40話「クレアとシーザー」
「遊助!会いたかったわー!」
僕が会場に着くと、ティナ先輩が飛び出してきて僕に抱擁する。
ココナッツの香り…幸せー!
「一年と交流するのもいいけど私とも交流しましょう…?」
彼女が僕の顎を撫でると、アシュリーがティナ先輩を僕から剥がす。
「岸辺君、今朝ぶり…だね?」
「朝?今日君と会ったのはこれが初めて…あっ」
ま、まさかこいつまた…!
「お前…!僕の部屋勝手に入ったろ!
何が今朝ぶりだ馬鹿!そろそろ訴えるぞ!?」
「岸辺君が出来るのは訴える事じゃなくって諦める事だよ?」
「…ティナ、夏組ぶりだな
何だか騒がしいようだが…」
「ああ、クレア様にマティーニ様!えっと、うちからはアシュリーが来てるんだけど
遊助と何か因縁があるみたいね…」
透明になれるのをいい事に健全な男子たる僕の部屋に当たり前のように居座りやがって!
今度バルヨン炊いてやる!
「アシュリー様、お元気そうで何よりです!」
「クレアちゃん!…あ、ちゃんでいいですよね?
だって一緒にお風呂入った仲だし…
人の裸見といて今更他人行儀に王女様って呼べとか言わないでしょ?」
「は、はいどうぞ…?」
へえ、クレアとも随分仲良さそうだな、アシュリー
何だかんだ元気みたいで一応…安心した。
「そうだ!彼女副寮長になったのよ!
3年生や2年生を押しのけてすごい快挙よね!
何かあの一件以降様子がおかしいしちょっと重くなったけど…
でもそうね…優秀だし…うん!優秀よ!」
「何そのごり押しみたいな他己紹介」
ティナ先輩も多分苦労してるんだろうなーと思いながらアシュリーを眺めていると、
アシュリーは僕の視線に気づきウインクしてみせた。
可愛い…凄く可愛い…!どうしてあんな地雷なのに顔はめちゃくちゃ可愛いんだ!
「あら、あんたらもう集まってんのね
女王陛下は今日もお花の様な美しさですう♡」
「ありがとうございますマリー寮長…」
しばらくして、マリー先輩も顔を見せる。
隣にいた少女は身なりの綺麗なマリー先輩と言えばいいのか…
顔の作りはマリー先輩と瓜二つだった。
「クレア王女、会えて光栄です!
私はメア・ブラドー
寮長の妹なの!よろしくどうぞ」
「まあ!マリー様にそっくり!」
「本当にそっくり…
もしかしてサボりの時妹を身代わりにしてました?」
「ふん、知らない方がいい事もあるのよ岸辺」
これは…してたんだな?悪いやつ。
「皆早いねー、もう集まってたんだ」
マリー先輩の後に現れたのは、とても爽やかな雰囲気の美形だった。
透き通るような白い肌に白髪、目は桃色と赤い色の中間の様な珍しい色で、
白いうさぎを連想させた。
この学校じゃ珍しくもないけどすげえイケメンだ
…少し雰囲気がシーザー先輩に似ているのは気のせいだろうか?
「…!」
「え?何だ?どうしたクレアちゃん
その、悪い気はしないが…」
なんだ?クレアがマティーニに隠れた?よっぽどの事だな
白髪の彼は見た感じそんなに変な人の様には見えないけど…
「シーザーよりは早いと思ってたんだけど、同着かあ」
「残念だね、僕らの方が先だったよ
ねえマティーニ?」
「あ、ああ…」
寮長と親しげだし、間違いなく1年生じゃないな。
なら残るは
「あなたは…もしかして医療棟の?」
「その通り!俺は医療棟監督生のカイ=ブルーム!
君は岸辺君だっけ?見てたよ、マティーニとの試合!かっこよかった!」
何か…凄く普通の人だな…?
