12話「マティーニの後悔」
「はっ!」
力強い一太刀が僕を襲う。
ビリビリとその振動を感じながらエリの言ったことを思い出した。
『あの人が本当に半獣人なら...単純な剣の勝負じゃ分が悪いよ
半獣人はとにかく反射神経が高くて目も耳もいい!
魔法も何も使わずに勝てる可能性はほぼ0!』
...確かに感じる、マティーニからの絶対の自信を!
身体能力も固有魔法も優れて産まれてきた彼にとって
僕はただの獲物に見えることだろう
『でも!それが逆に
彼の弱みなんだよ!』
...エリ、やっぱり人間って面白い
君は「能力しかない」って言ったけど
そんな事無いんだ
君の知識は確かに...この決闘に活きるはず!
剣で押され、腕が限界で震えてきた頃に
僕はイヤホンを勢いよくスマホから引き抜いた!
キィ...ン
その瞬間、マティーニ先輩の動きが止まる。
「何か聞こえませんか?高い鈴の音みたいな」
「おや?確かに聞こえるね」
「...モスキートーンだよ
高すぎて大抵の人間には拾えない音
若い人には聞こえるらしいけどごく小さい音でしか拾えないんだ
...普通はね」
(何だこの音は...!気持ち悪い!...しまった!)
彼が音に気を取られている隙に僕は思い切り彼の肩を切りつけた
「これでおしまい!」
マティーニは肩を抑えながら崩れ落ちると
「...ああ...負けた...」
そう言って彼は地面に膝を付いた。
『半獣人の人は五感が強すぎて…
強い匂いや大きな音に弱いんだ
それを利用すれば大きな隙が作れる!』
モスキートーンは通常、若い人間と『耳の優れた動物』にしか聞こえず
『耳の優れた動物』には大変不快な音として聞こえている。
狐の聴覚は人間の16倍優れている
この手の音を『最も苦手とする動物』だろう
この隙の作り方は僕も思いつかなかったな
...エリ、君が居なきゃ勝てない試合だったよ
わあー!
「3.2.1.0!勝者は...」
「あ、あの!シーザー先輩!その判定ちょっと待ってもらっていいですか」
「?解った、マティーニを医務室に運ぶから...その時理由を聞こうか」
ーーーー
「マティーニを魅了酔いさせたぁ?」
「僕がその...魅了の魔法をかけて...すみません」
「あはははははは!なーんだ、それで反則したから負けさせてくれって?
いやー、本当に飽きない人だ
ルールを復習しよう
『反則と認められるのは健康的外傷、影響を及ぼした場合や当日に及ぶ洗脳を行った場合』
...マティーニは朝にはもう魅了なんてされてる様子じゃなかったし
魅了酔いは長くても数十分しか影響を及ぼさない、ほぼ健康的被害の無いデバフだ。
だって眠ってるだけだからね」
「でも顔色が」
「マティーニはこう見えて緊張しいでね
本人も昨日のパーティについて特に触れてなかったろ?
むしろ魅了酔いでコンディション整えて貰えたんじゃない?
あはははは!」
どんだけ笑うんだよこの人...
「...シーザー先輩は知ってたの?
この人の...耳とか」
「勿論、僕ら幼なじみだからね
...彼はこの耳も...尻尾も瞳も嫌いで
相当コンプレックスに思っていたようだ」
「...」
ーーーー
マティーニの夢の中
キャー!あなた!赤ちゃんの耳が!
「...お医者様!この子はどうしてこんな耳に...!
家の父も祖父も曽祖父も普通でしたのよ」
「隔世遺伝ですな
最後の記録ですと高祖父のリド様が狐耳だったとか...」
医者が言うと、母は静かに床にへたり込んだ。
「王様の耳は狐の耳」
アルゴリア家がかつて消し去った因縁の歴史...
僕のご先祖様は「狐の獣人」だったのだと言う
「この秘密を生涯決して人に漏らしてはなりません!たとえあなたの妃であっても!」
(妃...)
「マティーニ様!私大きくなったらマティーニ様と結婚したいのです!」
...彼女の事は大好きだった。
優しくて可愛い、最高の女性だ
今も昔も...
だから、こそ
「あなたの子供にも半分の確率でこの耳が生えてきてしまうのよ、
それを知られれば貴方を夫にしたい娘は現れなくなる...!
絶対に隠し通すのです!」
(それではまるで騙している様ではないか
...クレアちゃんは...この耳をどう思うのだろう)
「無理だよ、だって僕ら釣り合ってないじゃないか」
...そう、その言葉の通り
クレアちゃんは人、僕は狐
高望みの恋だ
許される事の無い、恋だ
だから、諦めてくれ
君は根気強く僕を慕ってくれたが
10歳になる頃には...もう僕を避ける様になっていた
...これでいい
.....これで...
「クレア王妃が後2年で17歳になられる」
「そろそろ婚約者が出来てもおかしくない時期だろうな」
それを聞いて...何故か
過去諦めていた何かが再び僕を苦しめた
言おう、この耳の事を!
その上できっちり付き合うのだ、クレアちゃんと!
「...く、クレア殿下!」
しかし...久しぶりに見たクレアちゃんは...
かっわいかった...!
星のようなブロンド、美しい紫色の瞳
この世の者なのか!?き、緊張する...!
「あー...結婚して下さい!」
あー!やばい!やらかした!
そんなやらかしを続けてる内に...
僕は彼女に嫌われ
何だか知らない奴にクレアちゃんを奪われていた。
...優柔不断、身から出た錆...本当は解っている
あの男に嫉妬する権利など、僕には無い事くらい
でも
でも
好きだったんだ、本当に...
ちなみに通常のスマホではモスキート―ンとされる高い周波数の音は出ません。
魔法世界ですので…高性能なんだって思て欲しいです




