第51話 のろけ大会
そろそろ今月も終わり、今年も終わり。
つまりは二学期も終わり、冬休みとなる訳で。
英雄達もいい加減、遊ぶ予定を決めておきたい所である。
そんな訳で、放課後の英雄の部屋。
女性陣はちゃぶ台を囲み、男性陣は恋人の斜め後ろで。
「いや、這寄と愛衣は分かるよ? 何でアタシまで居るんだ?」
「当然の疑問だな」
「わたしも、義姉さんと二人で一緒にお出かけぐらいはしたいですけど。――兄さん達が」
「栄一郎~~、分かってるのか? アタシは教師なんだぞ? 卒業後はまだしも、愛衣以外は来年には三年生、受験だぞ? 流石に無理だ」
「って事だけど、どうする栄一郎? やっぱりセンセは諦める?」
「ぐぬぬっ、拙者としては正月に晴れ着姿の茉莉を見せびらかしたかったでおじゃっ!!」
「いや、無茶言うなよ栄一郎……、どこに集まるとしてもせめて二人っきりじゃないとリスクはあるぜ?」
「なら、どこか県外の神社とかどうでゴザル?」
「うーん、却下だね」
「そんなっ!? 理由を述べるのじゃマイフレンドっ!! 我輩も茉莉とイチャイチャしてるの英雄殿達みたいに見せつけたい!」
「兄さん……どうして義姉さんが絡むと馬鹿になるんです?」
「ふふっ、そう言うな愛衣。全ては跡野先生が机兄にとって魅力的過ぎるのがいけないのだ」
「そうでおじゃっ! 茉莉は罪な女! 結婚してくれっ!!」
「はいはい、婚約したんだよね君たち。せめて栄一郎の誕生日まで……やっぱ卒業まで待とうか」
「うう、世は無情でゴザルぅ~~」
「ほら栄一郎、アタシの膝で回復しな。よしよーし」
「うわっ……、センセが女の顔してるっ!?」
「ああんっ!? 文句あっか脇部ェ!」
「ありませんっ!! フィリア~~」
「よしよし、君も私の膝で回復すると良い。――はい、良くできました」
「愛衣ちゃん?」
「ダメですよ天魔くん、大変魅力的な、とっても魅力的な提案ですが、わたし達までそれをすると収拾がつかなくなります。ぽてーん」
「…………おい、それでなんで俺の膝に来るっ!?」
「ガンバ、エテ公」「愛衣も重いぞエテ公」「…………諦めろ越前。この兄妹に関してはどこかで妥協しないと痛い目をみるぞ」
「ガッデム――――っ!!」
両手で顔を隠し天を仰ぐ天魔に、英雄はフィリアの膝に頭を乗せながらのたまった。
「その点、僕は優秀だね。フィリアに関して何一つ妥協してない」
「なあ脇部、ちょっと愛が重い?コイツらに対するコツを教えろ。これは教師命令だ」
「そうだぜ脇部! 是非教えてくれ!」
「英雄殿~~、教えなくて良いでゴザルよ」
「というか、わたしは重くないですっ!」
「まあ待て二人とも、これについては英雄は非常に優秀だぞ、私など妥協させられてる気がしないのだ」
「是非とも話せ脇部」「頼む、わりとマジで将来の為に」
鬼気迫る二人に、英雄は笑ってさらりと告げる。
「第一に、まー普通の恋人同士でも当たり前なんだけどさ。好意は否定しない拒否しない」
「成程? それでそれで?」
「んでもって、指摘はする。重いって感じたなら素直に重いって言うんだ」
「それだけか? ホントに効果あんのか?」
「焦らないのエテ公、それらを前提として、こっちの案を言うんだ。好意と共にね、そしたら後は話し合いさ」
「――盲点だったっ! アタシとした事がっ!」
「それやると、何か色々確定しそうなんだが?」
「エテ公はそうだね、覚悟が出来ないなら土下座すれば? 愛衣ちゃんって支配したがりだから、そう言うのに弱いと思う」
「凄いでおじゃ、完璧に把握されてるでおじゃっ!?」
「ありがとう……ありがとう脇部、いや、今日からは英雄と呼ばせて貰おう!」
