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第68話 地下牢ラプソディー



 いくら双方の両親公認だとしても、元旦早々にアレでナニしたのがバレでは引き離されてもしょうがない。

 本来、英雄が泊まる筈だった部屋にフィリアは身柄を移されて。


「フィリア、今度という今度は許さんからなっ! あんな美しくもない馬の骨にお前を任せられるものかっ!! 暫く頭を冷やせ! 高校卒業したら私の選んだ美しい相手を結婚して貰うからなっ!」


「ローズ、それは後で話し合いましょう。貴女も頭に血が上りすぎているわ、ロダンと一緒に庭で頭を冷やしてきなさいな」


「しかし母さんっ!!」


「ここは母である私に任せなさい、――良いですね」


「…………分かりました。今日の所はお任せします。フィリア、今後二度とあの小僧と会えないと思えっ!!」


 ドスドスと足音をたてて去るローズに、カミラはため息を一つ。

 そして黙っていたこころと顔を見合わせると苦笑して。


「迂闊よフィリア、ローズの目の届かない所でやりなさいな」


「ごめんなさいカミラ、ウチの愚息が……」


「いえこころ? ちっとも謝罪の気持ちが籠もってないのだけれど?」


「当たり前でしょう、貴女も分かってる筈じゃない

。ローズちゃんの方が間違ってるって」


「いえ師匠? 親や姉として姉さんの態度が普通では?」


「そうよねぇ、こうなったからには私は反対しなければならないけど。あーあ、私もハイスクールの時に子供が欲しかったわぁ」


「それよね、フィリア。その点については誉めるわ、妊娠していたら百点花丸を上げた所よ」


「母さん師匠っ!? そこは親として注意するべきでしょうっ!」


「はん! たかが避妊しないで一度セックスしたぐらい! 仮に子供が出来た所で這寄家は揺らがないわ!」


「愛し合う二人の問題だもの……まったく、王太にもそういう覚悟があったら良かったのに」


「本当にそれよね、ユーリもガードが堅くって。二人で何回チャレンジしたか……」


「王太もユーリさんも、泥酔してもその辺りのガード堅かったから……お互い苦労したわね、あの頃は」


 しみじみと語り合う女親二人に、フィリアは心強さと共に父と義父への同情心が沸いて。


「そんな風だから、ガードが堅かったのでは?」


「言うわねフィリア、貴女も人のことを言えないわよ? ちゃんと反省しなさい、――同棲してる癖に孕んでから来なかった事をっ!!」


「そうよフィリアちゃん、あんな羨ましい事をして許されると思ってるのっ!!」


「怒られる所に納得いかないっ!? 子供は二人で話し合って愛のもとに作るのでは無いのですかっ!!」


「男はいつだってそんな真面目な事を抜かすのよ、実際産むのは私達オンナ! ならば私達の都合で孕んで良いのよっ!」


「良く言ったわカミラ! 子供を作って旦那を縛り付けるのよ! きっかけは何でも出来れば心の底から喜んでくれる男を選んだのだからっ!」


「ううっ、英雄の気持ちが理解出来てきた……、すまない英雄。私は君の愛に甘えていたようだ……。ところで母さん師匠、今度なし崩し的に避妊させない方法はありますか?」


「その言葉を――」「――待っていたわ!」


「教えてくれるのですか! ようし!!」


「あ、フィリア。一つ言っておくけど……」


「ローズちゃんが納得しないと、愚息と本当に別れる事になるから頑張ってね?」


「きょ、協力はあるのですか?」


「しない」「陰からこっそり」


「つまり?」


「二人で頑張ってね? ローズの許可があるまで私もこの部屋から出すつもり無いから」


「英雄次第よ、――愚息を信じて上げてね」


 ローズという難関を乗り越えろと言う二人に、フィリアは頭を抱えた。

 それはつまり、結婚どころか同棲、否、恋人を続ける事すら大きな障害が発生したという事で。


(どうにか脱出して、英雄と合流しなければっ! だが姉さん……どうやって説得すれば良いのか)


