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ヴェンデッタ  作者:
2/3

最後の日

 ざわざわとした喧騒の中イザリーとパットンはガンルームに銃を直していた。

 何月何日何時何分と名前、全てを記録に残さないといけないというこの手間がイザリーは嫌いだった。舌を打ちながら苦い顔をするイザリーにパットンは笑う。


「これが公務員って奴さ。決まり事で動いてる」

「せめてワンタッチで記録を残せるようにして欲しいね。電子決済よりもこういう所だ」

「それは言えてるかもな」


 銃を直し記録を付けて二人はデスクへ向かう。報告書を書かねばならない。


「そもそも街のごろつきなんて警察の仕事だろ。わざわざ情報局が動く意味が分からない」

「それだけ警察も忙しいって事さ。迷子犬の捜索がないだけまだマシさ」

「警察様々だな」


 言いながらもイザリーは報告書を書いていく。なんだかんだ言いつつもやることはやる男だ。パットンもその横で報告書を書いていく。

 そこに一人の男性が近付いた。


「ようイザリー、相変わらずパットンとはよく喋るんだな。俺達とも喋ってくれよ。同じチームだろ?」


 黒い肌に屈強な身体を白いシャツで包み、人の好さそうな笑顔。イザリー達のの部署の部長、カルロスだ。

 イザリーはそれを無視して報告書を書き続けるためパットンが仕方なく補助に入る。


「どうも人見知りらしいカルロス。馴染むには俺も数年かかったよ」

「おかしいなパットン。君とイザリーは10年来のペアだが、俺とイザリーは15年くらい一緒だ。イザリーお前が新人の頃から面倒を見てやったのになかなか気を許してくれないのはどうしてだい?」

「報告書を書いてるからだ」


 イザリーはカルロスと目も合わせようとしない。それにカルロスとパットンは肩を竦めて苦笑いを浮かべる。

 それを見たか今度は別のデスクに座った男女が声をかけてくる。


「仕方ないですよ部長。イザリーは無口なんだ。正直言えばどうして奥さんがいるのか不思議だね。なあお前もそう思わないかナタリー」


 少し嫌味っぽく言う細身の若い男、サムが棒付き飴を転がしながら言う。そしてサムに呼ばれた金髪の女性、ナタリーがファイルを見ながら言う。


「まあイザリーにそうしているように心を許せる相手には接し方が変わるんでしょう。普通の事よ。それに好みは人それぞれよ、ね?イザリー」


 イザリーは面倒くさそうに頭を掻いた。それを見て皆少し笑う。

 彼は人見知りというよりは口下手なのだ。言葉を選ぶのが下手というのか、つい悪態をついてしまう。それに怒ったりしないパットンだからこそ、彼は臆せず喋れるのだろう。まあその関係を築けるまで数年かかったようだが。

 イザリーは彼らを無視して報告書を仕上げてカルロスにそれを渡す。


「パットンお前も早くしてくれ。子供たちを待たせたくない」

「ああ済まない直ぐにやる。先に行っててくれて構わないよイザリー」


 パットンが慌てて報告書を書き始めるのを見てイザリーはため息をついて部屋から出た。パットンの言葉に甘えて先に帰ろうという気だ。

 二人は夜通し仕事だった。正直仮眠したいのだ。

 ビルから出て駐車場に停めている車に乗り込み、伸びをして煙草に火を点ける。

 子供からは匂いを文句を言われるがこれだけは止められない。自分だけの区間という感じがして、唯一心から落ち着ける場所だった。少しぐらいは許してくれと煙草を吹かし、一人顔を緩め、エンジンをかけて走り出す。

 少し走るとパットンからメールが入った。別の事務仕事を頼まれたから少し遅れるのだそうだ。まあ予定に多少余裕があるから問題はないだろう。

 この後イザリーは妻と娘を連れて、パットン家と共に遊園地に行く予定なのだ。まあいわゆる家族サービスだ。正直夜間勤務を終えた後だから休みたいのだがこういうのをしておかないと後々面倒だからやっておかないといけないのだ。


