47話「秋組担当教師」
職員室に入ると僕は驚愕する。
2人の先生が在中しており、そこそこ広い空間でせっせと事務仕事をしていた
うちには1人しか教師はいないし、何なら結構不在も多いし、
いるときは新聞を読んでるかスマホしてるかのどっちかだってのに…
「トニト君!来たわね!…どうかした?」
「ああいえ、先生方は今日も熱心にお仕事をされていて僕も見習わなくてはと」
「また変なおべっか言って…ふふ、ありがとう
あのね、話したいのは昨日起こったことについてなんだけど」
「昨日…?すみません、色々あったものですから…どの件でしょう」
「ああ…トニト君忙しいもんね
『昨日の美術品が消えた件』について…ちょっと報告が」
「…続けて下さい」
「昨日の夜盗まれた美術品が何故か返却されていたみたいなの
今日の午前、よりにもよって私だけが残ってる時に…
最近生徒の間で変な噂も流行ってるでしょ?
また再発しないようにしっかり見ていて欲しいのよ」
「噂って、妖精の事ですか?」
「そう!夜に妖精を呼んだら何でも答えてくれるとかいう、あの…!
オカルト的で不気味ったらありゃしない!」
僕が聞いた話とはだいぶ違うな…
「頼んだよ!…ん?」
「どうかしました?」
「いや…なんだか…君、本当にトニト君?」
僕はギクッと肩を強張らせる。
何故違和感を!?僕の演技は完全だったはず!
「もちろんですよ!僕がシーザーではなくて誰がシーザーだって言うんです?」
「なんかオーラがね…きれいなんだ」
「お、オーラ!?」
「シーザー君のはもうちょっと不透明で…震えてて…
悩みが無くなっただけなのかな?
いやでも彼の悩みがそんな簡単に消える訳…」
ま、まずい!シーザー先輩っぽいことしてごまかさないと!
シーザー先輩っぽい事…シーザー先輩っぽい事…!
僕は壁際にロゼ先生を追い込み、ドン!と一発壁を叩いた
「ひょわ!?」
「先生…!僕のオーラではなく顔をよく見て頂きたい…!
この顔が!目が!偽りであると言いたいんですか…!」
「ちょっとちょっと職員室で何やってんのシーザー君!?うわ、僕壁ドン始めて見た」
呑気に言うのは美術の「フラン・シャンパーニュ」先生
この先生は大雑把な先生だから多分演技で騙せる!
だからロゼ先生の信用だけは何とか勝ち取らないと…!
「ロゼ先生…!」
僕は真剣な面持ちで彼女に詰め寄る。
この顔なら…!この顔ならきっと誤魔化せるはず!
「ちょちょちょ…!ええ!?」
ロゼ先生が目を白黒させていると
「フィルスト」
という聞きなじみのある低い声が響き、僕の目線がみるみる低くなっていく
「わ…え?…リカルド君?」
「生徒相手に茹蛸みたいな顔色で何をしているんだいシュタイン君」
「あわわわ…!急に壁にドンされてびっくりしただけ!
それよりこの子あなたのとこの生徒でしょ!?
勝手に忍び込んでたみたいなんですけど!」
「それは失敬…吾輩も遊助君が何故ここにいるのか知らない物でね
何でいるの?」
「よ、妖精調査!願いをかなえて貰えるって言うメルヘンな噂を聞きつけたもんで!先生こそ何でさ!?」
「なるほど。吾輩もその件について先生に頼もうとしていた所だよ」
「へ?な、何を…」
「この前の会議で紹介したろ、『お悩み解決部』」
「ああ、あのやけにかわいい挿絵の…」
「今噂の『妖精騒ぎ』をうちに解決させてくれないかと交渉しに来た
幸いこの寮の先生方とは仲良しだ、きっといいと言ってくれるだろう」
「は、はあ!?リカルド君と仲良くなった覚えない!
アルカナだからっていっつも私を馬鹿にして…!」
「僕はリッキーと仲いいよ!先週ヒノモト土産も貰ったし!」
「…私は貰ってないんだけど」
上機嫌に言うフラン先生に対し、ロゼ先生はやけに不機嫌に言う。
「失礼、君には特別な物を渡したかったからね
少々高価なものだからあげるのに勇気が必要だったんだ」
「え…こ、高価なもの…!?なんだろ」
「木彫りの熊」
「いらない!!!!」
「三万ゴールドもしたのに…?」
「いらないよ!でかいし重いし…!何処にしまってたの!?」
ロゼ先生、リカルド先生に気に入られちゃってるな…可哀想に
「それでどうだろうか?うちに妖精騒ぎの調査を任せてみないか?」
「そうはいってもただ色々教えてくれるだけの可愛いお呪いの類でしょ?
夏組の人魚と違って実害少ないしなー」
足をバタバタさせながらフラン先生が言う。
「私はやめて欲しいかも…妖精とか言って悪い精霊召還の類だったら嫌だもん
君…岸辺君だったよね?アルカナらしいし、
調査してくれるなら頼もしいな」
うひょー!美人に頼られちゃった!こんなんやるしかないでしょ!
