第74話 小僧はここかぁっ!!
ローズの赴任初日から、騒動は起こるべきして起きた。
それから教室には休み時間の度に、義姉が在中する事となったが。
それで困ったのは英雄とフィリアである。
そんな訳で数日後の昼休み、愛する彼女はスマホで愛衣と茉莉に。
英雄は体育倉庫に、栄一郎と天魔を呼び出して。
「ふっふっふー、よくぞ来た勇者達よー!」
「よくぞ来たも何も、俺らさっきの体育のハードル片づけに来ただけだぞ?」
「そうでおじゃ、英雄殿が手伝って欲しいと頼むから来たでゴザルよ? 腹減ったし、ふざけてないで教室戻るでにゃあ」
「へいへいストップストップ! 実は二人に大事な話があるんだ」
「教室じゃ駄目なのか?」
「そうでゴザル、ローズ先生が居るだろうけど――ああ、あの話でおじゃ?」
「そうなんだ栄一郎、ローズ先生の居るところで話したくないからさぁ……」
「あー、オマエらトラブってるんだっけ? 俺イチ抜けーっと!」
「待って、待って天魔~~~~! 頼むよぉ~~、話を聞いてよぉ~~!!」
「うおっ!? 足に抱きつくな気持ち悪いっ!?」
「話を聞てくれないと、君のケツをスマホで撮って愛衣ちゃんに送る! 僕にはその覚悟があるっ!」
「そんな覚悟すんなっ! ええい聞いてやるから離せっ!」
「じゃあそういう事で任せた天魔」
「逃がすかっ! 唸れマイハンド! ゲッツパンツ! アンドダブルっ!!」
「あっテメェっ!? 俺のズボン離せっ!?」
「へっへー、良い気味だぜ栄一郎!」
「ズボンずり下がったまま言われても……でゴザル」
「はっはっはっ! 話を聞くまで離さないと思えっ!!」
「チィっ! 栄一郎! 英雄のも脱がすぞっ!」
「合点承知の助っ!」
「ぬわーっ!? 貴様等何をするっ! っていうかマジで何するのさっ!? 僕だけパンツまで脱がすのっ!?」
「そう言いながら俺らのも脱がしてるじゃねぇかっ!?」
「ふっ、フィリアのパンツを脱がす為に特訓した成果が出たようだねっ!」
「這寄女史に初めて同情するでゴザルっ!? よく嫌われないでおじゃるっ!?」
「テメェかっ!? 愛衣ちゃんに変な技を教えたのはっ!? 最近妙に俺の童貞が危機だと思ったぜっ!?」
「拙者は何処からツッコめば良いでおじゃる?」
三人は上半身体操着、下半身マッパで息も絶え絶え汗がだくだく。
今誰かが来たら、間違いなくアレでナニな関係だと誤解されるだろう。
更に三人居るのだ、アブない事この上ない。
すると次の瞬間。
「――――脇部英雄はここかぁっ!!」
「(おいっ!? 俺の顔にケツを近づけるな栄一郎っ!?)」
「(天魔? それをあと五センチ前に来たら殺すからね?)」
「(英雄殿、背中のひっかき傷がセクシーっていうかこの古傷懐かしいでゴザルなぁ)」
「(背中の古傷とか男の勲章じゃん、ちょい俺にも見せろよ)」
「(その感想今要らないからっ!? お口チャック!)」
「…………ふむ? 違ったか。確かに声が聞こえた気がしたのだが」
絶妙なバランスで、跳び箱の裏に隠れる三人。
薄暗さが味方して、ローズは気づく事なく去っていく。
三人はそそくさと、それぞれ妙に距離を取って。
「いやぁ危なかったねぇ、間一髪っだった」
「暢気に言ってんじゃねぇこの元凶がっ、でゴザル!?」
「うーし、じゃあ解散すっぞー」
「ふははは馬鹿め、君たちのパンツは僕が貰った! 秘技三重装着!」
「テメっ、いつの間にっ!? 俺たちのパンツとズボンも一緒に履きやがったっ!?」
「あ、これ駄目でゴザル天魔。このモードの英雄殿は話を聞くまで行動が悪化するパターン、マブダチの拙者は分かる」
「糞っ、俺も覚えがあるぞ……。これはアレだ、中学二年の時の学園祭の地下アイドル事件の時と一緒だ」
