2人の姉妹
「聖女サラよ!今日を以て貴様との婚約を破棄する!」
ヘンリー様は私に向かって声高らかに言い渡した。貴族や王族が集まるヘンリー第一王子の生誕パーティの会場での出来事だ。大勢の視線が集まる中、私は俯いていた。
──やっぱりか。私には既にわかっていたが一応断罪の理由を聞くために、勇気を振り絞り顔を上げ見たくなかった王子の方を見上げた。そして私の目線は嫌でも王子のそばに見え隠れする義妹のアンナを捉えた。
「理由を聞かせて頂けますでしょうか?」
「ふん、しらじらしいぞ?貴様が以前描いた予言の絵に描かれているのは余ではない。別の男ではないか!この不埒な浮気者め」
そう言って私の婚約者であるヘンリー第一王子は、そばにいる金髪の女性の肩を抱き寄せた。不埒なのは貴方ではないのですか?貴方の横にいるのは私の義妹のアンナですよ?
アンナの方を見ると彼女は不安げな表情をしている。だが私と目があった瞬間、口元が少しニヤけたのがわかった。この断罪劇も全て彼女の思惑通りだったというわけだ。私を出し抜きヘンリーに近づけたのがそんなに嬉しいの?
「アンナに聞いたぞ。貴様は能力を自分のために使い余を貶めようとしているとな!信じられるわけないだろう、追放だ!顔も見たくないわ!」
そう言い放ったヘンリーの体に身を預けこちらを見ているアンナは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。悪魔のような微笑み。ああ、これも私が描いた絵のとおりだ。この光景だけは本当に見たくなかった。
全ての元凶は私の描いた予言の絵だった。
☆☆☆
私とアンナは捨て子だった。偶然にも同じ日に拾われ、修道院に預けられた私たちは、いつもいっしょにいてお互いのことを姉妹と信じて育った。
だが成長するに連れて互いの容姿が明らかな違いを見せたことで、私たちは本当の姉妹ではないということに気づいた。私は髪も目も焦げ茶色なのに対して、金髪に青い瞳のアンナは見た目の印象に大きく違いがあった。
アンナは太陽の下で元気に走り回るのが大好きな子で、それとは対照的に私は日陰でずっと絵を描いているような子だった。
「うわーん、お姉さま!おやつを盗み食いしたのが院長にバレてしまいましたわー!金髪の子が逃げるのを見たって、この院には金髪は私しかいませんからって!私もお姉さまのような地味な髪色がよかったですわー」
「地味な髪色って何よ!おやつ盗み食いしちゃダメじゃない!食いしん坊なんだから!まあ私もこっそり食べたけどね」と言って私は舌を出した。
「お姉さまったら、ズルいですわー!」
活動的でオテンバなアンナとは対称的で地味な私だったが、姉として彼女に負けるわけにはいかなかった。
成長していく中で、アンナは明るく目立つタイプになり、私は絵を描くことに更に没頭していった。
私はアンナの金髪が羨ましかったし、彼女も自分の見た目には自信を持っていた。戒律の厳しい修道院ではあったが、アンナはオシャレが大好きで院長の目を盗んではよく私が彼女の髪をアレンジして結ってあげた。一方私は見た目にはめっぽう無頓着で髪の毛も肩くらいまでただ伸ばしていただけだった。
「アンナの髪の毛って本当にキレイね、羨ましい」と私が言うと、アンナはニコニコしていた。
「お姉さまは本当に絵が上手ですわね」と絵心が全くないアンナが、私によく言ってきた。
そうして私たちはお互いの良いところを認め合いながら成長していった。
そんな私たちに不思議な運命が訪れる。きっかけは私の描いた絵だった。
「お姉さま!どうしましたの?お姉さま!」とアンナの叫び声で気がつくと、なんと私の目の前に絵が置いてあった。覚えていないがアンナの話によると一心不乱に私がこの絵を描いていたらしいのだ。