【プロローグ短編】追放者スカウト〜『鑑定』しか能がないせいで勇者パーティーに殺されかけた俺、魔王軍に志願して同志を集めて復讐する〜
「お前はここまでなんだよ。無能のエルトくん」
「がはっ……なん……で……」
勇者ベイルの拳が俺の腹に突き刺さる。
うずくまる俺の頭を踏みながらベイルが告げる。
「てめえ。本気で『鑑定』しかできねえくせに俺たちにくっついてきやがってよ……迷惑なんだよ。てめえのお守りさせられるわ、それで報酬や給金は平等だとか。ふざけんのも大概にしろこのカスが!」
「ぐっ……」
頭をグリグリと地面に擦り付けられる。
ベイルの言うことは一理あるのだ。だがそれは俺が望んだことではない。
王国が勇者の成長をサポートさせるためにどうしてもとつけたのだ。これは王命であり、逆らえば勇者でもただでは済まない。
「ベイル。その辺にしないとそいつがチクったらあんたも終わるよ」
興味なさそうに髪をいじりながら、魔法使いのミームが言う。
赤い髪に象徴される大火炎魔法の使い手だ。
俺だけでなくそもそも人に興味がないと公言する女だった。
「いくら使えなくても、王命は絶対」
青髪のショートの少女、ハミルが言う。
小柄な体格ながらヘイトコントロールと回避力、そして不死と言われる絶対的な防御力でパーティーの防御を支えるタンクだ。
「っるせーよ。んなこたわかっててやってんだよ」
「ふーん」
「ならそろそろ……」
「殺しはしねえよ。俺たちがいたのに死んだんじゃ疑われる。だからな、こいつが逃げたことにすりゃいいんだよ」
「は?」
何を言ってるんだ?
「おい。これ以上俺らに迷惑かけんじゃねえ。てめえは自分で向こうへ進め」
「向こうって……」
魔界。
この森の先は魔物の世界だ。
鑑定しか能がない俺が踏み入れば、たちまち命は無くなるだろう。
「自分で逃げて、自分で死んだんだよ、てめえは」
「そういう……ことか……」
二人を見る。
二人とも興味なさそうに視線を外していた。
ああ……そう言うことか……。
元々勇者ベイルは何をしても二流の中途半端な剣士だった。
それを俺の鑑定を使って、ヒールまで行える万能魔法剣士として勇者の一人になるまで育て上げた。
ミームは水魔法の家系に生まれ、その才能のなさゆえ捨てられた子だ。
人生に絶望する彼女に真の力、炎魔法、それも鍛錬で少しずつでは到達し得ない、大魔法専門の魔法使いに育てたのも、俺の鑑定ありきだ。
小柄なハミルも不遇職のシーフだったところをその回避の才能をタンクに活かすよう進言し、育てた。
三人の元に俺をつけた王の意図は、俺にそのまま三人の才能を伸ばし続けることを期待してのものだ。
狙い通り順調な成長を遂げた結果、自身の力に溺れてしまったらしい。俺は力は伸ばせても人格を矯正する術は持たなかった。
「とっとと行けや! グズが!」
「うっ……」
ベイルに蹴り上げられ、ついに俺は魔界への境界を越えた。
戻るにはこちらを睨むベイルを掻い潜る必要がある。
「ああ?! なんだやろうってのか?」
「……」
ベイルは……もうダメだな。
「わかったよ」
「ああ。それでいいんだよ。お前は所詮俺らの踏み台。お前なんかいなくても俺は認めてもらえたし、今のお前はただのお荷物。とっとと死ぬのが全人類のためだろうよ」
「ベイル……」
もはや手遅れだった。
まあ勇者は複数いるんだ。彼がこれ以上成長しなくとも、他の勇者がいつか魔王を倒す。
俺が見出した勇者はなにも、ベイルだけではないから。
もう、俺の役目は終わり。そう思っていた。
全てを投げ出そうとした俺の耳に、信じられない言葉が入るまでは。
「はぁ……これで今月で3件目ね、勇者パーティーの離脱者」
「え……?」
ミームが言った言葉の意味がわからない。
「勇者って本当、すぐ調子に乗るわよね……まあ私はなんでもいいけど」
それだけ言って背を向けるミーム。
