第52話 フィリア姫親衛隊
英雄以外は知らぬ事だったが、這寄フィリアの誕生日はクリスマス当日であった。
彼氏である英雄は当然の様に、クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントの両方を用意していたが。
困ったのは栄一郎と天魔である。
親友の彼女への誕生日プレゼント、地味にチョイスに困るやつだ。
しかして、クリパ件誕パの実行と参加は確定事項なので。
男三人、マックでダベりながら相談である。
「――いや、初耳だぜそれ?」
「そういえば、親衛隊を名乗る連中も誕生日が何時か知らなかったでゴザルなぁ」
「ああ、居たね。親衛隊、彼らには悪い事をしたと思ってる」
「で、ホンネは?」
「はっはーっ! 君達が遠くから指をくわえて見てる間に、僕がかっさらってやったぜ! すっごく良い気分だ!」
「それ素直に言える英雄もスゲェって思うけどさ、お前どうやって親衛隊を黙らせたんだ?」
「あ奴ら英雄殿の事を、血の涙を流して睨んでいたでゴザル、正直、我輩は喧嘩沙汰になるかもと心配してたでおじゃるが」
「だよな、クラスの連中も。一応だがお前に加勢する気でいたんだぜ?」
「いや、みんな僕とフィリアが仲良くなっただけで襲ってきたよね? 気持ちはありがたいけど、腑に落ちないよ?」
「それとこれとは別問題でおじゃ、アレはあくまで敬愛なるクラスメイトへの祝福(物理)で遊びの範疇」
「んでもって、親衛隊の連中は殺意マシマシだろ。そりゃ英雄の味方になるって」
「なるほど、道理……なのかな? まあいいや、僕に人望があるって話だもんね! …………しっかし、親衛隊かぁ、アレの対処はメンドかった」
クラスメイトのは嫉妬では無かったのか、と神妙に頷いた英雄だったが。
ともあれ、親衛隊の事にはウンザリだ。
そもそもである。
親衛隊はフィリアの入学直後に、去年卒業した三年生達を中心とした雑談に単を発する。
曰く、――ソシャゲの姫キャラに似てね?
と金髪、ポニーテール、リボン巨乳、その端正な顔立ちと。
どこか高貴さを感じる、物言いや仕草。
フィクションが現実になったと、当初は内輪での悪のりであったが。
そのうち、内外からガチ勢が出現。
告白失敗する者が続出、彼らは傷を舐めあっていたが。
次第に抜け駆け禁止、献上物禁止など、厳格なルールが制定されていき…………。
「まあ、苦労したとはいえね。最初から彼らの組織に割り込む余地があったんだよ」
「どういう事でおじゃ?」
「親衛隊なんて退屈そうなもん、お前が好んで入るとは思えないが?」
「簡単な話さ。――だって僕、親衛隊成立に関わってるし」
「は?」「うん?」
「考えてみなよ、今でこそメンドクサい事になってるけど。美少女をチヤホヤする組織なんて面白そうじゃない」
「いや、待つでおじゃ? どんな経緯でそうなってるでゴザルっ!?」
「去年卒業した文芸部の先輩とソシャゲしてた時にさ、そのゲームのキャラにフィリアが似てるって話になってね、いやー懐かしいなぁ」
「それから?」「続きはようでゴザル」
「当時って、フィリアの事は美少女だけど注意してくるの鬱陶しいなって思ってたから、逆に考えて、彼女を称えてみれば良いんじゃないかなって。その先輩と一緒に我らフィリア姫の親衛隊! って遊んでたんだけど」
「何故、逆に考えたのにゃっ!?」「そっちに行くのがお前らしいって気もするが」
「フィリアに告白して、拗らせちゃった別の先輩がいてさぁ……、このままだとストーカーになっちゃいそうだったから」
「ははぁ、コントロールする為に仲間に入れたでゴザルな?」
「読めたぞ、その調子で構成員が増えていったんだな?」