「アレも酷い事件でござった……」
「いや、あの事件は君たちも同罪だよね? それより僕の話いい?」
「しゃーねぇ、話せ。メシ食う時間が無くなる」
「そうでゴザルな……、それで? 結婚式イベントの話でおじゃね?」
「そう、その事なんだけどさ」
英雄が言い掛けたその瞬間であった。
「小僧はここかぁあああああああ! 昼休みなのにフィリアを放っておくとは不届き千万! だが弁当をあーんして食べさせるのは許さんぞ!! …………ふむ? やはり気のせいだったか」
「…………地獄耳じゃない? 義姉さんは」
「苦労してんなぁ英雄」
「聞きしに勝るシスコンっぷりでおじゃ」
「今日の朝も、セックスの声が大きいって怒鳴られちゃってさぁ。まったく義姉さんったら心が狭いんだから」
「それは英雄殿が悪い」「お前が悪い」
「だよね、実はそう思ってた。じゃあ続きといこう。――結婚式イベントの事なんだけどさ、実は栄一郎と天魔にも新郎新婦側で出て欲しいんだ」
「嫌でゴザル」「却下」
「即答っ!? どうしてさっ!?」
「英雄殿、拙者の相手は茉莉。教師でゴザル、バレたらヤバいのは承知でおじゃろう?」
「俺はこれ以上、ドツボに陥りたくない」
「なるほど、二人の言い分は理解した。だけど問題ないよ! 僕に考えがあるんだっ!」
「ではまず拙者の方から聞かせて貰うでゴザル」
「簡単な事さ。今度の朝礼の時にイベントを発表する事になってるからさ、栄一郎はそこで土下座して茉莉センセに頼めばいいんだよ」
「あ、成程。コイツまだ熟女専ってなってたか。なら自然だな、絶対皆に怪しまれないぜ! 流石は英雄だ!」
「我輩の世間体が大ピンチでおじゃっ!? 絶対にしないでゴザルよっ!!」
「うーん、おはDって噂が流れてて、僕らと一緒に騒いでる時点で、世間体も何もあったもんじゃないと思うけど?」
「拙者、英雄殿が最低辺の自覚があって嬉しいでゴザルよ?」
「じゃあ栄一郎、最低辺仲間としてやってくれるね?」
「ぐぬぬっ、皮肉が通じていないでおじゃっ!?」
「ははっ、英雄が皮肉言われたくらいで引き下がるかよ」
「まあまあ栄一郎、これは君にとっても良い話だと思うんだ」
ニマっと悪どく笑う英雄に、栄一郎は不安を禁じ得ない。
「参考までに、どんなでゴザル?」
「茉莉センセとの仲が公表できないなら、公表出来るエピソードを作ってしまえば良いのさっ!」
「あー、つまりだ、この結婚式イベで栄一郎が相手役に茉莉センセを選ぶ、んでセンセは哀れんで承諾する。――それを、恋の始まりにする訳だな?」
「成程? 婚約者という間柄を、拙者が一方的に口説くというストーリーでカバーするという訳でおじゃるな?」
栄一郎は暫く考え込んだ後、英雄に右手を差しだし。
「はい握手」
「違うでおじゃ、承諾するからトランクスと体操着の下を返すでゴザル」
「ようし、契約は成立だね! 実行した後は僕とフィリアからもフォローしておくからさ」
「頼むでゴザルよ?」
「なら次は俺の番か、いったい何のメリットがあるんだ?」
「天魔に関しては、結婚届と同じだね。こっちから攻める事で愛衣ちゃんの行動を誘導する」
「却下、結婚届でどんだけ外堀が埋まったと思ってんのかお前っ!? 愛衣ちゃんと結婚しなかったらオカンに殺されるぞ俺っ!!」
「マジでスマン、兄として何も出来ない我輩を許してたもれ……」
「たもれ……じゃねぇっ!? 兄なら説教の一つぐらいしろよ!」
「残念な事に、拙者では説得力に欠けるので……」
「自業自得だろそれっ!! 兎にも角にも、手伝うが絶対出ないぞ!」
「けど天魔……今の僕はダーク英雄くんなんだ、愛衣ちゃんと出てくれるまで、どんな手でも使うよ!」
「おい、具体的には?」