「…フラン君はどうだろうか、シュタイン君はこう言ってるけど」
「そうだねー、僕はそっちより盗難事件の方が気になるからそっちを調べて欲しいけども」
「盗難?」
「そこまでは聞いてなかったか…
美術品が昨日盗まれて返却されてたの。
戻って来たモノは鑑定済みで、本物で間違いないそうよ。
盗まれたのは昔寮生だった偉大な魔女
『マーリン』が描いたとされる絵なんだけど…」
「そんな大事なもん盗まれちゃったの?」
リカルド先生が問うと
「しょ、しょうがないじゃない!
セキュリティは万全だったはずなのに何故かなくなってたんだから!」
と涙目になりながらロゼ先生が答える。
「何故かじゃないでしょ?盗まれた時一瞬停電したんだよ
人が入った形跡は無かったのにブレーカーが落ちたんだ
…それでその隙に」
「そこまでして盗んだのにどうして大人しく返したんだろう?」
僕が言うと、
「それを調べて欲しいな、君たちに」
そう言ってフラン先生がペンをくるくるしながら僕とリカルド先生を指した。
「了解した、じゃあ祝日寮の皆で『盗難事件』の真相を探ろうじゃないか
いいかね?先生方」
「やってくれるなら…助かるけど
寮長達にちゃんとお話しして欲しいな
特に副寮長はこの件にかなり熱いれてるから」
「なんで?」
「…その、能力的に万能だから…
犯人なんじゃないかって疑われてるの」
そりゃあ可哀想に。
「僕は違うと思うけどなー?今シーザー君は不在みたいだからリオ君にだけでも声かけてみて
彼の能力は強いよー、頼りになると思う」
「あいわかった 行くぞ遊助君」
「話が早いねー
また来ます!先生方!」
僕はそう言って意気揚々と職員室から出て行った。
正直妖精とかホープダイヤとか…そこら辺の話は突飛すぎて魅力を感じない。
実際に起こった事件の調査の方が楽しそう!
ーーーーーーー エリ視点
私はナラクに助けられた後、二人で寮に戻っていた。
ナラクって案外物知りで話も面白いから、
あの様子を見るに狙ってる女子が多いんだろうなー。
でもちょっと解る、ナラクっていい奴だもん
「あ、ごめん…ちょっと連絡が来たから見るわ」
彼はそう言ってスマホに目線を落とす。
「お仕事の連絡?」
「いーや?友達…俺、ずっと北に住んでたから会った事なくて
明日のイベントで初めて会うんだけどさ
…何かこいつ、最近ずっと悩んでんだ」
「話聞いてあげてるんだ」
「まあな…こいつの喜ぶ事でもしてやれればいいんだけど」
ナラクは言い切ると私の顔をじっと見る。
「え…え、何?」
私が赤面しながらバッグで顔を隠すと、
「エリ!イベントに一緒に来いよ!
エリってフユカイザー…俺の友達の推しに似ててさ!
コスプレとか見せたら絶対喜ぶって!」
「こすぷれぇ!?」
コスプレってあの…!き、際どい服着て男の人に写真とか撮られちゃうあれ?
そんなの…!高校生でやっていいわけ…!?
でもナラクの目、輝いちゃってるしなんか断りづらい雰囲気!
「もしやってくれたらエリがやってたゲームの続編全部貸すぜ!
なんなら特典とかもあげるし!な!」
こうなるとナラクって止まんないんだよなあ…
「い、いいよわかった!…因みにその…私が着る衣装ってどんなの?」
「あ?ああ、ほらゲーム付けてみろよ
この子!」
そう言ってナラクが指差したのはアリスだった。
アリスって胸とか開いてるし…!こんな格好するわけ!?
「寮に帰ったら早速どういう風に仕上げるかとか話そうぜ!」
私の動揺をよそにナラクはそう言ってご機嫌に寮へ入って行く。
「…しょうがない、付き合うか」
寮に帰ると、クレアが嬉しそうに立ち上がり
「おかえりなさい!お二人とも少し遅かったですね!」
と言う。
クレアはここに住んでいないはずだけど、放課後には必ずここに立ち寄っている、
よっぽど寮生の事が好きなんだね。
私と違ってクレアは「友達を作れない」人ではない、意図的に人を選んでいるように感じるのはきっと気のせいではないだろう。
その中でこんな好意の目を向けてくれること自体、私にとっては嬉しい事だ。
「ただいまクレア!お茶してたの?私もお菓子食べたい!」
そう言ってクレアの隣に座ろうとすると
「何言ってんだ!時は一刻を争う、エリはこっち!」
と言って腕を掴まれてしまった。
「お二人とも、何か用事が…?」
「明日イベントにエリを連れてくんだ、でかいイベントだから集合とかしっかり話し合わないとグダグダになるんだよ
ほらエリ、客間で会議すんぞ」
「ええー?クレアも一緒じゃダメなわけ?」
「駄目!絶対話逸れんだろ!
そもそもオタクイベントの話なんかしたってクレアが困るし」
「あー…それもそっか?」
ナラクは何か言いたげなクレアに目もくれず、客間に私を引きずり込んでしまう。
扉の先で私たちを見送るクレアの目は…寂しいという感情と、怒りの感情で黒々としているように見えた。
(クレア!解って…!ナラクは一旦こうなっちゃうと手に負えないの!)




