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第96話 甘い季節

四章開始します



 大晦日から始まった婚約騒動も無事収束し。

 気持ちは分かるが、そこまでやるなと親として至極まっとうなお叱りと拳骨は。

 未だ子供の身分であるからして、英雄とフィリアは素直に聞き入れると言うものだ。


 そして再び訪れた日常、節分ぐらいは大騒ぎせずにと二人にしては静かに行った訳だが。

 それが終われば、次のイベントは全日本の性別・男が待望の、商売人には絶好の機会である。

 ――バレンタインだ。


 放課後まっすぐ帰った二人は、ロダンから送られた炬燵でぬくぬくと。

 そして英雄はそわそわと。


「……どうした? そんなにそわそわして。聞きたい事があるなら聞けば良いだろう」


「あ、やっぱ分かる?」


「今の君は私じゃなくても分かる、さ、言ってくれ。どうせ大したことじゃないだろう」


「大したことじゃない? それは大間違いだよフィリア、――今年のバレンタイン、君はどうするつもりだい?」


「ふ、やはりそれか。答えは……」


 無駄にジらす彼女に、英雄の喉はゴクリと動き。


「駄目だ」


「うん? 駄目? 聞き間違いかな? 僕にバレンタインチョコをくれないって?」


「そうじゃない、聞くこと事態が駄目なんだ」


「それはつまり…………、はうぁっ!? そ、そういう事だったんだねっ! 僕ってば気が付かないで本当にゴメン!」


「うむ、分かってくれた様だな!」


「まさかフィリアが、チョコのアレルギーを持ってたなんてっ!! 僕とした事がっ!! くっ、これまでももしかして無理させてた? なんて事だっ!!」


「英雄? おーい、英雄? 旦那様?」


 気遣ってくれるのは嬉しいが、少し思考が明後日の方向へ行き過ぎていないだろうか?

 フィリアは読んでいた雑誌を丸め、ポコンと脳天唐竹割り。


「ていっ」


「ちょわっ!? 何するんだいフィリア? 僕はこれから君のアレルギー検査を何処でしようかと考えてたのに」


「落ち着けおバカダーリン」


「せやかてハニー」


「急に関西弁になるな。そしてアレルギーの事は心配しなくていい、数年前ので良ければ検査結果もある」


「じゃあ何でチョコが駄目なんだい?」


「聞くのが駄目なんだ、…………今年は盛大にしたいからな。中身はサプライズにしようと思っていたんだ」


「マジでっ!? うっひょうっ!! 僕ってば幸せ者だねっ!!」


「うむ、分かれば宜しい。ならば当日まで大人しく待って、ハラハラドキドキの絶望するが良い」


「絶望? 絶望って言ったよっ!? 何するつもりなんだいっ!?」


「言い間違えた、ハラハラドキドキで胸が張り裂けそうになって死ね」


「死ねって言ったっ!? さては君ってば、この前の結婚式の事、怒ってるねっ!」


「怒ってはいないぞ? ただ、本当に死ぬつもりだった事を何一つ説明されて無いとか。私が拒否したらどうするつもりだったんだスカポンタン! とか思ってないからな!」


「怒ってるじゃんかっ!? いや、それを言われると弱い所だけど。そうするしか手が無かったじゃんか!」


「分かってるし英雄と一緒なら死んでも良いから、話を合わせたんだっ! 愛してるっ!」


「僕も愛してるよっ!! …………うん?」


 炬燵で対面だとフィリアを抱きしめにくい、そんな事にも気づいたが。

 ともあれ英雄は、重要な事に思い至る。


「そういえばさ、フィリアってば僕の事をだいぶ前から好きだったんだよね?」


「なんだ今更、その通りだがどうかしたか?」


「いやさ、去年のバレンタイン。僕は愛衣ちゃんとお袋とクラスの義理チョコしか貰ってないし。フィリアとは別のクラスだったじゃん?」


「何が言いたいんだ?」


「去年、君ってば僕にバレンタインチョコくれなかったよね? 今考えれば不自然だなーって」


「去年?」


「そう、去年」


「うむ? 去年……おかしいな、君にあげた筈だが」


「お菓子だけにおかしいねそれ、僕には記憶が無いけど? ――あ、もしかしてフィリア以外の本命チョコ阻止してたとか、そんな感じ?」


「いや? そもそも英雄は私のチョコ以外を口にしていない筈だが?」


「……………………はい?」


「うむ?」


 首を傾げる二人、フィリアは英雄を不思議そうに。

 英雄はやや青い顔で。


「はい、ちょっと待って? ちゃんと整理しよう」


「君がそうしたいのなら」


「じゃあまず、僕は愛衣ちゃんとお袋とクラス女子連名の義理チョコだけ」


「いや、全部が私のだった筈だぞ?」


「…………去年のバレンタインって、まだ一年の時だよね? 僕ら同棲してないし、同じクラスでも無かったよね?」


「そうだな」


「待って、ホント待って?」


「ああ良いぞ?」


 英雄は炬燵から出ると、左手を腰に右手を口元に冷や汗と共にウロウロし始める。


(考えろっ! 考えるんだ僕っ!! フィリアは何て言った? 私のチョコしか食べていない?)


