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皇女と候補生と航宙軍艦カシハラ号  作者: 宇宙だいすき
第4部 そして旅は終わり、物語となった……
70/75

68:〝プランB〟の発動

7月23日 0835時 【帝国軍艦(HMS)エクトル/第一艦橋】


『――…着弾は間違いありません。〝叛乱艦(カシハラ)〟に加速なし、慣性航行中…――』


 第一艦橋の複合スクリーンに被弾した〝叛乱艦〟〈カシハラ〉の映像があった。戦闘管制を司る第二艦橋の方から転送されてきたものだ。最大望遠の粗い光学情報を画像処理によって補完したその映像で見る限り、巡航艦(カシハラ)に大きな損傷(ダメージ)は認められない。


 画面の隅の目標の運動状態の表示に〝新たな変化〟――加速度は表れていない。


「機関を〝やった〟かな……?」

 面白くないな、という面持ちを顕にしたアルテアン〈青色艦隊〉少将は、スクリーンの中の〝叛乱艦(カシハラ)〟から目を離すことなく(かたわ)らの旗艦艦長(ヴィケーン大佐)に訊く。


 ヴィケーンは先ず観測機能を統括する第三艦橋に確認をした。「――〈カシハラ〉に熱などの異常は?」


『――熱量は安定しています……大きな質量体の分離、発光も観測されず』


 即座に返ってきたその返答に肯きつつ、ヴィケーン大佐はアルテアン少将に慎重な意見を返す。

「……あるいは加速発揮に支障を来たす()()()故障が生じた、ということも」


「…………」 アルテアンは(しば)し黙ると、慎重な表情(かお)になって艦長に告げた。「――艦長、このまま接近せよ ……砲戦はいったん止めだ」


 ヴィケーン大佐もまた慎重な表情で確認した。

「接舷隊を用意しますか?」


 仮にもし〈カシハラ〉が被弾によって重要な制御系――例えば〝慣性制御〟――に機能不全を生じていたのなら、砲戦で撃沈するまでもなくこれを制圧することは容易(たやす)いのだ。



「頼む―― が……先ずは様子を見ようか」 そんな旗艦艦長にアルテアン少将は薄く笑って応えた。「――あの(ふね)は〝何をしてくるか〟わからんからな」




7月23日 0840時 【航宙軍 第1特務艦隊旗艦 タカオ/艦橋】


 〈カシハラ〉被弾の報告に、第1特務艦隊司令コオロキ提督は首席幕僚を伴うとCICから艦橋へと移動した。席を立って迎えようとする艦長らを制して艦橋内に歩を進める。敬礼で迎える艦橋各員への答礼もそこそこに、コオロキ提督は艦長に訊いた。


「――…〈カシハラ〉は?」


 〈タカオ〉艦長は中央に吊られた複合スクリーンを指して応える。

「〝動き〟が止まりました―― 軌道要素に変化、ありません」


 モガミ型に連なるその機能的な艦型に、目に見える損傷はないように思えた。


「被弾したのは上部構造体だったか? 機関に被弾はしてないのだな?」


 主管制士が答えた。

「ハッ 左舷の観測室(ウィング)に1発です。機関部・推進器への被弾は確認されてません」


 ――…〝死んだふり(オポッサム)〟か……?


「〝小破〟ですね。しかしこの程度で〝加速できなくなる〟ことがあるでしょうか?」

 首席幕僚のナガヤ1佐の独り言ちるようなその問いに応えるでもなく、コオロキ提督は艦長に訊いた。


「――通信は?」

「依然、呼び掛けておりますが〝返答なし〟です」


「…………」 もう一度深く頷くと、提督は決断の表情になって口を開いた。「――艦長。もう一度〝通話呼〟を頼む。今度の〈発信者〉は〝コオロキ()()〟のコードを使ってみてくれ」


 艦長は肯くと、艦橋に控えていた通信長に向いて指示を伝えた。





7月23日 0845時 【H.M.S.カシハラ/戦闘指揮所(CIC)


