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第86話 ノット・フューチャー



 部屋の中に入った未来は、英雄とフィリアが座るように言っても起立状態を維持して。

 一抹の不安を感じながらも、援軍の到着に二人は安堵した。

 今は、一人でも多くの味方が欲しい。


「大丈夫なの未来さんっ!! 義姉さんに襲われたりしてないっ!?」


「いえ、それは大丈夫です」


「うむ、それは重畳。では早速なのだが相談があるのだ」


「その前に、お伝えすべき情報があります」


 来訪早々に無表情な未来の姿、英雄とフィリアは悪い予感を隠せずに。


「あー、ちょっと聞くけど。僕たちの状況は把握してる? かなりピンチなんだけど」


「チェックメイトまであと一手という所だ」


「勿論把握しております、衣食住の全てを奪われ銀行口座も封鎖、相談というのは私に借金の申し入れでしょうか」


「うむ、話が早くて助かる!」


「お金じゃなくても、ちょっと食材を分けてくれるだけで良いんだ! マッチ一つでも鍋一つだけでもっ!!」


「………………大変、言い辛い事なのですが」


「はうあっ!? まさか未来さんも兵糧責めにっ!!」


「くっ、まさか襲撃がなかっただけで。未来まで犠牲になっていたとはっ!!」


「あ、それは違います」


「というと? 未来さんものっぴきならない事情が?」


「まあ、見る角度によっては」


「随分と曖昧な言い方だな? これ以上悪くならないんだ、はっきり言ってくれ」


 すると未来は、困ったような後ろめたいような複雑な顔をして。


「お金はあるのです、かなりの臨時収入がありましたから」


「ふむ?」


「食料は一人暮らしなので、そんなに多くありませんが」


「というと?」


「そして此方から伝えられる事は二点、お二人にとって悪いニュースと、かなり悪いニュースです」


「じゃあ悪い方からお願い、かなり、は聞くのが怖いからね」


「では悪いニュースから、……御当主様と奥方様がローズ様の側に着きました」


「うむ、それは確かに悪いニュースだ。だが予想出来ていた事でもある」


「まー、一応ウチの親は味方だから。バランス取れてるって感じ?」


「おいバカ、そんな事を言っている場合ではないだろう?」


「いやー、ごめんごめん。それで? かなり悪いニュースは何? これ以上悪くなるかなぁ?」


「はい、お二人にとっては」


 はっきりと言いきった未来に、英雄とフィリアは顔を見合わせて。


「…………良し! 僕は聞かなかった事にする! それじゃあ鍋を貸して!」


「そうだな! これ以上悪い事なら、聞かない方がマシだ!」


「申し訳ありませんフィリア様、お伝えしなければ減給されるので」


「うむ? 私はそれぐらいで減給しないぞ?」


「っていうか、未来さんのお給料ってフィリアが出してたの?」


「ああ、小さな頃は家が払ってたがな。姉さんと企業した時に私が払うようになったんだ」


「ローズ義姉さんと共同経営だったわけね? ところでフィリア、その会社ってば義姉さんに乗っ取られたとか言ってなかった?」


「そうだな、確かに言った」


「…………僕、やっぱ聞かなかった事にするね?」


「奇遇だな英雄、私もそう言おうと思っていた所だ!」


 はははと笑いあう二人に、未来は二人の肩を両手で掴んで。


「現実見ましょう? ――今のこの身はフィリア様にメイドではありません。ローズ様の手下です、およよ……」


「およよ……じゃないよっ!? 泣きたいのはコッチだってーのっ!!」


「裏切ったな未来っ!! 姉さんより姉さんらしいと慕っていたのにっ!! 私を裏切ったんだな!」


「畜生っ!! 未来さんを裏切らせるなんてっ! なんで裏切ったんですかっ!!」


「お給料のベースアップ二倍に加え、臨時報酬として一億円貰いましたので」


「お金だっ!!」


「ぬおおおおおおおおっ!! 見損なったぞ未来っ!! 私が姉さんに勝った暁には給料三倍で臨時報酬二億だすっ! だから戻って来てくれっ!!」


「すみません、今から裏切ると契約違反で十億取られるので……」


「ぐっ、流石にそれは無理にとは言えんっ!!」


「……というか未来さん? そもそもお金で転ぶ人じゃないですよね? 何で裏切ったんです?」


 すると未来は目を反らして。


「未来?」「未来さん?」


「いえ、その……あのですね?」


