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皇女と候補生と航宙軍艦カシハラ号  作者: 宇宙だいすき
第4部 そして旅は終わり、物語となった……
56/75

54:ニュース動画

7月12日 0845時

        【コーダルト星系 惑星〈小コーダルト〉/首都〈コーダ〉】


 週末の遅い朝のこと――。


 自宅(アパートメント)の小さなダイニングから、モバイル端末を広げてニュースを拾っていたディック・サッセンは、そのニュース動画(コンテンツ)に目を留めた。


 そこには『ベイアトリス皇女』『逃避行』『過激分子』『拉致/人質』『クーデター』『国軍』『航宙軍艦』『継承権争い』『お家騒動』といった言葉が躍っている――。


 この1ヵ月余り、〝非常事態宣言〟を受けての『国軍』による情報統制が続き、星域(エデル・アデン)のマスメディアは鳴りを潜めていたのだが――ミュローンは情報の選別は行ったものの報道機関の閉鎖等はしなかった――、この数日で俄かに活性化していた。



 切っ掛けは星系間情報伝達システムに乗った一本のインタビュー動画の拡散であった。


 動画の中でベイアトリス朝王家の第4王女〝エリン・ソフィア・ルイゼ・エストリスセン〟を名乗る少女は、マシュー・バートレットというフリーのジャーナリストの向けるマイクに向かい、六月六日の〝政変〟――インタビューでは始めからこの表現が用いられていた――以降の『国軍』による自由回廊諸邦への武力による介入の実態と情報の統制を批難し、自らの皇位継承に係る帝国支配層(ミュローン)の過剰な干渉を訴えている。


 その内容はとくに衝撃的(センセーショナル)というものではなかったが、広告代理店に勤めるディックの目から見ても、〝創作(フィクション)〟として片付けてしまえない説得力を感じさせるものだった。



 〝エリン・エストリスセン〟を名乗る少女の、その聡明さが印象的な落ち着いた受け答えと、それに続く航宙艦同士の宇宙空間での静かな戦闘のどこか無機質で無感動なシーン――。それが逆に衝撃的(ショッキング)ですらあった……。


 さらにシング=ポラス星系選出の邦議会議員フレデリック・クレークが、その爽やかな弁舌で皇女の決意に賛意を示してその旅路のエスコートを自ら申し出た経緯を語り、皇女と同世代の少女――〝星系自治権獲得運動〟の中心人物、〈クリュセ自治政府〉ジェンキンス首相の娘だという…――が語る、この1ヵ月余りのエリン・エストリスセンという少女の人物像に人々は魅きつけられる。



 少女は言う――。〝無制限の力を前提とする統制を無条件に受け入れることは愚行である〟と……。


 記者は問う。〝力を前提とする統制とは、現帝政の在り様……体制(ミュローン)そのものを指すのか〟――と……。


 静かに肯く少女に、記者は重ねて問い掛ける。〝ならば貴女もまたミュローンであるが、その力を否定する立場なのか?〟と……。


 少女は明確に首を振ってみせた。〝自分は体制(ミュローン)を否定するものではない――。〈力〉は否定されるべきものではなく、ただ〈生〉を(たす)ける手段に過ぎない〟と……。



 少女は続ける――。〝だからこそ望まれるべき〈生〉となるための〈努力〉こそが必要である。(まさ)にミュローンとは〈努力する生〉であることが望まれる存在であり、皆がミュローンであるべきなのだ〟と――。


 記者はその言葉からメッセージを拾う。〝皆がミュローンたることで無条件の服従は回避され、結果として〈力〉に制限が課される……そういう理解でよいか?〟


 少女は応える――。〝その理解でよいと思う〟と。



 記者は慎重に言った。〝しかし皆がミュローンのように振舞えるわけがない。全ての人にそれは期待できないし、ただ期待するというだけなのであれば、それこそ無責任というものではないのか?〟


 少女は少し硬い表情になって問い返す――。〝……人は〈臆病〉であるから?〟と。


 記者は肯いて返す。〝――人は絶えず〈躊躇い〉、〈立ち止まり〉、いくつもの可能性のなかでこれと決めることが出来ずに〈迷う〉ものだ。また()()()〈力〉を正しく扱う存在たろうとする者も、残念ながら少ない……〟



 すると少女はそれを否定しなかった――。〝それでよいのです〟と……。


〝――〈臆病であるということ〉は自己への要求と義務の現れでしょう。臆病だからこそ、人は努力もします。人は臆病であるべきです。わたしは臆病すぎる人をこそ信じます。……それにすべての人が〈力〉を(ふる)う必要もない。そんな強さは、誰もが持てるものではないでしょう。……ただ、勇気を以って〈声〉は上げるべきです〟


 記者はゆっくりと反芻するように確認する。〝勇気を以って……臆病であるべき……〟


 少女は覚悟を持った目で記者を見返した――。〝帝国の支配層(ミュローン)としてのわたしは、臆病な者の〈勇気の声〉を拾い集める〈器〉です。……その声に応えるべく〈努力する生〉こそが、〈わたしが信じたい体制(ミュローン)〉という〈力〉なのです〟



 そう短いインタビューを締め括った少女に、ディックは軽い反発と、それだけではない感覚を覚える。そして、もう一度動画を再生した。


 別窓に出力(ワイプ)した報道番組やワイドショーの中では、体制・反体制双方の側が思い描く〝起承転結〟をボードで示し、コメンテータがアレコレと丁寧に辻褄を合わせてくれた見解を纏めてくれている。



 記者の抑えた語り口に、ときおり胸元に右の手を当てる仕草とともに真摯な瞳――とてもキレイだと思った――で応える少女には、説得力を感じた。


 コメンテータの言葉には魅かれるものはなかった。


 ――正直、少女には〝恵まれた生まれの人間だから小難しいきれいな言葉を並べることができるのだ〟と思わないでもない。


 でも、コメンテータの視聴者を意識する迷いのない平易な言葉の羅列にはない、自分自身の判断や決断を信じ切ることを躊躇う臆病な者の、それでも周囲の人々を説得し承認をとりつけようと情理を尽くす誠実さを、どこかに感じている自分がいた。



 とりあえずディックは、ネットワーク上の動画に〝いいね!〟をポストすると、大陸の反対側に住む――もう何年も会ってない…――姉を、通話回線で呼び出してみた。

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