 戦場の真ん中で加速することすら(まま)ならなくなった〝女王陛下の艦(H.M.S.)〟〈カシハラ〉――。

 被弾した左舷観測室に居たタツカの無事の報告を航宙長(イツキ)から受けて、CICの重苦しさはようやく少しだけ薄らいだようであった。


 通信管制卓の通信長シュドウ・ナツミ宙尉も、タツカ無事の一報に心の中で小さく胸を撫で下ろす。


 ――と、目の前の卓の機器(コンソール)に、新たな〝通話呼〟の受信を告げる表示があった。

 その〝通話呼〟がこれまでのものと違うのは、発信者が『第一特務艦隊司令部』ではなく『コオロキ・カイ宙将補』となっていることだった。


 シュドウ宙尉は艦長に状況を告げた。



 * * *



 CICに立つツナミの目の前、メインスクリーン一杯に通話画像が映ると、そこに士官学校の術科教官であったコオロキ宙将補が現れた。ツナミをはじめ〈カシハラ〉の乗組員(クルー)一同は自然と挙手の敬礼をし、それにコオロキが答礼をした。


 手を下ろしたところで、コオロキは静かに口を開いた。

『――…ようやく通話に応じたか、まったく…… 〝引っ張り過ぎる〟ところは貴様の悪い所だ』


「…………」 ツナミは術科教官による評点を受けているようなそんな気分になりそうな自分に喝を入れ、しっかりと面を上げて言った。「――…確かに否定できないところは多々ありますが…… こうまで引っ張ったことに意味がありました」


 コオロキはその視線を正面から受け、しばらくしてから言った。

『聞こうか』



 ――ツナミはコオロキ提督と通話回線を繋ぐに先立って、10分ほどミシマら幹部乗組員(クルー)と、身動きの取れなくなった〈カシハラ〉のこの後についてを打ち合わせていた。


 それは実際には打ち合わせというよりも〝確認〟で、そこでミシマが口にした〝この辺りが潮時だろう〟が、この時点での全員の一致した見解であった。それで艦長(ツナミ)は、事前に策定した『基本行動計画』で所期の目的を達成できなくなった場合に備えておいた〝代替案(プランB)〟の発動を決断したのだった――。




7月23日 0900時 【航宙軍 第1特務艦隊旗艦 タカオ/艦橋】


 その〝代替案(プランB)〟を聞いたコオロキ提督は、かつての教え子の考えをもう一度()(はか)る様に目を細めて訊いた。


「そうまでして〈アカシ〉の領宙にこだわる必要があるのか?」

『…………』


 艦長(ツナミ)は真っ直ぐに目線を向けて返している。

 候補生――〈カシハラ〉の乗組員(クルー)――らは、どんな形になろうとも、何としても(カシハラ)を航宙軍所有の自航軌道船渠(ドック)〈アカシ〉の近方2万2千キロメートルまで進めたいと、そう言うのだった。


 ツナミのその目を見て、コオロキ提督は駄目を承知で諭すように言った。

「貴様たちはよくやった ――エリン殿下を王党派の艦に預けベイアトリスに向かわせた現在(いま)、ここで艦を停めても誰も後ろ指を指す者はいまい」


『――……〈アカシ〉には…――』

 ツナミはそんな恩師に言葉を探すように視線を向けた末に、ようやく見つけたらしい言葉の連なりを果たして口にしてもよいのかと逡巡をする。


 そうしたところで艦橋からミシマが割り込んできて引き取ってしまった。『――…〈()()()()()〈アカシ〉に辿り着く、その〝事実〟にこそ意味があると思っております』


 それが〝〈カシハラ〉の総意〟だと自明ででもあるかのような、そんな言い様だった。そしてそれは、恐らく事実なのだろう。


(こだわ)るのだな……」


 コオロキのその溜息ともつかない苦笑交じりの問いには、ツナミが応えた。

『……はい』



 しかしまぁ、少年のような瞳でものを言う……。コオロキはそう思いつつ、教え子を見返した。自然とその口元が緩む。


 そうか……


 ――ツナミは自分の想い以外のそれを受け容れることの怖さと覚悟を学び、ミシマはそんな漢の心中を代弁してやれる余裕を得たか……。



「いいだろう――」 ついにコオロキは〝折れる〟ことにした。航宙軍の軍帽(キャップ)を被り直しながら言った。「――第1特務艦隊の全力をもって、貴様らのその〝代替案(プランB)〟に協力をしてやる」



