46話「秋組の妖精」
「妖精?」
「そう、秋組で夜寝れずに徘徊していると…妖精が現れてこう言うんだって」
あなたの願いを1つ、叶えてあげる
ーーーーーー
交流会から2週間が経った頃、ウィザーアカデミーの生徒たちは特にイベントも無い中で平和に過ごしていた。
寮長達もそれは同じで、シーザーとマリーは冬組寮から出ると和気あいあいとその場で話し込んでいる。
「ほら、今日の講義の内容纏めといたからあとで見ときなさい」
マリーはそう言ってシーザーに資料を渡す。
「ありがとう」
「あんたもよくやるわね、前例の無い事なんでしょ?例の病気の治療」
「君の能力と別の能力者の能力が合わされば治療も不可能じゃないさ」
「そんな能力者を探す作業が途方も無いんだけどね」
マリーが呆れの様な、憐みの様な顔でシーザーを見ていると
科学室の方角から女生徒の無邪気な笑い声が聞こえて来る。
「何それーきもーい」
「ちょっと返してよ!それ借り物なんだから!」
遠巻きで眺めるその様子は、あまり微笑ましいものでは無い、
複数の女生徒が一人の女生徒を囲んで嘲笑しているようだった。
「何事?」
「さあ?あれって祝日組のエリじゃない?」
寮長2人が遠巻きに様子を見ていると、女子生徒の一人が
エリから奪ったゲームを他の生徒に見せながら
「ねえ、ルハートさんこんなゲームやってたよ
女ばっか出てきて乳繰り合うゲーム」
と言いながらクスクスと笑う。
「何それきもっ!ルハートさんってもしかして女も好きなの?」
「普通にオタクに媚び出しただけじゃない?
冬組に居そうな男じゃないともう相手されないんだよ
きゃはは!」
「はあん?」
冬組への罵倒が耳に入り、マリーの額に青筋が走る。
「おいマリー!関わるなって…!」
「解ってるわよ、でも腹立つじゃない
顔くらい覚えてやらないと」
「てかさ、この黒髪の子ルハートさんに似てない?」
「マジだ!え、もしかして寄せてんの!?」
「こういう暗くて顔と体しか取り柄無さそうな女ってオタクにウケるよねー
私はこういう女嫌いだけど」
「何でよ!アリスめっちゃ可愛いじゃん!
サキュバスだけどえっちなのが嫌いで照れ屋だったり意外と素直じゃなかったりいいとこいっぱいあるんだから!」
「は?何て?」
エリが困っていると、PCルームの方角からナラクが歩いて来る。
「お、エリじゃん!珍しく友達と一緒?」
「ナラク…いや、この人達は…」
「も、モスコミュールくーん!ど、どうしたの!?今帰り!?」
「え、まあうん
…それ、PFPじゃん!うわ懐かしー
あんたの持ち物?」
ナラクはそう言って自然に彼女からゲーム機を奪う。
「いやこれは…ルハートさんが持ってて」
「おっ『サキュバスと僕の恋する契約』…無印かー
流行ったよなー、このゲーム
俺もアニメだけ見てたけど大好きでさ
女子でもこういうのやるんだな」
「…ナラク、この子達そのゲームの事キモイゲームだって言ってたよ」
「はあ!?い、言ってない!」
「私達ゲーム大好き!それ返すねー?
じゃあ私達ほこれで!」
エリの言葉に動揺したのか、女子生徒達は走って逃げて行ってしまった。
「…ありがと、ナラク…実はその
ゲーム機取られちゃって…困ってた」
「見てたよ、あんた本当に嫌われてんのな」
彼はそう言ってゲーム機をエリに渡す。
「解ってて話しかけた訳?…あの子達ナラクにやけにペコペコしてたけど
知り合い?」
「さあ?ああいう奴らって名前売れてたり金持ってる奴とかには喧嘩売らないじゃん
小物なんだよ、相手するだけ無駄」
「…そっか
強いんだね、ナラクは…」
遠巻きからエリの様子を見ていた寮長達はほっと息を付く。
「なんだ、祝日組寮って結構仲良しなのね
特に首突っ込む必要もなくて良かったじゃないシーザー」
「なんで僕に…」
「あんたずっと鬼の形相してたからいつあの中に飛び出して行っても不思議じゃなかったわよ」
「なっ…!」
「じゃ、私はこの辺で!また今度ー」
マリーはそう言って何処かへ消えて行ってしまった。
「…そんな顔に出てたかな
カフェにでも行って落ち着いて来よう」
シーザーは時計を確認すると静かに学園を出た。
ーーーー遊助視点
「マリー先輩…本当に飲むの…?」
薬を片手に僕は渋る。
やだなあ、飲みたくないなあ…
「飲むの!いいじゃないあんたは憧れのイケメンになれるんだから
女子に囲まれる貴重な体験が出来るかもしれないわよ」
「それはちょっと魅力的だけど…
シーザー先輩の髪の毛から出来てるんでしょ?この薬」
「そのくらい我慢してよね、爪か体液の方が良かった訳?」
うぐ…爪はどっこいとしても体液は嫌すぎる…!
ふわっとしてるのが不気味なんだよな、具体的にどこの液だよ!
