4話「祝日組寮」
「このっ…卑怯…もの…」
「君から戦いたい欲を切った、ついでに今切ったのは動きたい欲!
いやー!卑怯な手を使わなかったら危なかったな!ケラケラケラ!」
「どっちが悪役かわかんないね…」
走り寄ってきたエリが苦笑いで呟く。
「…凄い」
「え?」
「凄いです岸辺様!あの方に勝ってしまうなんて!」
「いやーあはは…そう?」
「そうですよ!欲を操る彼に…こんな天敵がいたとは」
「?」
「あ、ああ…なんでもありません
残るは岸辺様の試練ですが一体どこに」
彼女が言い終わるが早いか、街に暗雲が立ち込める。
「な、なんか…天気悪くない?」
ゴロゴロと雷が鳴り、
ぴしゃりと落雷が降り注ぐ
女子たちの悲鳴と共に現れたそれは…
「我は魔王『アルドリリア』!
君たち人間を支配してやる!ハッハッハ!」
「あ、アルドリリア様ってあの…伝説の魔法使い!?彼ってあんなに禍々しかったですか!?」
「し、師匠〜!そっかー、俺の試練は師匠だったか」
「師匠…魔王なんだ…」
「大分悪意のある改変されてますけどいいんですか?」
「ごめん皆、腹括って!師匠には正真正銘だ〜れも勝てない
戦ったら死ぬしかないよ」
「怖いことヘラヘラしながら言わないで!」
「そこの娘2人は僕が嫁にもらう!男は死ね!」
アルドリリアが詠唱を始めた刹那、エリがキャンセラーを投げ捨て彼に駆け寄り
「お願い、やめて!」
そう言って彼の手を握った。
(彼女の一言を聞いて、僕は理解する…
彼女は今まで、漏れ出す魅了の魔法を「抑えていた」のだ
リカルド先生は言った。「この程度の魔法なら効かない」と
なら、「彼女が本気を出したら」どんな人間にまで効くんだ?)
「はい…やめます」
アルドリリアがそう呟いたのを最後に、世界が白くなって行く
(あれ…なんだか意識が)
薄れていく意識の中で、確かに誰かが言った。
「遊助、あなたのせいよ」
遊助はそれを聞くと地面に倒れ込み、静かに目を閉じたのだった。
ーーー
気が付くと僕はベッドの上にいて、
周りを見渡すと他の2人も保健室のベッドで寝かされている。
「あれ…ここは」
起きると、バツが悪そうに頬杖を付いたリカルド先生がこちらを見ていた。
「目が覚めて、何よりだ」
彼はそれだけ言うとこちらに近づき
「悪かったね…まさかあの大魔法使いが試練として出てくるとは。
多くは大きい虫だとか…嫌いな食べ物だったりするんだがね」
そう言ってため息を吐いた。
「結論から話そう、あの鏡は試練の鏡の中でも特別だ、
普通よりも少々手強い試練が課される
しかし君たちは…その全てを突破した」
「…2人が起きてから話したらいいんじゃないですか?」
「いや、このあと少し用事があってね
2人には君から伝言を頼むよ
君たちは合格だ、
史上最年少で『アルカナ』になった少年…
君の実力は本物だ、誇っていい
君を吾輩の担当する寮『祝日組』に招待する」
「『祝日組』…あんたが僕の先生に?」
「ああ、
これは元々決まっていてね
魅了の魔女と王女、飛び抜けて優秀な君は1年生の中でも警戒されていた存在だった
半端な教師では王女を誘惑し、魔女に誑かされ、君に舐められる」
「…そんで、その問題児達が仲良くやってけるか鏡で試したんだ」
「理解が早いね、そういう事だ
…もし、君が少しでも弱ければ別のクラスになっていたし、あともう少し王女が優しければ企画ごと頓挫し、…魔女があともう少し悪意のある人間ならば退学になっていた
しかし君達は勇敢で判断も早く…仲間を守るだけの強さがある
これからも友人として共に励みなさい」
彼はそう言って保健室を後にする。
遊助は目を覚ました2人に彼に聞いた話を伝えると、2人は嬉しそうに顔を見合せ笑っていた。