寮長達は大体第一印象から変人って感じの人間が多いのに
「カイ様…お久しぶりです…その
この前の夏組の親睦会には来ていらっしゃらない様子でしたが…」
マティーニ先輩の後ろから、不機嫌そうに言い放つクレア。
「あれ?何でマティーニ君からクレアちゃんの声が?」
「後ろに隠れてしまったのだ」
「あー…クレアちゃん!ほんとに久しぶりだね
夏組の親睦会は泊まりだったから行けなかったんだ、
何でマティーニの後ろに隠れてるの?」
「な、何となくです!」
今までいくら苦手そうでもあんな露骨に避けたりしなかったのに…
あんなクレア初めて見たかも、変なの。
「うちの棟からも一年を連れて来たんだ!ほらあまねちゃん挨拶して!」
「…ど、どうもぉ…西園寺あまねです…」
見覚えのある顔に僕は目を輝かせる。
また会えると思ってなかったから嬉しいなあ!
「シーザー、可愛い子だけど手出すなよ?」
「まだ何も言ってないだろ失礼だな!」
「あまねちゃん久しぶり!僕の事覚えてる?」
「話したかどうかは置いておいて1年生で岸辺君を認知してない人はいないかと…」
「よかったー!よろしくね!」
「あ、皆もう来てたんだ!まだ20分も前だよ?偉いねー」
そう元気よく会場に入ってきたのは、
洒落た衣装を着た青年だった。
この人は知っている、僕が授業を取っている美術の教師
「フラン・シャンパーニュ」先生だ。
ノリは軽いがこの人の授業楽しくて好きなんだよな。
「やあ、天才少年」
僕がフラン先生に気を取られていると、ふと後ろから聞き覚えのある低い声が僕を呼ぶ。
「うわ!?ヴィルヘルム先生!?背後から話しかけないで下さいよ!」
「ごめんね…君なら気付くと思ったんだけど」
毎度毎度急に現れるよなあ…
相変わらず掴めない人だ。
「む、一番乗りと思ったが3番目か…」
「皆真面目で結構…と言いたいところですが
リカルドがいませんね
今日の欠席は春組の担当教師のみと聞いていますが」
次に入って来たのは背が高く知的な美人と、
少し神経質そうな眼鏡の男性だった。
あ!女性の方は見た事あるぞ?
魔法化学で有名なシャンディ・ガフじゃないか
ここの教師だったんだな。
「先生なら僕らが出ていくときには新聞読んでましたけど」
「チッ…またですか…
ああ、失礼!僕は医療棟の教師で魔法薬学担当の
『ユーリ・ギブソン』と申します
君はアルカナの岸辺君ですね?お噂はかねがね」
「え?ああどうも」
ユーリ先生かあ…リカルド先生の事をよく思って無さそうだし真面目なんだろうなあ
うちの学校比較的自由な人が多いと思ってたけど、割と厳しそうな先生もいるんだ。
「ああ!君は祝日組寮の生徒なのかい?じゃあエリを知っているね?」
ユーリ先生と僕が握手をしていると、ガフ先生が目を輝かせながら僕に言う。
「エリ…?はい、勿論」
「彼女は私の魔法化学を取っていてね!とても目をかけているんだ
彼女にもよろしく言っておいてくれ給え
ああ、私の事は解るだろう?シャンディ・ガフだ!今日はよろしく頼む」
へえ、女性でエリに目をかけてる先生がいるなんて意外だなあ
本人も女性に嫌煙されてるって公言してたくらいだし。
しかも魔法化学の先生に気に入られるなんて
エリってば意外と理系女子とかだったりするのか?
「ガフ君、間違ってもそんな『目をかけている』等
堂々と言うもんじゃないですよ」
「仕方ないだろう?私も人間なのだから」
先生達がそんな他愛のない会話をしていると、
少し髪の乱れたリカルド先生が悠々と会場に入って来る。
もしかしてあの後二度寝でもしてたのかこの教師…?
「すまない、皆待たせたな」
彼が言うと
「時間通りですから問題ありませんわ!」
とクレアが答える。
クレアに問題ないと言われてしまえば他の教師や生徒は何も言えまい。
「そうか、良かった…
それではこれから交流会の説明を行う
1年生…ああ、うちの寮はどっちもか
祝日組は遊助君が前に出なさい」
彼はそう声をかけると、おもむろに何か棒の様な物を取り出す。
「この割り箸を引いて」
魔法学校のチーム分けがまさかの割り箸でくじ引き…!?
