第95話 次は本当の結婚式を
三章エピローグです。
英雄とフィリアを引き裂く事をローズが諦め、二人も無事に救出された。
その事実に、全生徒と集まったOB達は歓喜して。
となれば。
「…………私が言うのも何だが、よくこんな状況で結婚式のイベントをしたな? しかもお前達は一番目立つ最後に登場して」
「それがウチの校風ですから。僕としては、急に頼んだのに。この状況で神父役を引き受けてくれたローズ義姉さんにビックリしてるんだけど?」
「バカか小僧……、引き受けないと私へのヘイトがもの凄い事になるだろうがっ! 私がお前達を含めて祝福してこそ禍根を残さないのだろう!! そこまで見越して計画した奴が何をホザくか!?」
結婚式のイベントは予定から一時間以上遅れたが、幸せに溢れて盛況に終わった。
英雄は白のタキシードのまま校庭の片隅で、片づけられていく式場を疲れた顔で眺め。
同じく白い神父服姿のローズも、かなり疲れた顔で。
然もあらん。
式は終わったものの、その前に色々ありすぎたし。
この後は、両家合同でお説教大会と年末年始にやる筈だった結婚式の挨拶にやり直しだ。
「けど、義姉さんが分かってくれてホント良かった。これからは命の恩人って呼ぶね?」
「皮肉は止めろ、結婚は許すし祝福もするが。私はまだお前を認めていない」
「えー、じゃあどうやったら認めてくれるのさ。まあ、義姉さんと結婚する訳じゃないし、そのままでも良いけど」
「フン、お前を認める時はフィリアが幸せに天寿をまっとうした時だ、精々励め。支援は惜しまん」
「おおっ! 義姉さんがデレたっ!?」
「今回の勝利で調子に乗るんじゃないぞっ! あと、フィリアに本当に子供が出来ていたら。その子を抱くのは貴様とフィリアの次だ、絶対だぞっ! 父さんと母さん達の前だぞっ! 絶対だからなっ!!」
「正月はあんなに怒ってたのに、主張するのはソコなんだ?」
「当たり前だっ! こうなったらもう、フィリアの相手は貴様以外は絶対に認めないっ! ならば次は子供だっ! 名前の候補を考えておくから、せめて最終候補の中には残せ!」
「――その前に、ロダン義兄さんと自分の子供を作ってはどうだろう?」
「フィリアっ! お帰りお嫁さん!!」
「おおフィリアっ! ウェディングドレスがよく似合ってるぞっ!! こっち来てツーショットを撮ろう! ――おい小僧、綺麗に撮るんだぞ! そしてデータを直ぐに寄越せ!」
「はいはい、じゃあフィリア。ローズ義姉さんと並んでね」
「……何故そうも仲が良くなっているんだ? まあ良い、――これでどうだ?」
「じゃあニッコリ笑ってね、……はいチーズ!」
「……うむ、撮れたか? 写真は私にも送って欲しい」
「はいはい、今送ったよ。あー、そういえば義姉さんとは連絡先交換してなかったね」
「よし、今すぐに交換するぞ」
「仲が良くて、何よりなのか…………?」
数時間前の修羅場が嘘のような平和な光景に、フィリアは満足そうに微笑んで。
「――む? ロダンが何か呼んでいるな。食事会の会場の事で話があるそうだ。私は先に車に戻る、お前たちはまだゆっくりしていて良いぞ」
「わかった姉さん、…………今日は祝福してくれて嬉しかった」
「その台詞は、本当の結婚式の時にまた聞かせてくれ」
ローズはロダンが待つ校門の方へ。
そして英雄とフィリアの二人っきりだ。
「うーん、義兄さんに気を使わせちゃったかな?」
「これぐらい気を使ってくれて当然だ、……認めてくれたのは嬉しいが、姉さんの仕打ちを私は許してないからな」
「じゃあ、高校卒業した後に住む家でも買って貰うって事にしたら?」
「それで許すのも、変な感じがするが……何故、家なんだ?」
「だって、僕が三年になったら籍入れるじゃん? そんでもって、もしかしたら大学入る前にフィリアが妊娠と出産するかもじゃん? そうなったらあのアパートはボロいし狭いじゃんか」
「ふふっ、子供が欲しいのか旦那様? 大学卒業までは二人っきりというのも悪くないと思うぞ?」
淡く微笑むフィリアに、英雄はニマニマと笑って。
「君ってば、直ぐにでも子供が欲しいと思ってたけど?」
「アレはだな……姉さんを説得する材料という点も考えての事だ。無論、欲しくて望んだ事でもあるが。――というか英雄、君のそれは男としての本能、支配欲と性欲じゃないのか?」
「否定しないよ、だってフィリアってば魅力的なんだもん。男としての本懐を遂げたいね、お腹を大きくしたフィリアを見せびらかして自慢したい」
「…………ばか。お前がそんな事をしたら、ウチの学校で在学中に結婚と妊娠するのがスタンダードになるだろうが」
「え、面白そうじゃない?」
「私がそれを否定出来ないから、困るんだっ! 以前の常識的な英雄は何処に行ったんだっ!!」
「うーん、もしかしたら。フィリアが抱きついてキスしてくれたら戻ってくるかも」
「言ったな? ――ん」
「ん。……もっと濃いのしない?」
「戻ってきてないではないかっ!? 公衆の場では節度を持って、とか言うんじゃないのかっ!?」
「これからは、それはフィリアの役目になるかもだね。――これからの僕は、君が最近好きなレディコミのヒーローの如く、独占欲を持って接しようと思うんだ!」
「常識というブレーキを取り戻してくれ英雄っ!? 今の君は浮かれすぎてるんだっ! ここで私が一緒に浮かれても、明日になれば君は正気に戻ってるんだ絶対っ! 私は詳しいんだっ!!」
「おっ、よく分かったねフィリア。英雄くん検定の師範の座をあげちゃうよ」
「もう持ってるっ! ええいっ、私たちもそろそろ車に行くぞっ!」
歩き出すフィリアに、英雄は待ったをかけて。
「その前にさ、愛する君に言いたい事があるんだ」
「ふむ、興味深い。愛する英雄よ続けてくれ?」
夫となる人物は、夕日に煌めく純白のウェディングドレスの妻に向かって膝をついて。
「さっきのイベントでも言ったし、その前にも言った様な気がするけど。……もう一度言わせて欲しい」
「ほほう、もっと具体的に言って欲しいぞ」
「――這寄フィリアさん、この僕、脇部英雄と結婚してください。一緒に幸せになろうっ!」
「喜んで受ける、……幸せになるぞ英雄」
英雄はフィリアの右手の甲に唇を落とし、立ち上がると彼女の腰を引き寄せて。
「誓いのキスをして良いかな?」
「聞くな、ばーか」
夕日と同じ色にフィリアの顔は染まって、静かに目を閉じる。
英雄もまた、目を伏せて顔を近づけて。
――唇と唇が重なる。
「愛してるフィリア」
「愛してる英雄」
幸せそうに笑いあう二人の姿を、残った生徒たちはガッツリ目撃したが。
邪魔をしないように作業に戻って。
二人は今、幸せであった。
三章・了
四章へ続く。
四章開始は、2月15(土曜)夕方5時の予定です。(準備に時間を頂きます、場合によっては何日か前倒しします)
ではでは。




