39話「一年生交流会」
「ほらクレア!早くしないと遅れるよ!」
「ちょっと遊助様、なんだか気が高ぶっておられませんか?」
クレアと僕は1年生の交流会会場に向かっていた。
「よく考えたら僕祝日組寮以外に友達いないからどんな人達と会えるか楽しみなんだよね!」
「はあ…」
困惑するクレアを横目に、僕は噴水広場まで駆け足で向かう。
勿論マリー先輩に言われたことも忘れちゃいないが、
一年生の友達が出来るかもしれないという高揚感が僕をご機嫌にさせた。
そして噴水の前まで着くと、少年が僕に跪いて手にキスをする。
うわっ…!?
「クレア王女殿下…!お待ちしていました
今日もまるで星のように美しい」
「やーやーありがとう、クレアと間違えられるくらい僕は美しいんだねマティーニ先輩」
「ぐお!?き、緊張でなるべく見ないようにしていただけだ!
貴様毎度毎度ふざけおって…!」
ふざけてるのはお前だ!人の手に汚いもん押し付けやがって…!
僕が噴水でジャバジャバと手で洗って見せてやるとマティーニ先輩は鋭く僕を睨む。
交流会なんか関係ない!来るなら来い…!
「やあ、元気そうじゃないか皆」
僕たちの一触即発の空気を破るように、
シーザー先輩と気弱そうな少年が間に入る。
この子が秋組から来た1年生かあ…
褐色の肌に薄いベージュの髪を持つ儚げな見た目の少年で、
どことなく表情からは自信がない事が伝わって来る。
「あ…シーザーお兄様
その…ふふ…夏組ではお世話になりました」
クレアがそう言ってシーザー先輩にお辞儀する。
あー、そういえば夏組では寝るわ投げられるわ散々だったもんなこいつ
思い出したら僕も笑えて来た…!
「ふふ…その説はどうも…」
「おい、君達なんか変な事思い出したろ」
「わあ…!もしかして岸辺君!?」
シーザー先輩の後ろに隠れるように立っていた少年が僕に駆け寄って来る。
「?」
「すごい、本物だ!写真いいかな?」
キラキラとした笑みでカメラを構えられたら悪い気はしないけど…
「えっと…君は?」
「ああごめんなさい!俺はサーシャ・ルーニ…!
君にずっと憧れてたんだ!強くて評価されててかっこいいなって!」
強くて…かっこいい!?
…いやー、とうとうこんな男子にまで僕の魅力がバレちゃってたかあ
まるでヒーローを見るかのような眼差し…!悪くないな!
「そ、そういう事なら沢山撮ってよ!」
「君のとこの一年か?岸辺のファンなぞ趣味の悪い」
「そうだよ、秋組の1年生!
確かに彼のファンは珍しいかも?」
シーザー先輩が言うと何かに気付いたかのようにサーシャ君は彼らに駆け寄ると、
「あ!すごいオーラがあると思ったらあなたはマティーニ先輩…!
俺、マティーニ先輩のファンでもあるんです!
強くてかっこいい人が好きで…!撮影いいですか?」
と言ってマティーニ先輩にもカメラを向ける。
「ふむ、いい後輩じゃないかシーザー!好きなだけ撮りなさい」
「うわちょろ」
シーザー先輩の呟きも聞こえないほどノリノリでボーズをとるマティーニ先輩
まあ気持ちは解るよ、同性のファンってのも案外悪くないもんだな。
「なあサーシャ?王女を前にして男ばっかりに反応するのはいくら何でも失礼じゃないかな」
シーザー先輩がそう言ってクレアを見ると、
「うわ…!ごめんなさい!王女殿下!本当に麗しいお方で驚きです!
俺はサーシャ・ルーニ…!会えて嬉しいな!」
と言って彼は深く頭を下げた。
「ええ、よろしく…」
クレアが彼に握手を求めようと手を伸ばした所で、彼は恐れるように身を引いてしまう。
「あら?」
クレアが驚いていると、
「ご、ごめんなさい…!その、俺…
能力が無いんです…王女様に触れられるような人間じゃ…ないから」
彼はとても申し訳なさそうに俯いた。
この子無能力なのか…確かにそれはここまで卑屈になっても仕方がない。
無能力者…所謂固有魔法が発現していない人間は、この魔法が蔓延る世界ではかなり嫌煙される。
「???」
彼の言葉を理解出来なかったのか、不思議そうに首を捻る王族一同。
「…無能力の人間は平民の間じゃ奴隷以下の扱いを受けるんだよ
もしかして王族の皆サマは知らないの?」
僕が言うと
「知らん、どんな能力でも私は負けないからどうでもいい
あっても無くても変わらんだろ」
「能力が無いと何がいけないんですか?」
「僕の前じゃ皆無能力みたいなもんだし…」
と言って一同再度不思議そうに顔を見合わせた。
よく今までそのスタンスで誰とも揉めなかったなこの人達…
「だってサーシャ君、握手しといたら?」
僕が苦笑い交じりに促すと、
「は、はい…よろしくお願いします」
そう言って彼は恐る恐るクレアの手を握った。
「あー!ひどいじゃないですかマティーニ先輩!
