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皇女と候補生と航宙軍艦カシハラ号  作者: 宇宙だいすき
第2部 若者は戦い、今日を足掻く
31/75

29:『宙賊航路』と『ミシマ商会』

 『宙賊航路』――マレア星系第4惑星の後方トロヤ群、通称〝マレイズ(しょう)〟を通る航宙軌道は、その名の通り組織化された〝宙賊〟が出没する危険空域として恐れられていた。


 航路の先々は〝自由回廊〟の北側諸邦と相互結節する複数の重力流路(トラムライン)で、〝非常に可能性を秘めた〟交易路なのだった――事実かつては賑わいをみせていた――が、現在では宙賊による余りの被害の多さに、決して少なくない数の民間船がここを避けて航宙している。近年では武装した航宙艦艇が消息を絶つという事態も発生していた。


 そんなマレア星系は、ここカルタヒヤ星系の跳躍点(ワープポイント)と接続をしている。




6月13日 1440時 【H.M.S.カシハラ/艦長公室】


 ミーティング終了後、珍しく場違いとも思える提案をしたアマハと、そんな彼女に顔色が変わったミシマの二人を公室に残したツナミは、ともすると〝対決〟の場にでもなったかのような緊張感の中、非常に居心地の悪い時間を過ごすことになった。


 互いに相手の様子を覗うようだったが、3分ほど経って遂にミシマが口を開いた。

「どこまでを知ってるんです?」

「全部……」 アマハは視線を逸らすことなく薄く嗤って言った。「――〝扯旗山(ちぇきさん)〟と〝ミシマ〟との繋がりも全て……」


 それを聞いたミシマは、天井を仰いで息を吐いた。

「どうしてそれを……?」


 そのミシマの問いに、アマハは少し躊躇うように視線を遣ってから答えた。

「――ミシマ・キョウ…… 貴方の……お兄さま、から」


 その答えにミシマ・ユウがアマハに向けた表情(かお)は、ツナミが初めて見る表情だった。


 しばらく、彼は黙ってアマハを向いていた。

 やがてミシマは、この場のツナミの存在に我に還ったように、あらためてツナミにとって先の見えないこの会話を説明し始める。その間、アマハは黙っていた。


「――つまり『宙賊航路』の〝宙賊〟は『ミシマ商会』と裏で()()()を持った、言わばミシマ家の私兵ということだよ……」


 その言葉に表情の強張るツナミを、おそらく敢えて見ないようにしてるだろうミシマは、淡々とした口調で続けた。


「宙賊どもの根城――〝扯旗山(ちぇきさん)〟にはミシマ商会から武器弾薬が流されてるし、奴らの戦利品を資金洗浄(マネーロンダリング)する〝窓口〟も置かれてる。オオヤシマ黙認の無法地帯、それが〝マレイズ(しょう)〟の『宙賊航路』と〝扯旗山(ちぇきさん)〟というわけさ」


 そうやって話を苦々しく結んだミシマと、同じ部屋の片隅でそれを聞いていたアマハの二人を思わず二度見してしまったツナミは、自分の意識が何処かへ遠のいていくような感じに見舞われていた。


 生涯を一軍人で在ろうと、そういう単純な人生を歩むつもりだったツナミには、こんな話はできれば聞かないでおきたかった。事が大き過ぎてまるでファンタジーだ。実感が湧いてこない。


 ――が、兎も角…… 二人の様子からこれは事実らしいし、事実であるなら〈カシハラ〉は補給の当てを持つことができた、ということだった……。



 ツナミはそんなことを思いながら、同期の首席で現在(いま)は自らの指揮艦の副長を務めるミシマをあらためて見た。


「――何で黙ってた?」 少し迷いはしたが、結局訊いていた。


 ミシマは顔を背け声を荒げる。

「言えるかこんなコト!」 ささくれだった自分の声音(トーン)になおさら苛だったかのように、ミシマは言い捨てた。「――〝ミシマ〟の『家』の〝恥じ〟だ‼」


 ツナミはミシマから視線を外した。そして今度はアマハを見遣る。表情を消した美人というのは立体(ホロ)ビデオのドラマの中だけで十分だと、彼女の整った(かお)はそう思わせた。




6月14日 1620時 【惑星オオヤシマ首都アワクニ/ミシマ商会副社長室】


 星系同盟の実質的な盟主オオヤシマ……その首都アワクニ――。


 ミシマ財閥本社の巨大な複合機能高層棟は、星系首都の表玄関たる『中央発着場』に隣接した広大な敷地の中にあり、経済大国の筆頭政商という〝力〟を誇示して佇立していた。


 その権力の中枢の一角に『ミシマ商会』の副社長――現ミシマ家当主の二男であるキョウの執務室は在った。

 週の1/3をそこで過ごすミシマ・キョウは、いつものように定例()の報告を側近から受けていたのだが、それが終わると側近のアヅマの意味有り気な問い掛けに、手元の資料から目線を上げることとなった。


「――()()()は〝扯旗山(ちぇきさん)〟に入りますかな?」


 今年で30歳になった副社長にそう訊いたのは、『副社長室』――通称〝外事課〟――を束ねるアヅマ・ハルキ室長である。


「どうだろうねぇ……」

 それに応えるキョウは、〝ミシマ家の人間〟とは思えないある意味この人物特有とも言える、まったく緊張感のない喋り方で応えた。

「――ユウはそれほど馬鹿じゃないし、艦長代理の次席の男も水準以上と聞く。()()()に考えれば、他の〝手立て〟を考えるよりは効率的だと思うのだけれどね―― ただ……」


「…――ただ…… ――弟君はお若い?」

 そう重ねて訊いたアヅマに、キョウは苦笑して肩を竦めて見せた。それから手元の資料へと視線を戻す。



 ミシマ・キョウという男は、その学者を思わせる〝悪目立ち〟のしない風貌と柔らかな語り口もあって凡庸な風采の上がらない男に見られるのが常であった。――が、その実、その気にさえなれば〝冷徹な〟判断を眉一つ動かすことなくやってのける男でもある。


 ――十年間(そば)に仕え、そうなるように〝育てた〟という自負が、アヅマにはある。


「――例の(ふね)には、アマハ・シホが乗り合わせているそうです」

「…………」 そのアヅマの蛇足にキョウは特段の反応を示さなかった。「――そうか。それは使えるかもしれないね」


 言ってアヅマを退出さ(さがら)せる。

 室長が出て行くと、キョウはそろそろ陽の陰ってきた窓外に目をやった。



 * * *



 同日、カルタヒヤを航行中の〝皇女殿下の艦(H.M.S.)〟〈カシハラ〉では、ツナミ艦長が改めて幹部士官を集め、マレア星系に向かうことを告げていた。


 宙賊と一戦を交えるのか、と緊張する幹部士官の蒼ざめた顔に艦長が言ったことは、その宙賊と『取引』をしようと思う、という言葉だった――。




6月14日 1910時 【H.M.S.カシハラ/士官個室】


 アマハ・シホは、室内に据え付けられたバスユニットの湯煙の中の鏡に映る自分の顔から、まるで〝情けないもの〟を見てしまったかのように目を背けた。


 ――こんな想いが〝嫌〟だったから、航宙軍に入ったのに!


 三年前に味わった、あの〝惨めな思い〟が、心中にまざまざと甦ってくるようだった。その不快さに、もう一度熱いシャワーの水栓を開く。でもこの不快さは、シャワーなんかでは洗い流せないように感じてる。



 ――だから……〝ミシマ〟なんて…嫌いなの。


 やるせないな、とアマハは思う。こんな人生は〝アンフェア〟じゃないか、と……。

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