「だいたいそんな感じだね、でも堅苦しくなっちゃって。僕も先輩が卒業したから関わらなかったんだけど、中には初期メンバーが残ってたから」
英雄が口出しする余地があったのは、二人にも理解出来た。
しかし、それと彼らの説得とは結びつかない。
「それで、どうやって彼らを説得したでゴザル?」
「つーか、よく説得しに言ったな。フラれた敗北者ばっかなら放置してても良かったんじゃねぇの?」
「それに関しては、利害の一致だね。実は親衛隊の事で写真部が困っててさぁ」
「というと?」
「あー、そう言えば相談に来てたでおじゃ。確か、写真が奪われたとか何とか」
「そ、犯人が親衛隊って訳。しかも彼ら、独自にフィリアを盗撮してたみたいで。えっちな写真こそ無いけど、同棲したばっかりだったから」
「そりゃお前は動くよな、しかし水くさいなぁ、俺らにも声かけてくれりゃあ良かったのに」
「ごめんね、あの時は一部の女子達が大勢バックアップしてくれてたから」
「女子達でゴザル?」
「フィリアだけなら良かったんだけどねぇ、……彼らミスコン上位の人たちにも迷惑かけてたみたいで。男手は写真部顧問のセンセと、巻き込まれた伊良部だね。僕のカンによると、その時に伊良部が三位先輩に惚れたんだと思う」
伊良部の恋の始まりはともあれ、どうやって説得したのかがまだ残っている。
そんな視線に促され、英雄はコーラをずずずと啜って。
「……ま、集会してた時に突入した訳だけど。あの時は殺意ガンガンでちょっと怖かったねぇ。結果的、言葉だけで解決したんだけどさ」
「というと?」「何言ったでゴザル?」
「残念な事に、彼らは非モテの敗北者の集まり。清潔感とか、女の子との接し方とか、ちゃんと努力した? って説教したり、盗撮とか卑怯だし、芸能人でも何でもない一人の女の子を集団でつけ回して恋が実ると思ってたの? とか言ったら。殆どが納得してくれたよ」
「…………それ、処刑って言わね?」
「しかし英雄殿、中には元彼女持ちとか居たのでは?」
「勿論リサーチ済みさ、元カノに説教して貰ったり。中には隊員を好きな子が居たから、そっちからアプローチして貰ったり。そして駄目押しで写真部顧問のセンセだね」
「ははあ、退学とかチラつかせたでおじゃるな?」
「うん、それで念のために親御さんへ連絡した」
「だから最近、親衛隊の話を聞かないのか……」
「解散したという事でゴザルな?」
「まぁね、今だから言うけど。愛衣ちゃんも隠し撮りされてたんだからね?」
「――ちょっと用が出来た、先に帰っててくれ」
「ステイステイ栄一郎っ!? もう終わった話じゃねぇかっ!?」
「そうだよ栄一郎、幸いな事に卒業アルバムにも使えそうな健全な写真ばっかりだし、愛衣ちゃん自身も知らないだろうし、――――彼らは二度と、そういう行為をしないんじゃないかな? 写真部がきっちりヤキいれてたから」
「………………取り乱したでおじゃ」
「あ、そうそう。それで思い出した。鞄の中に入れっぱなしでちょっと皺になってるんだけさ。はい天魔、一足早い僕からのクリスマスプレゼント」
「ほほう、拙者には無いのでゴザル?」
「栄一郎にもあるよ、いやー、捨て忘れてて良かった」
「捨てるでおじゃ? いったい何が…………っ!? こ、これはっ!?」
「おい、英雄? ちょっと説明が説明が欲しいんだが?」
「あれ? 気に入らなかった? 茉莉センセと愛衣ちゃんの写真。体育の授業中とか、水泳の授業の時とかのもあるでしょ。元データは焼却炉で物理的に燃やしたから残ってないし、レアだよ?」
「……帰ったら燃やすは俺、こんなの持ってたら愛衣ちゃんが何言うか分からねぇっ!! ただでさえ、最近ウチのオカンと仲良くなってるのにっ!!」
「ガンバ、天魔」