「解った、飲みます」
僕は意を決すると思いきり薬を飲んだ。
するとみるみる視点が高くなって行き、顔も声もシーザー先輩そっくりに変わる。
「うわ!高身長の景色ってこんな感じなんだ…
マリー先輩ちっちゃ!可愛い!」
「殺すわよ」
彼女は悪態を吐いた後「サーシャ」と書かれたボトルを開ける。
「結局サーシャ君になるんだ」
「本当は嫌だったけど、他に調達出来なかったの」
そう言って彼女は薬を一気に飲み干した。
みるみる体が男子に変わっていく様は少し異様だったが…
髪の毛一本で他人になり切れる薬なんて作れちゃうんだから彼女は凄い。
「嫌がる事ないでしょ、彼良い奴でしたよ」
「良い奴とか悪い奴とか関係なく無能力の1年生なんて目立つじゃない!」
「まあまあ…ところで今日は何を調べるんですか?」
「秋組の妖精よ」
「…妖精?」
「願いを叶えてくれる妖精が夜に現れるとか何とか…結構噂になってるらしいのよ」
「メルヘンな噂だなー、僕そういうの興味無いかも」
「いいの?もし本当にそれに会えたら願いを叶えて貰えるかもしれないのに」
「…僕の願いは自分で叶えますから」
僕が言うと、彼女は眉間にしわを寄せながら
「またやったわね?その顔」
とサーシャ君の顔で言い放つ。
「へ?」
「その、軽蔑してますって顔よ
ブルショットにもしてたしシーザーとか祝日組寮生にもたまにしてる」
僕は思わず顔を抑える。
そんな…顔してた!?
「あんた、まさか勘違いしてないでしょうね?
私が自分の望みすら叶えられない雑魚だって!」
「そんなこと…」
「いい?聞きなさい…これは完全にこの学園の都市伝説なんだけど
この学園には…『ホープダイヤ』が眠っているって伝説があるの」
『ホープダイヤ』…存在自体は知っている、願いを何でも叶えるって言う
御伽噺の類に出てくるようなアイテムだ。
「ホープダイヤの詳しい説明は省くけど、
実在したらあれは途方もないエネルギー源になる!
私が欲しいのはそれよ
どう?また惚れ直したかしら」
彼女はそう言って意地悪そうな笑みを浮かべる。
「も、元々惚れてません!」
僕が目を逸らすと、
「そ、じゃさっさと行くわよ」
と言って秋組寮に入って行ってしまった。
…変な奴…
ーーー
「はーあ、揃いも揃って祝日組寮より豪華でやんの」
秋組寮の中には綺麗な美術品やおしゃれな家具で彩られており、
エントランスにはカフェまであった。
「秋組寮の精神は『溢れる才能』
芸能系とか美術系とか…料理とかの才能に秀でた生徒が選ばれるらしいの
だからその…夏組の華やかさとは違うけど…キラキラした奴が多いのよ」
「先輩、口調」
「お、多いのだ!」
それはそれで違うと思うけど…
才能…ね、僕だって才能に満ち溢れてるのに何で祝日組寮になったかなあ
慣れない高い視界から周りを見回すと、やけに女子の目線を感じる
くそ…!悔しいけど悪い気はしない…!こういう時シーザー先輩なら、
手を振ったりしてやるんだろうな
「きゃー!」
ちょっと手を振っただけで女子は黄色い声援が上がる。
ああ…僕もイケメンに産まれたかったぜ
そんなしょうもない事を考えていると、ラウンジの奥からすごい形相で一人の女性が駆け寄ってくる。
…生徒じゃないな、教師だ
「トニト君!探したのよ…!ちょっとお話が!」
かなり焦っている様子だ、まずい!この人の名前を知らないぞ
「ロ、ロゼ・シュタイン先生…どうされたんですか?」
僕の様子に気付いた先輩が彼女の名前を口にする。
ロゼ・シュタイン…へー、可愛い先生だなあ
この人がこの寮の担当教師なのか
「ルーニ君…何で寮長と一緒に?」
ルーニ?サーシャ君の苗字か
「ルーニくんの能力の事を心配していてね、少し話をさせて貰っていたんですよ」
僕が言うとロゼ先生はこくこくと頷きながら
「そう、私もそれは心配していたの
急に発現した固有魔法は安定に時間が掛かるから…
トニト君、お話しが終わったら職員室まで来て頂戴、頼んだわよ」
そう言ってロゼ先生は去って行った。
…ん?「急に発現した能力」って言ってたか?
まさかこのニ週間でサーシャの能力が発現した!?
良かったじゃないか、後で本人におめでとうって言わないと…!
「ほら何ボーっとしてるのシーザー先輩、
早く先生のとこ行けって」
サーシャ君に擬態したマリー先輩が言う。
「あーあ…全然サーシャ君っぽくないよ先輩
彼はもっと可愛げあったのに」
「男に可愛げなんてなくて結構!
ほら、さっさと行け!秋組の内情を知るまたと無いチャンスだ
絶対に失敗するなよ」
僕は彼女に背中を押されながら言われると、
渋々職員室に向かうのだった。




