全部吐き出して、そしてはじまる
一瞬言葉がなかった。
「やめて、やめて、あなたになにがわかるの。」思いつめたように、かなり興奮気味になり抵抗し僕の腕から、離れる。
「ぼくには、分かるよ。誰にもいってないけど、僕の家族‥‥兄も快楽犯に殺されたから」
「えっ」
「なんちゃってな」
茶化したけど、留美はそういう冗談は言わない。もしかして私と、同じ!?
「そういうループって本人が断ち切らないと、一生続くと思わないか?」時おり説得力のある言葉がでるのは、今まで人に言えない苦労をしてきたせいかしら。
(私ったら、なんでこいつのペースにはまってるの?)
留美の顔が再度近づき、唇が重なり合う。今まで、カップルを装いながら初めてのことだ。「なっ、何するの」
「僕たちもやり直そうよ。顔、最初怖かったけど大分傷なおったね」白く細い指で、傷跡に触れる。そして、再度キスをする。傷口をいたわるように顔中から、首筋に柔らかい唇がおりてくる
留美に、優しく抱きしめられ
互いの唇が触れ合う。
生温い吐息が広がり
全身の力が抜けていく。
自然の流れに身を任せ
瑠美の思うがままに動かされる。
私の耳元で彼の甘い声が広がった。
「お前は、仁が好きなんだろう?」
その言葉に動揺を隠せない私は、思わず彼の腕を力一杯振り解き
突き飛ばした。
予想に反した
この行動に彼は
状況を飲み込めずしばらくキョトンとした表情をしていた。
その間に私は、フーーと、
深く息を吐き
熱くなった身体一杯 空気を流し込み
冷静をよそおった。
が、 相も変わらず
心音は、手に取るようにはっきりと
聞こえた。
「なんで今、そんなことを言うの」
その言葉を必死で彼に投げかけた
その言葉は
彼にも影響を与え
表情が息を吹き返す
元の自信あり気な顔つきにもどった。
「今日でお前の気持ちを
全部吐き出させようと思って」
やっぱり、留美は侮れない。
私の役割は歌手グループのマネージャー。実のところ、ジャイアのメンバーの監視役だった。更生段階の囚人達の。
こいつらが憎かった。姉を殺した犯人と、同じ犯罪者。少しでもおかしなところがあったら、正当防衛で殺すはずだった。
でも、でも、、何年も一緒に過ごしかけがえのない仲間になっていた。
そして、仁のさっぱりした性格に惹かれていくのを止められなかった。
「俺は、待つよ。俺だけを見てくれるまでずっと‥‥。今までもそうだったから」
「ありがとう。あなたのそういうところが好きよ」ぎこちない笑いだが、彼女の最高の表情だった。