私より先に1年生と仲良くして!」
突如、女子生徒の声が噴水広場に響く。
「あ…すまん、ブルショット」
ブルショットと呼ばれた少女は利発そうな顔をした清楚な見た目で、
眩しいばかりの笑顔をこちらに向けていた。
「わあ可愛い!この子春組の子?
やあ僕シーザー=トニト!君ってlimeはやってるの?」
「お兄様!」
クレアは肉に群がるピラニアのようなシーザー先輩を叱ると、彼女から引き剥がす。
「あはは…シーザー先輩こんにちは…
こほん、はじめまして女王様、会うことが出来て光栄です!
私はアイラ=ブルショット!よろしくお願いします!」
「彼女は入試試験を3位で突破し品行方正成績優秀な生徒でね
どこに出しても恥ずかしくない1年生なんだ」
「へーすごい」
まあ、見るからにそんな感じだ、
絵に書いた優等生って感じの人だもの。
「僕とも仲良くしてよ!岸辺遊助です!」
「あなた知ってる!マティーニ先輩と戦っ…
あ…やば」
「いいんだブルショット、私は彼と戦って負けている」
「すみません、そんなつもりじゃ…
でも君とも会えて嬉しい!
君も色々大変だよね?祝日組寮生って問題児多いもん
授業出なかったり男の人囲ってたりさ」
一瞬、周りの空気が凍る。
「…?誰のこと言ってる?」
「多分授業に出ないのはナラク、男を囲ってるのはエリの事じゃない?」
「ええ!?」
シーザー先輩に言われ改めて思い返すと、
確かにナラクはあまり授業に出ていないし
エリはよくナンパの対象になって男子に囲まれている。
傍から見たらそう見えてるの!?誤解なんだけどな
「な、何か勘違いがあるんじゃないかな」
「優しいんだ、問題児を庇うなんてさ
私も出来ない人たちによく邪魔されるから気持ちわかるな、
足引っ張らないで欲しいよね」
な、なんだろう…この子、
利発そうだけど悪意がにじみ出てるような…
「特にあのルハートさん?学校に何しに来てるのかな?
いっつも男の人と一緒にいて男目当てでこの学校来たのバレバレだよね」
「あなた…!」
クレアの声ではっと我に返る。
まずい、喧嘩になる前に止めないと…!
僕がクレアを制止しようとすると、
長い腕がクレアとブルショットさんの間を遮った。
「なあ、世間話にしては暗い内容になって来たんじゃないか?
君にとっての交流が陰口なら止めはしないが…
そろそろ別の寮生にもあいさつしに行ってはどうだろう」
シーザー先輩がそう言って屈託のない笑みをブルショットさんに向ける。
「すみません、それもそうですね!行ってきます!
皆チーム分けに遅れないでくださいね!」
「あの…」
声を掛けようとするサーシャを無視して、焦る様にその場を後にするブルショットさん。
「…すまない、普段はあんな様子じゃないんだが」
マティーニ先輩が珍しく弱々しくそう言い放つと、
「エリとナラク様があんな風に思われていたなんて…」
そう言ってクレアは悲しそうに眉をひそめた。
「まあ授業に出ないのは悪いし…エリは勘違いされやすい能力だからな」
「遊助様は友人が悪く言われて何でそんなに冷静でいられるんですか!?」
「カッとなったって仕方ないだろ」
「むう…!」
僕の淡白な回答に腹を立てたのか、クレアは顔を赤くしてむくれて見せる。
「まあまあクレアちゃん、こんな奴放っておいて僕たちもチーム分けの会場に行こうじゃないか」
彼女の様子を見かねたのか、マティーニ先輩がそう言ってクレアの手を引き会場の方へと消えていった。
「…何であんたが僕の友達を庇うんだよ」
2人を見送った後、僕がシーザー先輩に問うと
「不服だったかい?」
彼はそう言ってニコニコと笑う。
「いや…ありがとう」
僕は自分で解決出来なかった事への悔しさなのか、ブルショットさんに言われた事に腹を立てていたのか
自分でもわからないまま彼に素っ気なく礼を言うと気まずいままその場を立ち去ってしまった。
「あの…なんか不穏じゃないですか?この交流会…
だだごとでは済まないような気がするんですが…」
「世話が焼ける弟妹が増えたと思って見守ってやるしかないかな
幸い今回は先生方も付くしまあ大丈夫だろう」