 愛が重過ぎて、記憶を書き換えたのだろうか。


(いや違う、フィリアはそんな大人しいタマじゃない!)


 となれば、彼女の言っている事は本当で。

 つまり、あの日に口にしたチョコは全てがフィリア作であり。


(…………クラスの女子から貰ったのは、フィリアが陰から手を回した可能性がある)


 思い出せば、彼女たちは真っ先に英雄に食べさせた。

 色々な形、様々な種類があったが選ばせてはくれず、食べる所まで強要された気がする。

 ――あの時の女子達の顔は、どこか呆れや含み笑いや怯えが混じっていなかっただろうか?


「――――フィリア、君ってばやったね? クラスの女子から貰ったのは君の手作りのだった。そうだね?」


「ああ、そういえばそうだったな」


 ポンと手を打つフィリアに、英雄はドン引く。


「そう言えばじゃないよっ!? ホラーだよそれっ!?」


 となれば。


「もしかして君っ! 愛衣ちゃんのチョコもすり替えたなっ!?」


「君がトイレに行った間だにな、人を使ってすり替えて貰った。大丈夫だ、中身は捨てておいたぞ。勿体ないから食べようと思ったのだがな。愛衣の髪の毛が細かく刻んで入っていたのでな」


「それはありがたいけどっ! 嬉しくないし聞きたくなかったよっ!?」


 だが、母からのチョコはどうしたのだろうか。

 英雄の記憶が確かなら、アレは郵送で届いたし開封もこの部屋の中だ。


「お袋のはどうやって――――っ!? まさかっ!!」


 瞬間、英雄はフィリアの学生鞄を漁り始めて。


「おい英雄、人の鞄を勝手に探るんじゃない。面白い物は入ってないぞ?」


「よし有ったっ!! 僕の予想が正しければこれが動かぬ証拠っ!!」


「合鍵?」


「そうっ! カノジョが合鍵を持つという男なら垂涎モノのシチュエーション!」


 だが、だが、だが。

 それを覆す事実が一つだけ。


「………………ねえフィリア? 正直に答えて欲しいんだ」


「うむ、何だ? バレンタインチョコ以外の事なら何でも聞いてくれ」


「じゃあ聞くけどさ、――――この合鍵、何時作ったの?」


「………………………………ノーコメントで」


「しかも二つあるよね? 一つは僕が渡した合鍵、でもさ、もう一つは微妙に新しめなんだけど?」


「黙秘権を行使しても?」


「ダメ、…………まさかとは思いたいけど。フィリアってば、一年以上前からこの部屋の合鍵を持ってた? いや、確実に持ってたよね? 入って盗撮とか盗聴とかしてたもんね、――――お袋のチョコ、何処にやった?」


「君のような勘の良い恋人は嫌いだよ」


「ああもうっ! 食べたねっ! お袋からのチョコ食べたねっ! お袋のチョコに固執する程マザコンじゃないけどさっ! 人の親の手作りお菓子を勝手に食べるのはどうかと思うよっ!!」


「…………ぐぅ、その節はすまないと思っている」


「僕に謝らないで、お袋に謝ってね」


「いや、それが流石は義母さんだな! この前、電話で話した時に見抜かれてしまってな! …………もっと上手くやりなさいと」


「叱ってよお袋っ!? これだから同類はっ!!」


 頭を抱える英雄、気まずそうに視線を泳がせるフィリア。

 その時、二人のスマホに通知が入って。


「えーと、……栄一郎からだ、僕ら全体に送ってるね」


「何々? 駅前のスーパーでチョコの材料の超激安売りタイムセール、至急増援を送れ」


 バカップルは顔を見合わせると。


「よし! 出動だ英雄っ!! 我らのバレンタインの為にっ!!」


「いやっほうっ! 僕ってば頑張っちゃうからねっ! いざバレンタイン戦争へっ!!」


 ジャージ姿から、慌てて着替え始めたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] やってきましたこの日が(ちと遅いがw) とてつもないチョコを送りつけるのかと思ったら 超激安売りチョコの材料をどうすんだ? [一言] とんでもない「祭り」やんのかな?w
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