「穴の空いたコンドームを愛衣ちゃんに渡す」
「ははん! そんなの昨日やられたぜっ! アイツのポケットから落ちたから速攻で捨ててやった!」
「あ、うん、なんかゴメン天魔」「マジでスマナイ、スマナイ……」
「謝るぐらいなら止めてくれっ!?」
どんより項垂れた天魔(下半身マッパ)に、英雄は慰めるように肩を叩いて。
「じゃあこうしよう、僕とフィリアが責任を持って愛衣ちゃんに言っておくから」
「何を?」
「時と場所とムードと、天魔好みの下着を選んで恥じらって誘うようにって」
「マジでかっ!? ぐぬっ、ぐぬぬぬぬぬ~~~~。い、いや、ノるな俺っ! それは悪魔の囁きだっ!」
「揺れてるでゴザルなぁ、だから外堀埋められるでおじゃるよ?」
「しぃっ、栄一郎。今がチャンスなんだからっ! よし天魔! 僕の未使用の大人の玩具も付けよう! 黒髪ロング貧乳のAVも付けちゃう! それも愛衣ちゃん似の女優のヤツ!」
「よしノッた! …………――しまったっ!? 俺の馬鹿っ!?」
「へへん、言質は取ったよ?」
「しかし英雄殿、よくそんなAV持ってたでゴザルな。這寄女史が厳しいのでは?」
「いや実は持ってないんだ。だから後で買いに行く、つき合って栄一郎」
「まぁ良いでゴザルが……」
「いや待て、それなら俺も一緒に行くから好みのを選ばせろ」
「三人でAV買いに行くなんて、中学ぶりだね! 楽しみだなぁ」
「それより、俺のパンツとかはよ返せ」
「ああ、ごめんごめん」
英雄が脱ごうとしたその瞬間だった。
「脇部英雄おおおおおおおおおおお!! 今度こそは間違いないっ!! どぉおおおこぉおおおだぉああああああ! 結婚式イベントの事を教えて貰うぞおおおおおおお。お前が発案者だってバレてるんだぞっ!! 出てこいっ!! 何を企んでいるっ!!」
「(バレてるっ!? しかもピンチ!)」
「(大丈夫でゴザル?)」
「(というか、どうやって脱出するんだよっ! 巻き添えは嫌だぞっ!?)」
「何処だぁ、何処だぁ……ここだっ! チッ、外れか。なら――」
体育倉庫の出入り口付近から、着々と調べるローズ。
その姿に、英雄は神妙な顔で二人に告げる。
「(同じ手を二回も使うのは悔しいけどね、――僕に起死回生の一手がある)」
「(おい、嫌な予感しかしねぇぞっ!?)」
「(多分、アレでゴザルよなぁ……。顔はどうするでおじゃ?)」
「(聞くまでもねぇぞ栄一郎、しゃーねぇ俺も腹くくるぁ……)」
「(じゃあ、イチニのサンで行くよ!)」
そして三人は、即座に準備を整えて。
伊達に悪友親友はやっていない、アイコンタクトもせず正確に三つ数えて。
「隠れても無駄だぞ! 出てこい!」
「じゃあ行くよ! 大きさの一号!」
「角度の二号!」
「堅さの三号!」
「「「三人合わせて――ポロリしかないよ! チンチンブラブラブラ・ブラザーズ!」」」
「――――ぃ、嫌ァあああああああああああああっ!? 変態変態変態いいいいいいいいいい! うえーーーーんロダーーーーン!? もうお家帰るううううううううううううううう!!」
「「「ではまた会おう! これにてオサラバブラザーズ!!」」」
三人は体操着の上を脇に抱え、顔にトランクスやボクサーブリーフ、王冠の様に体操着の下を被り。
器具の後ろから飛び出たかと思うと、即座に脱出!
「絶対っ! 絶対風紀を正してやるっ!! この学校おかしいから絶対いいいいいいいい!?」
「「「オレたちは、自由っ、だああああああ!! いやっほう!!」」」
その日から、学校の七不思議に新たな怪談。
チンチンブラブラブラ・ブラザーズが殿堂入りしたのは言うまでもなかった。
なお、英雄と栄一郎と天魔はそれぞれの相方から拳骨と説教をプレゼントされた。




