予言の王子
私は一晩考え、悩んだが、自ら王宮を出ていく道を選んだ。皆は止めたがあんなことがあったあとで王宮にはいられるはずがなかった。マチルダさんが私を気づかい、国境付近まで私に同行してくれることになった。
私は、第2の人生を自分のためにしっかり歩んでいこうと心に決めたのだ。
アトリエを片付け身支度をしているときに1枚の絵が目に止まった。滝の前で馬に乗って佇む王子様の絵、断罪のネタにもなった忌まわしい物だったが妙に気になった。
マチルダさんにこの絵の場所のことを聞いてみると、すぐに王宮の学者に聞いてみてくれた。学者によるとこの滝は国境付近の山の中にある場所で、この王子の着ている服は隣国の王族の衣装らしい。
王子の被っている王冠は国王即位の時にだけ身に着けるもので、普段から身に着けることはない物だそうだ。そしてある西の隣国では近々、王子が即位すると言う。
私はこの絵の彼のことが気になった。私の予言の絵に出てきた私の知らない男性。気になって仕方なかったのだ。だってこんなの──運命を感じずにはいられなかった。
出発する際、地下牢にいるアンナに面会することも出来たが断った。私の知る彼女ではなくなっていたので情もわかなかった。彼女は近々処刑されるらしい。
そういうわけで、私たちは今まさに、この絵の場所に来ていた。
「私は近くを散策していますので」と言い残して、マチルダさんは茂みに消えた。残された私の耳には、滝壺に流れ落ちる水の音だけが聞こえていた。
「すごく綺麗な場所……心が洗われるようだわ」
木々の間から射し込む光が水面に反射してキラキラと光っている。私はここに来た理由も忘れてその景色に見入っていた。辺りを見回してみると草花が生い茂り、蝶やトカゲなどの小動物が目についた。
そういえば絵の場所を確認してみなくてはと思い、持ってきた絵を広げて周囲を歩いてみた。
「ここかな、この絵はここからの景色で間違いないかな」
この絵の中では、太陽が滝の上の方から顔を出している。これは日の出が少し登り始めた頃の時間帯だ。つまり今がまさにその時間を迎えようとしていた。
──その時、後ろの茂みで物音がして私はビックリして振り返った。
「驚かせてすみません、君はここで何を?」
──そこには、白馬に乗った眉目秀麗な青年の姿があった。凛々しい顔つきに青い瞳、綺麗な黒髪で、健康的な身体をしていた。
まさに絵のとおりだった!こ、この人が私の運命の人!
彼の姿を見て私は言葉を失っていた。彼もまた私を見つめていた。なんだかすごく長い時間見つめ合っていた気がする。
「やっと……会えた……君に」
「「ええええええええええ!」」と思わず声が出てしまった。ちょっと待ってください!なんて運命的な展開なんですか!
「私は、たまたま!ここに!」わけもわからず、わけのわからないことを言った。
「え?たまたま?そうなの?」
「あ!いえ、違います!私は絵を見て来たんです!私の描いたこの絵です」と言って私は運命の、いや予言の絵を彼に見せた。
彼は目を丸くして、ぽかんと口を開けて絵を見ていた。なんですかその表情──
「これおれじゃない?」とマヌケな顔で口にする彼に私は少し惹かれた。