 その言葉にツナミは表情を引き締めて応える。

『ありがとうございます』


 そんなツナミに、コオロキは〝釘を刺す〟のも忘れなかった。

「その代わり一つ〝約束〟をしてみせろ」 術科教官の厳しい表情だった。「――ここまで来たのだ。この先、誰一人死なすな」


「……――はい…!」

 その言葉の重みに、ツナミはあらためて表情を引き締めて頷いた。





7月23日 1000時 【航宙軍 第1特務艦隊旗艦 タカオ/戦闘指揮所(CIC)


「――…どうだ?」


 戦術マップを見ながら首席幕僚のナガヤ1佐が作戦分析主任幕僚に訊いた。作戦分析主任幕僚の冷静な声が応じる。


「は…… 我が艦隊の放った爆雷の第1群は7分後に〈カシハラ〉と〈エクトル〉の中間点に達します」

 戦術卓(コンソール)の上の主任幕僚の指が動くと、複合スクリーン上の戦術マップの標示(マーカー)の情報量が変化していった。「――第2群は〈キルッフ〉に対し10分後…… 3群は〈オルウェン〉……13分後です」


帝国軍(ミュローン)艦艇との交差軌道(コリジョンコース)は避けているな?」

 念を押すように訊く首席幕僚に作戦分析主任幕僚は即答した。


「それは大丈夫です。全弾、帝国軍艦(HMS)の軌道には掠めもしてません」

「……よし」 首席幕僚(ナガヤ1佐)は何とか自分を納得させるふうに頷いた。それから指揮通信幕僚の方を向く。「――〝コウモリ〟の方はどうなってる?」



 第1特務艦隊の全艦は〝代替案(プランB)〟の発動に先立ち、雷撃管制艦〈キタカミ〉の統制の下、全ての宙雷発射管と艦対宙誘導弾(短SAM)ランチャーに装填されている爆雷並びに迎撃宙雷(ミサイル)を――次発装填が可能なものも含め――全弾射出した。


 大量投射された3群の爆雷並びに迎撃宙雷(ミサイル)は、〈カシハラ〉と接近する帝国軍(ミュローン)艦隊の各艦艇との間の空間に飽和的に〝欺瞞物体(デコイ)〟――チャフやフレア――をバラ撒き、〝チャフ回廊の幕(スクリーン)〟を形成するはずである。



 またもう一つ、第1特務艦隊は〝代替案(プランB)〟を支援するための仕掛けを提供している。〝コウモリ〟と符牒の付けられた〈無人索敵機(プローブ)〉がそれである。


 元々艦隊の〝戦闘航宙管制の傘〟を補完する〝電子の眼〟として放出された物であるが、特務艦隊司令部はうち1基を戦術データリンクから〝故障した〟として切り離すことで、〈カシハラ〉へと提供したのである。


「……ハッ―― 〝コウモリ〟は既に〈カシハラ〉とのデータリンク接続を完了」


 ナガヤ首席幕僚のその事実確認の声に、指揮通信主任幕僚もまた即座に返す。この辺り、首席幕僚は司令部を実に手堅く、機能的にまとめていると言えよう。


 指揮通信主任幕僚は続けた。

「――本隊統合戦術情報系からは切り離されていますが、〝モード121〟で稼働しています」



 ナガヤ1佐はもう一度頷いた。


 〝モード121〟は個艦の処理系単独での運用を指す。

 これでこの〈無人索敵機(コウモリ)〉が〈カシハラ〉の〝電子の眼と耳〟の一部となったことと、いま一つの機能――データ中継基地局(〝神経伝達系〟)としての能力――について〈カシハラ〉が利用可能な状態になっていることが確認された。



 最後にコオロキ提督を見遣り、ナガヤ1佐は言った。

「――準備よし、です……」


「よし」

 ……と、コオロキ宙将補は、静かに頷いて返した。

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