予言の絵
私が不思議な能力に目覚めたのは10歳の頃、絵を描くことが大好きで自由時間はいつも絵を描いていた。最初は花やお菓子や友達、修道院の周りの風景を描いているだけだった。
そんな中、たまに無意識に描き上げる謎の絵があった。描き終わって見てからもなんでその絵を描いたのかわからない。
「お姉さまったら!私が呼んでるのにずーっと無視して絵を描いていましたわ!」
「そうなの?全然覚えてない、ごめんね」
「お姉さま、それは何の絵ですか?院長が胸を押さえて倒れている絵のように見えますが」
「やっぱりそう思う?どうして描いたのかがわからなくて、気づいたらここまで描いてたの。不吉だから院長にはとても見せないほうがいいよね。内緒にしておこうかなあ」
絵の中の院長は胸元に手をやり仰向けに倒れていた。これは何かの暗示なのかあるいは──。
「うーん、意味がありそうですわ。言ったほうがよろしいかと思いますけど?お姉さまが、言いづらいようでしたら私が代わりに言いますわよ」
アンナのほうが社交的で口も上手かったため、私はアンナに任せることにしてみた。
「お願いしてもいい?何か院長に不安に与えないような言い方ができたらいいんだけど」
「任せて、お姉さま!」
そして私たちは揃って院長の所へ向かった。
「あら、院長?最近どこかお体に悪いところはありませんか?お医者様に定期的に見てもらうことも大切ですわよ?」とアンナは院長を気遣った。
「ハハハ、アンナが私を心配してくれるなんてね。これは珍しい」
院長はそう言って笑っていたが、心配していた私たちの様子に何かを感じ、後日医者に見てもらうとなんと病気であることがわかった。幸い初期症状だったため、なんとか治療で回復することができたが、放っておいたら悪化して3年以内に亡くなっていたとのことだった。
「アンナ!サラ!どうしてわかったんだい!私の病気のことが」
「お姉さま、どうしましょう?」
私が不思議な絵を描いたことをアンナといっしょに院長に話すと、神より授かりし聖女の素質と認められて、それからは修道院で大事に扱われるようになった。
「お姉さま、これはすごいことですわよ、私たち聖女の素質があるんですって!」
アンナは院長に認められたことを喜び、それから私にもっと絵の練習をするように世話をやいてくれた。
それから何度か私が無意識に描いた絵を口達者なアンナが解説するという方法で予言を行った。私たちは修道院の周りで起こる様々なことを予言した。すごく嬉しいや、驚いたこと、時には困ったことを予言して問題解決に導き皆を驚かせた。
「お姉さまの絵を見るのが楽しみですわ、今度は一体何が起こるのでしょう!」
アンナは私の絵を見て何が起きるのか推測して皆に喋っているだけで、おそらく彼女に何の能力もないことは、私にはわかっていたが2人でいっしょに認められたことが嬉しかったので、敢えて何も言わなかった。
「お姉さまの絵の才能はとてもすごいですわ!将来この国を動かしていくほどの力を手にできるかもしれませんわ」
「そんな、大げさな。こうして修道院で起こる問題を解決できるだけで充分よ」
「とにかく絵の説明なら任せてほしいですわ!絵を見ればお姉さまの言いたいことがビンビン伝わってきますので!」
アンナや周りの皆は、私にもっと絵を描くようにせがんだが、予言の絵は普通に描こうと思って描けるわけでもなく、無意識な衝動に駆られ描いているだけなので、それがいつやってくるのかは不定期で、2ヶ月から長い時では1年もの期間が空いたこともあった。
私たちの能力のことは、院長が修道院の皆に口止めしていたこともあり広まることはなかったが、時が経つに連れその噂はだんだんと国内に広まっていったようだ。
☆☆☆
18歳になった頃、ついに私たちのことが国王陛下の耳に入り王宮に呼ばれることとなる。
「そなたら姉妹による予言の噂は聞き及んでおる。
神より授かりし予言の力は間違いなく聖女の証。その力を我が国のために遺憾なく発揮してもらいたい。引いてはヘンリーとジョージとの婚約を申し付けよう」
こうして私は第一王子のヘンリー様と、アンナは第二王子のジョージ様と婚約することとなる。これは政略結婚であり、そこに愛はないが周りからは聖女ともてはやされ、私たちは担ぎ上げられて1年間の婚約生活を送ることとなった。
「お姉さま、やりましたわね。これで私たちの未来はバラ色ですわよー」
「アンナ、私は自分の力が怖いの、いつかこの国にとって悪い未来を描いてしまうんじゃないかと思って。あなただけは私の味方でいてね」
「もちろんですわ、お姉さま。今後とも『私たち』の力でいっしょに未来を切り開いていきましょう」
「ええ……そうね」
アンナには私にはない野心家の一面があり、この婚約で1番喜んでいたのはアンナだった。
修道院を出る日、院長は私たちの門出を祝うと共に、クギを刺してもくれた。
「いいですか、この国の人々のことを第一に考えなさい。あなたたちの予言の力にこの国を動かす決定権はありません。あくまでも国王陛下のお力添えになるだけのものです。もし国が道を誤りそうな未来を見たときは、自分たちだけで抱えこまないで、ここへ戻ってらっしゃい。あなたたちの未来に加護がありますように」