おいおい、もうちょっとなんかあっただろ
そう心では思いつつも僕は素直に割り箸を引いてみせる。
割り箸の先にはオレンジの塗料がついていた。
「遊助様、頼むから苦手な方と組む事になるのだけは避けて下さいね…!」
「それ夏組しか選択肢無いじゃん!確率的にほぼ無理」
「そこをなんとか…!」
また妙なわがままを…いい加減少しは寮長達に溶け込んでくれよな。
「次に、先生方も引いてくれ
引けたら各々同じ色を引いたチームで固まって」
リカルド先生の言葉に僕は振り返ると、
「オレンジの人ー!」
と言いながら手を上げてひらひらと振ってみせる。
「あ、僕オレンジでした…!」
すると、サーシャ君が少し嬉しそうにそう言って駆け寄って来た。
うちと組むのは秋組かあ!
良かったー、春組とかだったら気まずかったし良いとこと組めたじゃないか。
「遊助様!秋組と同じ色を引いてしまうなんて…!
よりにもよって…!よりにもよって!」
しかしクレアは納得していないようで僕の身体をポカポカ殴ってきた。
「君夏組以外殆ど地雷だろうが!5分の4なんて避けられないよ!」
僕が言うとサーシャ君が少し伏し目がちに
「…やっぱり王女様も…僕と組むのは嫌でしたよね」
と呟いた。
「あー!違うんですサーシャ様!
私が嫌なのは」
「僕だろ、クレア」
彼女が言い切る前にシーザー先輩がそう言って僕達の前に現れる。
彼の笑みは完璧でいて少し目が笑っていないような不気味な笑みだった。
「そ…そうです!私シーザーお兄様とは一緒にいたくありませんの!」
「珍しいね、寮長が女子に嫌われるなんて」
まあ、クレアの趣味が…例えば、例えばだけどリカルド先生みたいな人間として。
シーザー先輩ってその対極にいるから苦手なのは分からんでもないけど、
それにしてもやけに嫌われている気はするな。
「それはきっとお兄様の嫌な部分を知らないからだわ…!
あれはそう、お兄様の15歳の誕生日パーティーでの事でした…!」
ーーークレア回想
10歳の頃から会わなくなってしまったシーザーお兄様は、美男子という事でそれはそれは有名で
私もその頃にはもう心に決めた方がいたものの…あの天使のような少年がどの様な男性になったのかほんの少しだけ気になっておりました…
久しぶりにお見かけしたシーザーお兄様は絵本から飛び出した王子様そのものでしたから
私も緊張しながら声をかけたんですの。
「シーザーお兄様!お久しぶりです
凄く凛々しくなられていて驚きました」
「やあクレア、君も随分大きくなったもんだ」
「皆噂してますわ、お兄様がまるで童話から出てきた王子様の様だと…」
「…どうも?」
「そ、それにその…風の噂で聞いたのですが
ウィザーアカデミーに入学予定があるんだとか
わ、私…お兄様の事はその、兄弟の様に思っていたものですから…!」
「クレア」
「は、はい!」
「何か勘違いしている様だから教えてやるよ
僕は君の事を女として見れない」
私は思わず顔を強ばらせた。
い、今…なんて言われたのですか?
「そうだな
君の事はタイプじゃないとも言えるし、
色気が無いとも言える
…僕はイリスの後継者だから仕方なく君と結婚する事を目標に生きてなきゃいけないが
君に手を出す予定は結婚するまで無いよ
まあ、嘘でも良いなら愛の言葉の1つでも囁こうか?」
あまりの言い草に身体を震わせる。
なん…なん…ですってぇ…?
「馬鹿にしないで下さい!
誰があなたみたいな方に…!」
「シーザー、お久しぶり」
私が言い切る前にやけに色っぽくて綺麗な女性が彼に声をかける。
「ああサラ!久しぶりだね!
どうだい?この後2人きりで月見でも…
僕の部屋からよく見えるんだ」
お兄様は私を少しだけ見ると、女性と2人で何処かに消えてしまったのでしたー




