51話「塙」
リオ兄さまと塙様と一緒になった私は、
遊助様に言われた通りブレーカー室を目指していた。
「塙だったか!何か君すごいな!
どんな悪い事をしたら君みたいな事になるんだい!?」
リオ兄さまが無邪気に問う。
「…散々人を利用した挙句複数の人間に傷害を加えたからギョ!」
「はは!最悪だな!」
声と語尾は可愛いのに言ってる事がまるで可愛くない…
「あの、ブレーカー室って教師の皆様が一旦調べているんですよね?
私たちが改めて調べる事ってあるのでしょうか?」
「教師陣もまたしっかりとは調べられていないそうだ!
あくまで機能的に故障が無いかどうかの確認しかしてないらしい!
だから細かい所を俺たちがこれから調べるって訳だ!」
なるほど…
納得していると、廊下の奥から生徒が走ってきて
「副寮長すみません~!カフェの方で揉め事が起きてるらしくって…
マリー寮長が『ケーキが甘くない』って暴れてるらしいんです
今から止めて貰えませんか…?」
「それは大変だ!注意して来よう!
悪いがクレア、塙!先にブレーカー室を調べていてくれ」
「は、はい!」
しかし、リオ兄さまを見送って気付く。
いや…でもちょっと待って…!?この方と二人にされるのってちょっと困るかも…!
男性か女性かもわからないしたまに痺れた様な不思議な動きもするし
どう関わったらいいのかしら!?
「何、おいらを見たって何にもならないギョ
早くブレーカー室まで行こうギョ」
彼?はそう言うと速足で廊下の先へと消えて行った。
わ、私も追いつかないと…!
ブレーカー室に着くと、やけに埃っぽいのが気になった。
「あの…大丈夫なんですか?その服?で埃って…
動きにくそうですし」
「大丈夫じゃないギョ、多分クリーニ…お風呂に入る羽目になるギョ」
塙さんはそう言ってぎゅうぎゅうになりながらもブレイカー室の奥へどんどん足を進めて行く。
私も恐る恐る入るが、そもそもこんな仰々しい機械のどこを見たらいいのかわからない。
「ブレーカーの動作は問題ないギョ、
強いて言うならこの埃の多さは良くないけど…ギョ」
「解るんですか?」
「まあね、良く夏組のブレーカーとか点検してたギョ
この様子を見るにリオはサボってたみたいギョ」
私は感心しながら塙さんを見る。
この方、初めて会った時は不安だったけどかなり有能な方の様だわ…!
「…あん?」
塙さんが何かに気付き、こちらに手招きする。
「これ何ギョ?」
彼がそう言って見せて来たのは、透明な糸の様な物だった。
「蜘蛛の巣じゃないんですか?」
「違うギョ、それにしちゃ硬度が結構あるギョ
ピアノ線に近いかな…?ん゛ん…!」
そこまで言うと彼はまた痺れた様子で悲鳴を上げる。
「ピアノ線に近いギョ…!もう語尾は忘れませんギョォ…!」
や、やっぱりちょっと怖い…
私が糸の近くをよく見ていると、埃の下に何かが埋まっているのが確認できた。
「あの!塙様!何か埋まっています!」
私が取り出そうとすると
「指紋つけちゃうし埃が汚いからいいギョ、おいらが取る」
そう言ってほこりを払い、「それ」を取り出す。
「-っ!」
私は思わず口を覆ってしまった。
これは…リオ兄さまの人形だわ!
「これって…リオが会議中良くいじってた人形じゃない?ギョ
何でこんなとこに…」
「その子は花子って言うんだ」
「「!?」」
突如聞こえて来たリオ兄さまの声に、私達は思わず身構える。
「信じて貰えんだろうが…かなり前にいなくなってしまったと思っていた
こんなところにあったとはな
俺の能力なら生体センサーをかいくぐって
人形を使いブレーカーを落とせる。
どうする?それって結構有力な証拠なんじゃないか?
