いったい、何が起こったんだ??
「ビー」という機械音が鳴り響き、辺りが暗くなっていく。
ざわざわという喋り声がいっそう大きくなり、その中で無数の人が動めいていた。
その光景からしばらく時間が経ち、音楽が会場全体に響き渡った。
それに合わせるようにペンライトの色とりどりの光が左右に揺らいでいる。
ステージ上に全盛期のアイドルグループ、ジャイルが「プシュー」という
スモーク煙と共に登場した。
規模は小さいが、チャリティーコンサートということでメンバーは気合いがはいっている。
3人の軽い紹介をかねて、トークが進んでいく。
「みんな、来てくれてありがとう」最年長でもある、ヤミがトップバッターだ。
長髪を後ろで束ねていて渋い。
「みんな、今日は僕の作った歌も初お披露目だからお楽しみに」このメンバーのムードメーカーでもある留美。女の子のようなキュートな容姿もファンにはたまらない。
「ありがとう。一生懸命に歌わせてもらうね」最年少の仁。この人見知りの初々しさがファンにはたまらんらしい。
「キャー」ファンのつんざくような声援の中、彼らの情熱的で時には甘く優しい歌声が観客の心を掴んで離さなかった。
会場全体が熱気につつまれ、観客のほとんどが1月というのに身体が汗ばんでおり上着を脱いでいた。
ジャイルのメンバーも、軽装とはいえ大粒の汗が蔓延っていた。
このステージライトと大勢のファンの熱気を浴びていたからだ。
コンサートもいよいよ終盤になってきている。
今日の目玉である見せ場が始まった。
ジャイルのメンバーが1人ずつ抜けて、違う衣装に変えてバトンタッチしていく。最初はヤミ。その間、留美と仁とで間をつないでいく。
次は瑠美が投げキッスをしながら抜ける。
2人が抜けた後はソロで仁が軽快な曲で場を盛り上げて歌いきると、手を広げお辞儀をしながら舞台から消えていく。
間を入れずに落ち着いたバラード曲が流れてきていた。その曲に合わせるように会場の奥まった左右の扉からヤミと留美が同時にデュエットで歌いながら現れるはずだった…が。
ドアの前には、ヤミしかおらずいくら待っても反対側には留美が現れない!!
さっきまでいたマネージャーの姿も見えない。
他のスタッフにマネージャーと留美を探してもらうが、時間が押しているので仕方なくヤミだけ扉を開き、出ていく。
「きゃ~、ヤミ」不安な面持ちのヤミだが、ファンの声援に支えられながら歌いだす。
救急車のサイレンの音が近くで止まるのを聞きながら。深く考える余裕もないままヤミは最後まで歌いきった。
その直後、前方のステージには再び仁が現れた。
「皆さん、実はこのコンサートとを続けられない不祥事が起こりました。詳しくは係りの者に詳しく説明させていただきますが、今日のところは誠に申し訳ございません」と言って、ステージ裏に引っ込む。
突然のことにファンはざわめきたつ。
そして代わりにマイクを持ったスーツ姿の者が、ジャイアのメンバーの留美とマネージャーが何者かに包丁で切り付けられ救急車で搬送されたと告げる。ケガの具合や詳細が分かり次第ネット配信するとのこと。そして今日のコンサートは代金の支払いと共に打ち切りということ等を、メモをみながら淡々と読み上げていた。
その話を聴いた途端に、むせび泣くものや叫びだすものなどが多数いた。だが、人気者スターということもあって、警備員が多数常備していたのでなんとか暴動にはならずにくいとめることができた。