パーティーの守りの要であるハミルも、その力を発揮するつもりはないようだった。
それを見た瞬間、俺の中で何かが吹っ切れた。
「はは……ははははは」
「なんだ気持ち悪いな。気が狂ったか?」
ベイルの言うことは当たらずとも遠からずだったかもしれない。
なんだ……俺が見つけて、俺が育てた『勇者』たち、そのパーティーメンバーは、もうとっくに終わっていたんだ。
なら……。
「ベイル。決めた。お前らを間違って育てちまった俺が、お前らを終わらせるよ」
「はぁ?! てめえ舐めてんのか!」
「舐めてないさ。必ず、俺はお前たちを終わらせる」
「ふざけんじゃねえええええええ」
バチバチとベイルの周囲に放電現象が起こる。
これが彼の、彼だけの魔法──属性の理の向こうから見つけ出した、雷魔法。刃に乗せてその一撃を森に放つ。
「俺が教えた攻撃で、俺は倒せない」
「くそっ!」
「心配しなくても俺は向こうに行く」
「とっとと消えろ!」
悪態をつくベイルに背を向け、俺は魔界の奥地へ歩き出す。
「おいミーム! てめえの魔法で殺せ!」
「はぁ? 嫌よめんどくさい。あんなのが森の奥に入ったらすぐに死ぬんだしいいじゃない」
「それにもう、ミームの射程じゃ届かない」
「はい。と言うわけでお疲れさま」
「くそ!!!」
そんな元仲間、弟子の言葉を背に、俺は魔界の中心部へと歩みを進めた。
目的は一つ。
魔族の王、魔王のもとへ行くことだった。
◇
「なるほど。支援だけしてるのが気に食わなかったと……」
「はい……俺、必死にみんなをサポートしてきたつもりなのに……」
「回復だけじゃいらないってか?」
「エクストラヒールができる魔法使いを雇ったからって……」
「シーフってパーティーにいたらありがたがられるサポート職だよな?」
「あいつらはもう……トラップのないダンジョンが当たり前になりすぎてありがたみなんてないんだよ」
「テイマー……しかもこんな強い魔物を連れてるのに?」
「テイマーは魔族の仲間だって……」
こんな調子で俺はパーティーを追放された優秀な冒険者たちに声をかけ続けた。
皆その力をパーティーメンバーに認められず、酷い目にあった男たちだ。
「ばかばっかなのか……勇者パーティー……」
こんなに優秀なサポート要員を追放していれば攻略できるものもできなくなる。
魔族に対して数も潤沢な人間側がいつまでも魔族領を落とせない理由がわかった。
「勇者がこんなんばっかじゃ無理だ……」
自分から最高戦力を追放するのだ。なんの感謝もなく。
そしてその真の力を見いだせず。
「シーフとしても一流だけど、君はその器用さを生かして錬金術を覚えるといい」
「回復しかできないんだったか……回復量がえげつないしそのままでもいいんだけど、君のスキルツリーなら回復を促進し続けることで相手の組織を破壊する禁忌の攻撃魔法がある」
「テイマーとしての才能が際立っている。どんどん弱くてもいいから魔物を増やせば、その分君自身の力がつく」
こんな感じで、追放された冒険者たちを真の力に目覚めさせていく。
スカウトしたものの数が増えればそれだけ、人間の戦力は大幅に削られ、魔王軍は力をつける。
「首尾はどうだ。エルト」
「はっ。魔王様。現在37名の候補のうち、すでに17は寝返りました」
「ふむ……」
「候補者も日に日に増えております。お任せいただければ一大勢力を築けるかと……」
「よし。上出来だ。お前が作った軍で手始めにあの王国、鬱陶しい騎士団を滅ぼせ」
「喜んで……」
俺の手で終わらせる。
この腐った『勇者』たちの暴走を。
そのために俺は……。
これは後に魔王さえその『鑑定』により歴代最強の力を引き出し、勇者を蹂躙する魔王軍参謀として君臨する男の物語。
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