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侍女長

 王室に来て1ヶ月後のことだ。目が覚めると私はアトリエにいて目の前に絵が置いてあった。私は筆を握っていたことからすぐさま理解した。寝室で寝ていたつもりだったが、いつのまにか描いていたのだ。王室に来てから初めての予言の絵だった。


その絵に描かれているのは森の中の滝だった。そこには馬に乗った1人の男性が描いてある。凛々しい顔をしたどこかの王子様と思われる人物。短髪の髪の毛は黒く、瞳は青かった。頭には立派な王冠を被っている。


 これは誰だろう──ヘンリー様でもジョージ様でもない知らない王子様を描いてしまったことで私は困惑した。


 私はすぐにアンナに相談して絵を見てもらうことにした。


「アンナ、この絵なんだけどどう思う?」


「お姉さま、さっそく絵をお描きになりましたのね!これで私が予言を告げれば国王陛下にも良い報告ができそうですわね!」


 アンナは目を輝かせ喜んでくれたが、絵を見た瞬間その表情は険しくなった。


「お姉さま?これはどこですの?滝の前で馬に乗っている王子様?これは一体何を表してますの?」


「わからないの、アンナごめんね……変な絵を描いちゃって」


「これは……一体誰なんでしょう?王宮内でも食事会でも見たことがありませんから、貴族の中の誰かというわけでもないでしょうし……」


「この髪の色はこの国では珍しいわね」 


「この国の貴族たちはほとんど金髪ですからね」


 2人であれこれ考えては見たが、この滝がどこかもわからないし、人物が誰かもわからない。この王宮に無関係の人物を描いたのでは国王陛下や皆に不信感を与えてしまうのではとアンナは心配してくれた。


「とりあえずこれは見なかったことにしましょう!2人だけの秘密ですわ」


 そう言って絵はアンナが処分してくれることになり、それからまた月日が過ぎた。




 私とアンナに課された妃教育はとても厳しく、王宮のルール、一般教養、専門知識の習得など多岐に渡り、なかでも食事制限が一番こたえた。


「好きな物食べられないなんてショックですわ。王宮に来たら、お菓子食べ放題だと思ってましたのに……」


「そうね、我慢するしかないわね」


 そういったストレスを私は絵を描くことで、アンナはジョージ様に当たり散らすという形で発散していた。


 アンナはことあるごとに、ジョージ様の不満や悪口を私や侍女に漏らしていた。私はアンナに悪いことばかり考えてほしくなくて、いつも話を反らすのに必死だった。


「ねえ、アンナ!この色彩どうかな?皆にも好評なんだけど」


「──お姉さまはいいですわね!絵の才能がおありで!そのおかげで王太子妃ですわ!私なんて私なんて──。」


「アンナ!そんな言い方はひどいわ!」とアンナを

初めて叱った。私は日に日に歪んでいくアンナを見るのはとても辛くかったのだ。


 それから3ヶ月ほど、私はアンナとまともに口を聞かなかった。アンナは相変わらず我が強く、ワガママを言いまくっていて侍女たちを困らせていた。




 ある晩、アンナが私の部屋にお菓子を持ってコッソリと遊びにきた。


「アンナ!どうしたの!深夜は城内の部屋の行き来は禁止よ」


「バレなきゃ大丈夫ですわ」


 最近のアンナの態度から私は素直に喜べなかったし、そもそもルール違反をしていたので大問題だったが、しぶしぶ付き合うことにした。


「お姉さま!最近は何かと不安にさせてしまい申し訳ございませんでしたわ。お詫びにお菓子を持ってきたので、いっしょに食べましょう!」


「あ!クッキーだ、素敵ね。しばらく、食べてなかったわ。夜も遅いから明日頂くわ」


「そ、そんなこと言わずに今一緒に食べましょうよ!私の手作りですので!」


「え!アンナ、お菓子作れたの?」


「ええ、シェフに教えていただいて秘密裏に練習してましたの、明日はジョージ様の生誕パーティですので、私からも何かプレゼントをと思いましてね」 


「へえ、いいじゃない!アンナの手作りならジョージ様も喜ぶわよ。素敵ね!」


「ええ、だから実はお姉さまに味見をして欲しくって参りましたの」


「そういうことなら、頂くわ、ありがとう」


 私たちは少しの間談笑し、床についた。久しぶりにアンナと笑いあえて嬉しかった。昔みたいになんのしがらみもなく仲良かった頃に戻った気分だった。明日はジョージ様の生誕パーティだ。アンナのプレゼントをもらったジョージ様の喜ぶ顔が浮かんで、私まで嬉しくなった。


 その時──バンッ!とドアが勢いよく開いた。


「お二人共、夜間の出歩きは規則違反!それと決められた食事以外の物を食べるのも規則違反でございます」と言って部屋に入ってきたのは侍女長のマチルダさんだった!


 マチルダさんを間近で見るのは初めてだった。年の頃は60歳ほどだろうか。身長は170センチ以上あり、大柄な彼女の余りの迫力に私は息を飲んだ。


「ご、ごめんなさい!」と私はとっさに謝った。


 しかしアンナは「何よ!少しくらいいじゃない!規則、規則って厳しすぎるのよ」とマチルダさんに歯向かった。


「アンナ!ダメよ」と私はアンナの頭を掴んでいっしょに頭を下げさせた。


「次違反することがあれば……覚悟しておいてくださいね」とマチルダさんは言い残して部屋を出ていった。


「あー、怖かった。アンナ、彼女に歯向かっちゃまずいよ」


「フン!なによ!腹の立つお方ですわ!」


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