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 ユラン王国の建国史には、こう書かれている。

 数百年の昔、建国の祖たる青年王ローベルトが、船に乗って海へ乗りだしたところ、人魚という半人半魚の魔性が船のまわりを取り囲み、歌をうたった。すると、みるみる空が暗くなり、船のうえには黒雲が立ちこめてきた。風が吹き荒れ、波はしきりに船を揺さぶる。王の乗る船はついには難破してしまった。

 一晩、波に揉まれながらも、明くる朝には浜辺に流れ着いた王を、献身的に介抱した娘があった。娘の名をアデーレと言う。

 アデーレは、浜辺近くの修道院に行儀見習いに出されていた子爵家の令嬢だった。花のように麗しいアデーレは王子に見初められ、妃として王城にあがった。

 しかし、ことあるごとに人魚は王の生命を奪わんと姿を現す。ひとびとは、王が魔性の呪いを受けたとうわさした。

 これを聞いて胸を痛めた妃は身重のからだをも顧みず、王の身を案じ、恐ろしい人魚に切々と訴えかける。

『呪うなら、私を呪うがよい』

 こうして、人魚の呪いを我が身に引き受けた妃は、愛する王の身に危険が及ばぬようにと、彼のもとから離れ、森の奥に建つ古城へと隠遁した。王はアデーレの深い愛に感じ入り、彼女にしゃくいと領地、有りあまる富を与え、泣く泣く手放した。

 アデーレは姫君を産んだが、姫君の足は萎えており、成長しても歩けなかった。ひとびとは、今度は姫君の足を指して、人魚の呪いと口々に言った。

 アデーレが当主となった家を、エンマルク公爵家と言う。

 ──そして、このエンマルク公爵家こそが、生まれつき歩くことのできないる令嬢の生家なのだった。


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