「おい帰ったぞ」


 帰宅したイザリーはリビングの机に鞄を置いてそう声をかける。しかし誰も答えない。時計を見るとまだ七時頃だ、寝ているのだろうと上着を抜いてソファに横になる。仮眠をしよう。

 情報局員はどうしても不定期な仕事だ。日勤夜勤だとか決まっていない。朝から次の朝までも珍しくない。だからどうしても慢性的な睡眠不足だし家族サービスも滅多に出来ない。しかし今回はパットンと休みを前以って合わせて漕ぎ着けた日だ、こうやって少しでもやっておかないといつ離婚を言い渡されるか分からない。

 だがまあそのためにも眠っておかないといけないと自分に言い聞かせ、目を閉じた。


「イザリー」


 少しするとイザリーは自分の肩を揺する振動と声で目を覚ます。酸欠のような軽い頭痛に顔をしかめつつイザリーは顔を起こす。目の前にはイザリーの妻、キャロルがいた。


「そろそろ起きてイザリー。準備しないと遅れちゃう。パットンから電話が来てるわ」


 キャロルがそう言ってキッチンに向かった。

 時計を見ると九時過ぎ。二時間ほどは眠れたらしい。イザリーは顔を起こしてキャロルが置いたらしい電話の子機を机から取って耳に当てる。


「おはようイザリー。迎えに来てくれる約束だろ?遅れそうか?」

「ああおはよう。いや直ぐに行くよ。そっちは問題ないか?」

「ああ娘もやる気満々だ。この分ならほっておいても楽しんでくれそうだ。少しは楽できるんじゃないか?」

「ああそれなら良いな。じゃあ直ぐに行くよ」

「わかった。気を付けて」


 イザリーはキャロルが持ってきてくれたホットドックを咥えながら着替えて、娘のローラの着替えを手伝い、準備する。キャロルは昼食の弁当を作っている。

 ローラがトイレに入ったのを確認してイザリーは二話に出て煙草に火を点ける。


「イザリー!スーザン達の前では吸わないでね!」


 キッチンの窓からキャロルが言ってくるのに片手で答えてイザリーは煙を吐く。

 キャロルとの仲は悪くはないと思う。普通にやれている。

 しかし正直疲れる時がある。

 特にこうして、煙草を吸っているときとかに。


「……」


 考えても仕方ない。イザリーは煙草を踏んでキャロル達が既に乗り込んでいる車に乗ってパットンたちの家に向かい走った。

 三十分ほど走った所にあるパットンの家で彼らと合流し、遊園地へ。一時間ほどだがパットンと交代で運転しつつ走って遊園地に到着する。

 子供たちはもはやイザリーやパットンを置いて母親の手を引いて遊びに行ってしまった。

 イザリーはため息をついてベンチに座る。


「普段滅多にいてやれないからな、こうなるのも仕方ないさ。子供たちもどう接して良いか分からないんだろう」


 パットンがコーヒーを買ってきてイザリーに渡す。イザリーはそれを受け取って煙草を銜える。


「……別に子供に好かれたいわけじゃない。まあ最低限の義務は果たしたいと思っているが」

「嘘をつけ。子どもが生まれた時大層うれしそうだったじゃないか。接し方が難しいのはわかるが、少しずつでも踏み込め。多分本当に一瞬で大きくなってしまうからな」

「……」


 イザリーは煙草を遊ばせる。


「それはそうと結局ヴァジーモヴィチの死体は見つかったのか。サメの餌か?」

「仕事の話に逃げるなよ。……まあそうだな、見つかってない。でもお前が撃った弾はどうやら相手の口に当たったらしくて歯が発見された。調査した結果、過去に見つかったヴァジーモヴィチの組織データと一致した。本人で間違いなかったんだろう。まあでもあの出血で海に落ちたんだ。岸まで泳ぐ前に死んでるさ。ボートとかもなかったしな。サメはわからないが、小ガニに突かれているだろうな」