「はっきりと」「大きな声でお願い」


「今まで申し上げた事はありませんでしたが、実は彼氏がヒモ男でして……」


「何だとっ!?」


「マジでっ!? 別れようよ未来さんを食いモノにする男なんてっ!!」


「いえ、大丈夫です。イニシアチブは此方が握っているので」


「え、どう言う事なんだ? 手綱を握っていて何故金が必要になる?」


 元主人の問いに、未来は頬を赤らめ体をクネクネ。


「彼とは高校生の頃からの付き合いなんですが、手短に言いますと。大金を貢ぐを青い顔をして『この悪魔めっ! どこまで僕を縛り付けるつもりなんだっ! 頼むからもうお金はいらないから結婚してくれっ! 体で払うからもうお金はいらないっ!』と絶望の表情でブヒブヒ鳴いてくれるので」


「どんな彼氏なのっ!? すっごい気になるけど聞きたくないっ!!」


「彼氏が嫌がってるなら止めてやれっ!? というか結婚申し込まれてるのなら受けてやれっ!!」


「いえ、まだお金が足りません。未来永劫、輪廻転成しても魂まで捧げると言うまでは」


「――っ!? そういう事かっ!」


「何か気づいたのか英雄っ!!」


「ああ、未来さんは茉莉センセの親友だ。そして二人は同じ高校だったって、そんでもって茉莉センセの母校はウチの高校だ……」


「な、なんて言う事だっ!! ウチの女子だったとっ!? 愛情が重くて彼氏がヤバイ勢ではないかっ!!」


「実は這寄にスカウトされたのもですね、彼氏に貢ぐために海外のカジノで荒稼ぎして、稼ぎすぎて怖いお兄さん達に狙われた所を奥方様に助けられまして」


「母さんがかっ!!」


「あの時の光景は一生忘れられません……、高笑いをしながら護衛を引き連れてカジノ丸ごと買い上げた奥様……ああ、とても格好良かったです」


 うっとりと語る未来に、英雄はおずおずと手を挙げて。


「はい未来さん! 質問よろしいでしょうか!」


「どうぞ英雄様」


「以前、僕に大人の玩具をくれましたが! それは彼氏さんに貢がなかったのでしょうか!!」


「良い質問ですね。実際に実行する前に『やめてくれっ!! そんな事をさせては大切な君を汚してしまうっ! そんな事をさせる為にヒモ男になったんじゃないっ! 靴でも足でも舐めるからっ! 結婚するから止めてくれと』――嗚呼、とても良い表情でした」


「…………フィリア? ちょっと君んチの従業員の選考基準、見直した方が良いんじゃない? この分だとどんな爆弾が眠ってるか分からないよ?」


「ああ、それを強く思った所だ」


「ご安心をフィリア様、這寄家メイド隊の中でも倒錯ランキングは下の方ですので」


「安心する所が一つも無いっ!? というか何なんだ倒錯ランキングというのはっ!!」


「聞かない方が良いと思うよ?」


「ええ、とてもお聞かせできるものでは……」


 しみじみと頷いた未来、しかして英雄は気づいて。


「というかさ、思いっきり話がズレてるんだけど。そろそろ本題に戻ろうか」


「戻るのか? 私はまだ現実逃避したいぞ?」


「後で抱きしめてあげるから我慢してね」


「絶対だぞ!」


「そんな力強く言わなくても大丈夫だって、じゃあ裏切り者の未来さん? どうせローズ義姉さんから伝言があるんでしょう?」


「はい。『もうお前達は終わりだ、今すぐ降参するなら全てを元に戻そう。――フィリア以外はな! ザマァみろ小僧!!』です」


「降参すると思う?」


「そうだ、降参などするものかっ! 野草でも何でも食べて生きてリベンジしてやるっ!!」


「では寝る所はどうするのです?」


「いや、ここで寝るが?」


「――ああ、言い忘れておりました。このアパートの権利は全てローズ様に移っております」


「うーん、聞きたくないけど。つまり?」


「今すぐ出て行かないと、警察の出番ですね」


「…………」「…………」


 未来が裏切った事が判明した上に、彼女は倒錯した愛情の持ち主で。

 更に家まで失って、英雄とフィリアは暫くの間、無言で途方に暮れた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ煮詰まってきたな 単身二人のみ どう動く? [一言] ローズえげつねえw 一本の糸がまだ残ってるような・・・
[一言] これ追い詰めすぎて逆にとんでもない事が起きる気しかしない
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