「やっぱ俺、アイツ等殺してくる」
「はいはい栄一郎、一発殴るとしても卒業後にしてね、関係がバレるかもしれないから」
「よし天魔、お前も来い。愛衣を理由にしてぶん殴ってくる」
「明日にしようぜ? ……ってか、英雄。お前は怒らないのか?」
「ああ、僕は彼氏として一発ずつぶん殴り済みだし。回収したフィリアの写真は、壁に張って飾ったぐらいだよ。今はもう剥がしてるけどね。君たちにもお勧めするよ」
英雄の提案に、二人は首を傾げた。
いったい、何を言い出すというのだ。
「……拙者、流石にストーカー丸出しの行為はちょっと」
「栄一郎は、自分の事をもうちょっと振り返ろう?」
「いや英雄、どこがお勧めなんだマジで」
「これは特に天魔にお勧めだね、部屋に張って愛衣ちゃんを招くんだ」
「自爆戦法でゴザル?」
「そう悪い行為じゃないよ? だってそれで気持ち悪いと思ったら、天魔へのアプローチが減るし。感激したら好感度アップさ」
「え、俺にとっては究極のニ択なんだがっ!? おまけに家族にバレたらヤバいんだがっ!? おっしやってみるぜ!!」
「やるでおじゃっ!? それでこそ我らの天魔でゴザルっ!!」
「そう言ってくれると思ってたよ天魔! ――んでもって、栄一郎が壁に張るのはこっち」
「まだ何かあるでおじゃるか?」
「うん、親衛隊が資金源の一つにしてた校内イケメンの隠し撮り写真。――あの時、女の子達が密かに動いてくれた一因でもあるね」
「つまり、…………拙者の写真でゴザル?」
「あー、なるほど? 栄一郎は自分の写真をあの人の部屋にでも張ると」
「となると、アイツは…………成程? 悪くないでゴザルっ! ヒデオイズマイベストフレンド!」
栄一郎は鼻息荒く拳を握った、ついでに持っていた食べかけバーガーも潰れた。
茉莉の部屋に沢山の栄一郎の写真、となれば予想される反応は二つ。
呆れるか怒るか、もしかすると別の反応もあるかもしれない。
妄想迸る栄一郎を見て、天魔は英雄に眉根を寄せて。
「なあ、流石に茉莉先生が迷惑するんじゃないか?」
「それなら大丈夫さ、これはセンセからお願いされた栄一郎コントロールの一貫でね」
「…………ああ、なるほど? 栄一郎に主導権があると見せかけて、その逆だと」
「その通りだね、――そして、それは天魔も同じさ」
「どういう事だ?」
「天魔さえ良ければ、僕から愛衣ちゃんに写真の事を密告する」
「そうかっ! 当然愛衣ちゃんはからかうか、そこを突いて攻めのアプローチをしてくる!」
「どこを攻めてくるか分かってさえ居れば…………後は、分かるね?」
「おおっ! ヒデオイズマイベストフレンド!! そろそろ俺が主導権を握りたかったんだ!!」
やぁってやるぜ、と意気込む天魔と栄一郎に英雄はニンマリ。
これで彼らに貸しが一つ出来たと言う事だ。
「恩に着るでおじゃ!」「へへっ、今度礼をするぜ」
「ありがと二人とも、じゃあ早速返して貰おうかな」
「うん? 今すぐ? 追加で何か奢るのにゃ?」
「…………俺の冷めたポテトいるか?」
「ああ、言い方が悪かったね。取りあえず明日、プレゼント選びに行くじゃない? その時につき合って欲しい所があって」
「何処に?」
「明日言うね、ちょっと勇気が必要な所だから」
「何か買うのか?」
「買うというか貰いにだね、やっぱり勇気がいるから」
首を傾げる二人に、英雄は真剣な顔をして。
「二人とも、どうかその時は。躊躇うかもしれない僕の背中を押して欲しい。――人生に関わる事だからね」
栄一郎と天魔は顔を見合わせて、仲良く首を傾げた。
なお栄一郎は帰宅後、計画を実行し
茉莉に誘導されるがままに、短パン小僧コスでお姉ちゃんプレイに発展。
天魔は初めてのキスを奪われたのであった。