「ご愁傷さまだ」


 イザリーは鼻を鳴らして煙を吐く。


「で、結局カニバルの強制捜査はどうなったんだ。がさ入れするんだろう?」

「手続き待ちだ。来週にでもやる予定らしい」

「どうせ俺達だろう?早くしてほしいもんだ」

「決まり事は守らないといけないからな、上も大変なのさ」

「そもそもそのヴァジーモヴィチってのは何なんだ?ロシア人っぽいのはわかるが」


 イザリーが聞くとパットンは唇を尖らせる。あまりいい奴ではなさそうだとイザリーは思う。


「用心棒だ。その通りロシア人の男で、契約を結んだ個人あるいは組織の指示で人を殺す」

「用心棒がか?」

「攻撃は最大の防御って奴だ。敵になりそうな奴を先に殺しておくんだ」

「なるほどな。有名な奴っぽいな」

「有名だな。名前だけは知ってる奴が多いけど顔を見た奴は少ない」

「全員死んでるからか?」

「全員死んでるなら名前も知られてないだろう。そうじゃなくて毎回顔を変えているらしい。だから特定はできない。DNAを採取するくらいじゃないと」

「なるほど。さぞ美容意識が高いんだろうな」


 イザリーは言って皮肉な風に笑う。パットンも笑い飛ばしてベンチから立ち上がる。


「さあ行こうぜ。子供たちにアピールするには絶好の日だ。ここで終わっちゃいけない」


 パットンが手を差し出してくる。イザリーは少し考えて煙草を踏んでその手を掴んで立ち上がる。少し先で遊んでいる娘たちの所へ。

 今日は子供たちに集中しよう。


「さすがに疲れたか。すっかり寝てるな」


 助手席のパットンが後部座席を振り返りながら言う。ミラーで確認すると遊び疲れて寝ている子供たちをキャロル達が撫でてやっていた。

 あれだけ走り回ればさすがに疲れるのだろう。訓練を積んだイザリーでさえも疲れているのだから当然だろう。まあ、静かなのは悪い事ではない。このまま寝かせてやろう。


「イザリー、いろいろ思う所があるのはわかっている。仕事でも家庭でも人との接し方を難しく思うのは仕方ない。難しく考えるなというのは簡単だが、それで済むなら誰も悩みはしないからな」

「……」

「ゆっくりでいい。仕事との折り合いは難しいだろうからな。お前が転属を考えているのも聞いたよ。家族を選ぶのも良い事だ。ゆっくりと歩み寄ればいい。応援する」


 パットンが子供たちに聞こえないように小声で言う。

 イザリーは悩んでいた。子供が大きくなってきて先を考え始めたのだ。ずっとできる仕事ではない。せめて危険のないデスクワークへの転属が出来ないかと部長であるカルロスに打診している。結果はあまりよくないが、カルロスも何かしら動いてくれてるらしい。少しでも早く移動が叶えばイザリーとしては助かるのだが。

 しかしイザリー自体、家族相手でも人と接する事に一歩引いてしまう所がある。それを改善するという意味でも家族との接する時間を増やしたいという願いがあるのだがそれも時間がかかりそうだ。どう接して良いかが分からないのだ。

 イザリーはため息をつく。


「パットン、お前はどうなんだ。この仕事、いつまで続けるとかは、考えているのか」

「俺はまだ続けるよ。手当がつくからな。子供の大学までの費用があと少しで溜まるんだ。ずっと節約して貯めた。それの目処が着くまでは続ける予定だな」

「そうか……」

「別に転属は逃げじゃない。恥じることはないさ」

「そうだな」

「ま、まずは煙草をやめるところから始めたらいいさ」

「そいつは勘弁してくれ」


 二人は笑った。

 しかしイザリーは、翌朝パットンとその家族の訃報を聞くことになる。

 今日がパットンと過ごせる最後の日となった。

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