめてやろうってね」
そう言ってシーザーは僕に招待状を渡した。
何考えてんだ?こいつ…ヘラヘラしてて不気味な男だ。