5話「婚約成立」
始業式当日、
講堂につくと、エリやクレアと別れて席に着かされた。
席順は学年順ではない、
「話題性が高い生徒」が前に…エリのように人の目に触れては不都合な生徒が後ろになるようになっている。
そして…1番前にはカメラが1台。
要はメディアに訴えかける為の席順だ。
伝説とも言われる「リンドバーグ」校長
が新入生を歓迎する。
シワの深い威厳たっぷりの校長のありがたいお言葉が終わると、生徒代表の男子生徒にバトンタッチする
「生徒の皆様、この度はご入学ありがとうございます…」
「あっ」
思わず声を上げてしまった…
あの男、間違いない!昨日鏡の中で戦ったあいつだ…!生徒代表だったのか!
運悪く最前列にいた僕は、彼に一瞬睨まれてしまった。
「生徒代表、『マティーニ・アルゴリア』」
マティーニ…!そうだ!マティーニだ!
去年行事で見かけたぞ!
『皇帝』のアルカナだったはず…
なるほどね、僕は昨日あれと戦ったんだ
しかし凄い場所だな…
世界に22人しかいないアルカナがもうこの学校に3人いるぞ?
どうせ探せばまだいるのだろう…本当に王族とは恐ろしい物だ。
マティーニは当たり障り無い挨拶を終えると、
王女に礼をして去っていく。
はあー、王女サマの好感度を稼ぎたくて必死みたいだな
嫌われているとも知らず。
彼と入れ替わり講壇に立ったのは王女その人だった。
遠くから見ても解るその気高さ、美しさに講堂にいる誰もが息を飲む。
結婚なんかしないと啖呵をきった僕でさえ
彼女の美しさには目を奪われてしまう
「皆様、この度は私の婚約者選定の為この学び舎にお集まり頂きありがとうございます。
各国の優秀な魔法使いが、我が国の誇る『ウィザーアカデミー』で青春の日を過ごされる事を誇りに思います。
数々の出会いを経て充実した学園生活を過ごして行きたいと考えております。
…しかし…皆様には謝罪しなければならない事がございます。」
ザワ…
「私、既に心に決めた方がいらっしゃるのです!今!ここに!」
…はえ?
ザワつく講堂、そりゃそうだ
だってこいつら全員3年間の内に王女を射止めようとわざわざ集まってきた奴らだぞ
なのに王女には既に想い人がいるときた、これは大事件だろう。
誰なんだ?王女の想い人ってのは…!
「その方は…岸辺遊助様です」
ん?
…皆、一瞬で俺を見る
……遊助?
…………僕かーーー!?
凄まじい殺気が一斉に僕に向けられる。
あの女…さては僕が朝啖呵切ったのを根に持ってやがるな!
「ご存知かとは思いますが…私が婚約者を変更する事は決闘に岸辺様が負ける事が無い限り有り得ませんので
皆様もご理解の程よろしくお願い致します 」
な、何で…少なくとも昨日は共に試練を乗り越えた仲じゃないか
どうしてこうなるんだよー!
ーーーー
「ごめんなさい!なんの説明も無しに、こんなー!」
クレアが深く頭を下げる。
朝、仲良く登校したメンバーで輪になって
独特な緊張感を醸し出しながら昼食を貪る様は他人から見たらさぞ滑稽な事だろう。
「あの、クレアさ…私にキスしようとしたのもそうだけど、究極的に惚れっぽいの?」
「違います!わ、私はただその
あなたに…賭けてみたくて」
「人生を!?ロマンチック!」
「違いますったら!
岸辺様は朝…仰いました 全世界に向けて
『王女とは絶対に結婚しない』と…」
「言った」
「言ってた」
「私…実はその本当に想い人がいるのです
…昔から…心に決めた方が」
「この学校にはいない人?」
「いやえっとその…いな…いと…いったらそうだしいると言ったら…もにょもにょ」
エリの問いに彼女は口ごもる。
こりゃ…「いる」んだな、この学校にその想い人が。
「要は王女サマが3年間婚約者を選ばなくていい口実として囮にされたわけ?」
「…っ…はい」
「ひどいなあ、相談位してくれたって良かったのに。
僕が死んだら責任取れるの?」
「取れません…けど…
岸辺様はお強いので 死にません」
「死なないって…そんなの言い切れ」
「死にません あなたは…この学校の誰よりも強い…いえ、強くなる!」
エリが僕の方をじっと見つめる。
なるほどね、王女サマが「賭けた」のは
僕の強さにか
「岸辺様、ここでこう言ってはなんですが、私はリトリス王室の王女!
世界への影響力は非常に高いと言えます
今の内に恩を売っておけばきっと貴方の力になりますよ!」
「…まあ…ね」
「だからお願い!共に手を組みましょう!
決闘だなんだと言ってくる人間をバッタバッタとなぎ倒し!
3年間を何事も無く過ごし!卒業した暁には…潔く破局致しましょう」
「…いいね、乗った
早めに負けたらこの学校辞められるかもしれないし」
「え?うそ?てことは2人とも…婚約した!?」
「よろしくお願いします、遊助様」
「よろしくね、クレア」
「えーーー!何か軽くない!?」
エリの叫びも虚しく、晴れて2人は婚約関係となったのであった。