職員室の先生方に話に行った方が良いだろう」
あくまで笑顔を崩さず、淡々と兄さまが言う。
違うって言いたい…けど…何も言葉が出て来ない…
「何言ってるギョ、時系列を考えたらこの人形がこんな埃被ってる時点で
昨日今日で置かれたものじゃないって解るギョ
普通に考えてこれはあんたが点検時に落としたか…
犯人に罪を着せられそうになってるかのどっちかしかないギョ」
「…!」
すごい…咄嗟にそんな判断まで出来るなんて…!
この方何者なのかしら!?
「落とすのはあり得ない、糸で繋がっているからな
…だとしたら残るは」
「盗まれたんギョね…」
「花子はスタメンじゃないからずっと俺の部屋に待機していた筈だ」
「あんた、最近部屋に人入れたギョ?」
「結構招いているから…解らないな
そうだ、丁度2週間前に友達が部屋を掃除してくれたぞ
メンバーはジョンとマイク…シーザーにサーシャだ」
「シーザーが掃除ぃ?
あの坊ちゃんにそんなこと任せるとか命知らずだねあんた…ギョ」
「ああ!
『君ってさ、こういうの折角だから女子にやってもらおうとか思わないわけ?
全員男じゃないか!』
とか言いながら結局最後まで付き合ってくれたぞ!」
ああ、シーザーお兄様らしい…
「じゃあそのメンバーは一応容疑者としてありギョね…
…そう言えば聞きたかったギョ
サーシャの能力って何ギョ?」
「死霊の使役って聞いたぞ?」
「ヒエッ おぞましいギョ」
「どういう能力かいまいち把握が難しいので…
合流したら改めて教えて貰いましょうか」
「そうだな!じゃあ一旦戻ろうか」
「ま、待って!」
「…?」
「本当に…リオ兄さまでは無いのですよね?
その、埃の中にこの糸が…」
私が彼に糸を見せる。
「その糸とリオに何の関係があるギョ」
「リオ兄さまの能力は人形を操るとかそんな単純な物じゃなくって…
『糸』を操る能力者なんです…」
「…?」
塙様が想像に困っていると、リオ兄さまが私の制服のリボンの紐部分をクイっと持ち上げる。
「つまりは操る対象は人形じゃなくてもいいって訳だ、人でも」
彼はそう言ってにこやかに笑って見せる。
「あんたは…なんでそんな不利な情報ばっか出すんギョ」
「公平な目で判断してもらいたいからな!
信じて欲しいが、最終的な判断は君達に委ねるよ」
「リオ兄さま!」
私は強く彼の名前を叫ぶ。
「…何?」
「その…別に最悪犯人にされたって構わないって態度、気に入りませんわ!
もっと自分じゃないとはっきり断言されては如何ですの!?
兄さまは昔からそう、何か揉め事があるといつも自分を犠牲にする…
何か知っていることがあるなら話して下さい!」
「クレア…」
彼はゆっくり私に近寄ると、私の顎を持ち上げて
「踏み込むなって言ったろ?」
と静かに言う。
その顔はいつもの主人公みたいな笑顔ではなく、
仮面の様な冷たい物だった。
「…!」
「最後に会った日、忘れてないよね
あの日確かに俺は言ったよ、君と俺の生きる世界は違う
俺に興味を持つな、踏み込むなって
…いつまで妹気分なんだよ、もう他人だろ?俺達…」
私達は睨み合う。
他人なんかじゃない…!私は今だって、
あなたを兄のように思っているのに…!
「こほん!あのお…」
私達の緊張を割くかのように、一人の生徒がおずおずとブレーカー室に入って来る。
「ああすまない!どうしたんだい?」
彼はいつもの「主人公」に戻ると、
生徒に駆け寄ってそう尋ねる。
「あの…寮長が帰って来たのですが…その、様子が…」
「?」




