10話「エリの必勝法」
「面白い、いいだろう、受けて立つよ
どんな条件であろうと…私が負けることは無い」
「そ!じゃあ僕も負けるの楽しみにしてる!
またねー」
遊助はそう言って走り去る。
「…つくづく気に入らん奴だ」
「あの!」
「どうされました?クレア様」
「私に隠してた事って…何ですか?」
「あの愚民に億が一負ける事があれば話しましょう、
それでは」
「待って!」
「…珍しいですね、貴方様が私を引き止めるなど」
「…彼は…愚民等ではありません
私の!大切な友…婚約者です!
彼は!絶対!貴方様には負けませんから!」
「承知した、それではまた夕刻に」
マティーニは一切クレアの顔を見ること無く去っていった。
ーーー
「魔法学校最強の男」マティーニ
彼の能力は…「声で人の欲望を操る能力」
誰もが思うだろう
「そんな人間に誰が勝てるんだ」って。
私も、そう思っていた
岸辺遊助様、あの方の能力を見るまでは!
マティーニ様…私は正直
貴方の事 今でも好きなのか嫌いなのか解りません
縁が切れるなら切りたいか?
…それも分かりません
ただ私…皆様の「どうせクレアと結婚するのはマティーニだ」という声を耳にする度
「君は僕と釣り合わない」
貴方様の声が頭に浮かんでは消えるのです
貴方様に求婚される度
「今はどうなのだろう」
と考えてしまうのです
岸辺様…!どうか彼に勝ってください!
そうすれば…そうすれば
私の心もきっと楽になるから
ーーーー
決闘まであと2時間、
僕はというと真面目に授業を聞いて、普通に寮に帰った。
下手したらこれが最後の寮生活になるかもな
そう思いながらクレアとエリをじっと見つめていた
「何、ちょっと怖いよ…?」
「絶妙に嫌な視線を送らないで下さい」
「目に焼き付けさせてよ、友の姿を」
「負けたく無くなったんじゃないんですか!?
だ、駄目ですよあんな方に負けては!
3年間私を守り抜いて下さい!」
「いや、気持ちはやまやまなんだが
相手は『学校最強』なんて言われている男だぜ?
こっちが勝ちたくても勝てるかどうか…」
「あの…それなんだけどさ、遊助
ちょっと2人で話…できる?」
エリが言う。
「何?僕が辞めちゃう前に告白でもしたくなったの?」
「うん、そう!だからクレアは着いてこないでね!」
「え…は、はい…」
クレアが顔を真っ赤にして呆然としている間に僕はわけも分からぬままエリに屋上へと連行された
エリとは昨日喧嘩して別れたままだったのに
急に告白…は…
有り得ないな
「クレアを遠ざけてまでしたい話って?」
僕が言うと
「やっぱりバレてたか」
彼女は申し訳無さそうに笑って言った。
「時間ないからすぐ話すよ?
君はこの決闘…多分勝てる」
「…必勝法を伝えようってわけ」
「そう、そういう事
…クレア、マティーニ先輩と婚約するの本当に嫌そうだから
君に絶対勝って欲しいの
それに」
「それに?」
「昨日は辛く当たっちゃったけど
君は…数少ない祝日寮生だから
辞めちゃやだ」
彼女は真っ直ぐに僕を見つめて言う
彼女に魅了されているのか、それとも本当に心を奪われているかは解らない
それでも気恥しくなって僕は思わず目を逸らした。
「あ…えっと…そ、そう、嬉しいよ」
「それじゃ言うね、あの人は…」
「待って!その前に
エリがいいなら教えてよ
君が自分の能力を嫌う理由
…知ることがなきゃ、分かり合えないだろ
君がどんな気持ちでその魔法と付き合ってるのか、知りたいんだ」
「…こんな固有魔法持つくらいなら…
産まれて来なきゃ良かったって…気持ち」
「…」
「周りの人は変になっちゃうか 魅了酔いが怖くて私に近づきすらしない
好意や愛が…本物か魔法によるものかも解らない
お母さんは言ったよ、私に
『お前なんか産まれて来なきゃ良かった』って
1度でも魅了を使えば永遠に信用されなくなるし
…怖い思いだって…した事、ある
いっそ違う存在に生まれ変われたらどんなにいいだろうって
そんな事ばっかり考えてた」
「…そう、それで君は異種族研究を」
「まあね!面白い話でしょ、君からしたらさ!
能力しか取り柄ないのに使わずにうじうじしてるなんて...変だもん」
彼女は髪を掻き分けながら無理に笑って見せた。
「そうだね、人間は面白い…そこにだけは同感だ
同じ人間なのに解らない事ばかりだ
エリ」
「な、何?」
「君の気持ちを汲み取れなくて済まなかった
…こんな話をさせた事も」
僕は深々と頭を下げた
僕の『愚者』たる所以…
自分の好奇心に負けて、友達を傷つけた
魅了を…使わせてしまった。
「や、やめてよ、そんな頭下げられても困る!
わ、私こそごめん 説明もせずに不機嫌になって…」
僕は頭を上げると彼女の手を取り
「君は悪くないよ、これで仲直りだ
…改めて聞かせて欲しい
必勝法って何なんだ?」