 障害が恋敵なら、どんな手段を使ってもぶち破る。

 だが相手は苦手とはいえ、敬愛する大事な家族、今の這寄家傘下のグループ企業をまとめ上げる偉大な経営者。

 本当に孕み、既成事実を作るしかないのでは。

 駆け落ちするしかないのでは。

 そう、頭を悩ませるのであった。


 一方、英雄と言えば地下牢に鎖で繋がれて。

 ユーリと王太が困った顔で。


「やっちまったなぁ英雄」


「やってしまったな英雄……」


「同情するなら、この鎖を外してくれない?」


「駄目だ」「駄目だな」


「その心は?」


「怒るヤンデレに逆らうべからず」「ローズはカミラより過激でな……」


「親父っ!? 義父さんっ!? 諦めないでよっ!?」


「つってもなぁユーリ?」


「そうだな英雄?」


「お前、昨日の夜。コイツらに何て言ったか覚えてるよな?」


「英雄も覚えてるのだろう?」


「僕は覚えてないんだけど?」


 首を傾げる英雄に、二人は気まずそうな顔で告げる。


「すまん、孫の顔を見せろとフィリアちゃんをけしかけたのは俺だ」


「俺も、愛が重い仲間が増えると良いなと。孫の顔を見たいなとフィリアをけしかけてな」


「そこは僕じゃないんだ」


「いやぁ、そこはお前。流石は俺の息子! 酔っててもコンドーム持ってたぞ!」


「なので取り上げておいた」


「なんて親だっ!? 僕をこの年でパパにするつもりっ!? ちょっと憧れてるけどさっ!!」


「なら良いじゃねぇか……いや、良くないな父親として叱るべきだな」


「ああ、俺も男親として叱るべきだろう」


「ではどうぞ」


「同棲してるってのに良くぞ今まで避妊を続けていた! 流石俺の息子だ誉めてやる!」


「俺達は彼女達の欲望と策謀に負けてしまった……それを考えれば良くやっているぞ婿殿!」


「いや、親としてもっと叱ってどうぞ? 普通さ、ガキが子供作ってどうするんだって叱らない?」


「いや、そこはお前の行動力信じているし。金策から退学にならずに出産後も学校通えるように、ちゃんと動くだろうお前。なんたって俺の息子なんだからな!」


「たとえその行動が失敗しても、這寄家の力で大概なんとかなるからな。フィリアを愛し結婚してくれるだけで嬉しい」


「僕への期待重くない? そりゃあ、念のために下準備してる所だけどさ。フィリアと一生添い遂げる覚悟はしてるけどさ」


「なら大丈夫だな」「ああ、拳骨一発で良いだろう」


「それはするんだ、僕ちょっと安心したよ」


 思ったより大事になったとはいえ、それで済むならとほっとした英雄だったが。

 男親達は即座に釘を刺した。


「とはいえだ、ローズちゃんの説得はお前がするんだぞ。楽しそうだがこれはお前の問題だからな」


「すまないが、君は家族全員の了解を取ってくれ。具体的にはローズとロダンだ。俺は、カミラがローズの味方を一応する以上、動けないし場合によっては敵対する事となる」


「ロダン義兄さんは?」


「絶対にローズの味方をするだろうし、まずは彼から攻略するといい」


「まあ、最初はこの牢屋からの脱出だな。頑張れよ」


 さらっと言われた言葉に、英雄は顔を目を輝かせて。


「え、やったあっ!! プリズンブレイク出来るのっ!!」


「……本当にお前の血だな婿殿は」


「だろう! 良く言った英雄! ちょっとした手助けぐらいは陰からするが、牢獄から脱出させるのは出来ない。貴殿の幸運を祈る!!」


「頑張ってくれ英雄……本当に頑張ってくれ英雄! ああ、君とフィリアが別れさせると思うとっ! あの子は何をするかっ! ある意味ローズ以上にフィリアは過激なんだっ! 今度はこの屋敷が燃えかねないっ! 本当の本当に頑張ってくれ英雄っ!!」


「あー、うん、はい、超頑張ります僕っ! ところで、脱出の際にどこまで屋敷を壊して良いですか?」


「英雄、昨日の夜に言っただろう。安全圏で勝負しようとするんじゃない。そう言うのは後で責任取るからって覚悟決めて黙って壊すんだ。そうした方が上手く行く」


「婿殿。もう遅いかもしれないが、コイツの悪いところはくれぐれも学ぶな。これは独り言だが、ロダンの工房とカミラが作った庭に被害がなければ問題ない」


「前向きに善処します」


「フリじゃないぞ! 王太みたいに本当にやらかすなよ! こころさんが居なければコイツ、カミラに殺されてたかもしれないんだからなっ!」


「気にするな英雄。コイツもコイツでカミラさんがいなきゃ、こころに殺されかねなかった」


「どっちもどっちだよっ!? 何したのさマジでっ!?」


「いやー、あの頃は若かったなぁ。そうだ、お節食いながら一杯やらないか? 孫の名前でも考えようぜ!」


「それは良いな、実は幾つか候補を考えていたんだ。聞いてくれるか?」


「勿論だユーリ! 俺のも聞いてくれよ!」


「親父? 義父さん? 僕のお節もある? 元旦から朝飯抜きとか悲しいんだけど?」


「ま、親からはな?」


「そこで反省していてくれ、今度から泥酔していても伴侶の行動を止められるようにな。それが愛が重い女を愛し続ける秘訣の一つさ」


「という訳だ。じゃあな監獄暮らしを楽しんでくれ、ああ、ちゃんと三学期までに脱出するんだぞー」


「ちょっと無茶ぶり酷くないっ!? 僕のお節残しておいてよ!! ……あーあ、行っちゃったよ。子供の名前なら僕も考えてるっての」


 一人残された英雄は、黙々と頭脳を回転させた。

 脱出方法、そして義姉ローズの事。


(まさか、ココまでされるとはねぇ……。シスコンにも程があるでしょ)


 先ずは冷静に話し会う機会を作らないといけない、人間は話せば分かる生き物だから。

 最悪の場合、駆け落ちまで計算に入れなければならないが。

 それは最終手段だ、何はともあれ、言葉と行動だ。


「……とはいえ、せめて鎖を外さないとなぁ。未来さんが鍵を持ってきてくれると助かるんだけど」


 ぐーぐーと空きっ腹が苦情を訴える中、英雄は盛大にため息を吐き出した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 英雄がまとも 唯一まともw [一言] 英雄なら靴に針金ぐらい仕込んでいるはず・・・ あ 家の中だったw
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