3話「クレアの試練」
「…え?あれが試練?お助けキャラじゃなくて?」
「…」
エリの問に無言で首を振るクレア。
(あの少年、見覚えがあるぞ…何だったかな)
遊助が考えている内に少年はゆっくりこちらに近づいて、クレアの前で跪いた。
「クレア様、より一層美しくなられましたね
今日こそは私の妃になって頂く話にお答えを」
「き、妃い!?まだクレアは15歳だよ!何言ってんの!」
エリが顔を赤くしながら声を上げる。
(君もクレアと結婚する為にこの学校に入ったんだろうに…)
クレアは少し震えながら、
「お断りしますと、いつもお答えしているはずです」
「何故、お断りになられるのです」
「…」
「よもや、その隣の男」
「えっ!?僕!?」
「お前が王女を誑かしたのではあるまいな」
「ち、違います!私は個人的に貴方様が苦手で…!」
「私を苦手とする人間がこの世にいるはずありません!」
(凄い事言い出した!)
「魔性め…この私が捌いてくれる」
「に、逃げて下さい!遊助様!鏡の試練とはいえ彼は強すぎる…いくらあなたでも勝てません」
「…勝てない?僕が?そんなに強いのあれ」
「はい!貴方様でも絶対に勝てません」
「面白い!」
「…え?」
「王女サマは僕の能力を知らないよね、
なのにハッキリ言った!絶対勝てないって!
面白いじゃん!」
「何言ってんの!?クレアがこんなに言うんだからやめときなよ!」
「そうです!あの方の能力は人の欲を操る最低な能力なんです!だから逃げて!」
「天よ、我が声に応えよ」
エリとクレアの制止も聞かずに遊助は詠唱をする。
すると空から光り輝く剣が降ってきた。
(…綺麗)
クレアは思わず見とれてしまう。
まるで「天国で作られた剣」と言われても納得出来る程に美しい剣であった。
「クレア、離れてよう?危ないから!」
エリがクレアを2人から引き離す。
「で、ですがエリ…岸辺様が」
「本人がやりたくてやってんだよ、止められない!それに遊助は『アルカナ』なんだから
そう簡単に負けたりしないよ」
「…!」
睨み合う少年と遊助。
先に動き出したのは
相手の少年の方だった。
「聞け!庶民の男!我は王族…
クレアも王族だ
貴様に勝ち目は無い!潔くその剣で自身を貫くが良い!」
少年は声高らかにそう言い放つ。
すると遊助の剣が首筋に当たり…
「おや?」
何が起こっているか解らない間に、剣は彼の首を切り裂いた。
「遊助様!」
「愚民が、この私の能力を知らぬとは
私は人の欲を操る。それも…この声で!
私が跪けと言えば貴様は跪き、私が自害しろと言えば自害する。」
「遊助様!どうか死なないで…あら?」
遊助に駆け寄ったクレアが首元を見ると、
切られた筈の部位から血の一滴も流れていない事に気付いた。
「助かったよクレア、君が初めに教えてくれたから咄嗟に『切れた』」
「…何を…です?」
「『欲』さ。僕の剣は欲しか切れない!
こんな運命的な対面があるとはね!
僕は『あいつに従いたい』欲を切ったから…もうあの技は効かない」
(そんな…そんな事が)
クレアが目を丸くしていると、遊助はサッと立ち上がり剣を少年に向けた。
「よーし、ここからが本番だぜ王族さんよ!
僕がお前の色々な欲を切ってへにゃへにゃにしてやる!」
「…面白い、望むところだ
私が強いのは能力だけでは無い
剣の腕にも自信がある」
2人はそう言って駆け寄ると、
激しく打ち合う。
(まずい、押されている)
純粋な剣技の勝負では少年の方が一歩上にいるようだ。
「1度切りつければ勝ち」である遊助の剣を、
少年は決して許さなかった。
(まずい、このままじゃ負ける)
クレアがそう思うのが早いか、
遊助は躓いて地面に転がってしまう。
エリが遊助に駆け寄ろうとしたその時
「鈍臭いやつめ!トドメだ!」
少年の勝利宣言が「うわ!」という悲鳴に変わる。
「隙あり!忍法目潰し」
咄嗟に少年の顔に灰を投げて目をくらましたのであろう、少年は隙を突かれ、
「はい、僕の勝ち」
身体を切り裂かれた。