「あ、そう言えばエテ公は僕の事、名字で呼んでたっけ。じゃあ僕も天魔って呼ぶね」
「…………成程、こういうコミュ力の高さで校長達すら懐柔したんだなオマエ?」
「コミュ力の範疇かな今の? 普通のやり取りだと思うんだけど。――ああ、そうだ。センセにはもう一つ付け加えとかなきゃ。栄一郎もフィリアと同じタイプだから効果覿面だと思うんだ」
「よし、聞かせろ」「英雄殿は甘いでゴザルなぁ」「優しいと言え、机兄」「そうですよ兄さん」「だな」
英雄はよいしょと体を起こし、真面目な顔で茉莉に言った。
ある意味、これが一番のキモである。
「こっちの要求を告げる時には、スキンシップと一緒に口説く感じで。下手に逃げようとすると過剰に追ってくるからね、こっちがグイグイ行くんだよセンセ」
「栄一郎を……、アタシが」
「あくまで僕の想像だけどね、二人は栄一郎が一方的に迫って、栄一郎が一方的に愛を告げる感じじゃない? センセも愛してるけど、受け入れた結果――で良い?」
「ううっ、拙者、英雄殿の理解で涙腺が崩壊しそうだ……、ああ、俺は得難い親友を持った」
「………………感謝する脇部、アタシらの結婚式のスピーチをしても良いぞ」
「いやセンセ? 気持ちはとっても嬉しいけど。それって普通、既婚者がする役目じゃなかった?」
「大丈夫でゴザル、親友枠のスピーチ……こういうのって、どういうモノだったでおじゃ? 流石にリサーチ不足でにゃ」
「つーかさ、英雄と栄一郎じゃ英雄の方が誕生日先だろ? もしかして学生の内に結婚するんじゃね?」
「あ、鋭いね天魔。多分、そうなるかなーって予測。ウチの親は反対しないだろうし、フィリアの親御さん次第だけどね」
「うむ、そう言う事だ! 私が言えば家族は反対しな――――………………あ」
「え、あって何っ!? 何かあるのフィリアっ!?」
「う、うむ……、いや流石に………しかし、もしかすると……?」
「英雄殿も一悶着ありそうでゴザルな、――その時は遠慮なく頼って欲しい」
「ああ、遠慮すんなよ英雄」
「というかフィリア先輩? 冷や汗すごいですよ?」
「………………英雄。後日、未来を含めて話す事がある、何の対策にもならないだろうが、頭に入れておいてくれ」
苦虫を噛み潰した顔で唸るフィリアを抱き寄せ、英雄は軽く笑った。
「そんな気に悩まないでフィリア、最悪、駆け落ちしても良いし。――――いざとなったら子供作って既成事実作ろう。ちょっと今月から金策始めるから、後で相談しようね」
「英雄……!!」
「はわわっ!? 英雄殿がガンギマリ過ぎるっ!? ガチでおじゃっ!?」
「脇部、その時はアタシに言え。匿うぐらいはしてやる」
「天魔くん、わたしもあれくらい愛されたいです」
「あー、いつかな、いつか。その時が来たらな。――つか英雄、何でそこまで覚悟決められるんだ?」
「いや天魔、逆に聞くけどさ。世界で一番の女の子が愛してくれてるし、僕も愛してるんだよ? こんな幸運逃がす訳ないじゃん? 躊躇う所がどこにも無いよね?」
「すまない皆。三時間程外に出ているか、帰ってくれないか?」
「はいはい、それも後でね。ぎゅーってしてあげるから我慢してね、はい、ぎゅー」
「はふぅ…………幸せだ」
「アタシらは何を見せられているんだ?」
「…………成程、よし愛衣ちゃん! 俺もぎゅーしてやろう!」
「待ていエテ――いや天魔! お前らまでそれしたら収拾つかなくなるだろっ!! 兄さんは許さんぞっ!!」
「残念ですけど、兄さんのピエロの皮が剥がれたので却下です。…………後でしてくださいね?」
「残念だがそれは却下だな、今のは英雄に感化された一時的なモノだからな。――後は愛衣ちゃん次第だ」
「もう、天魔くんは意地悪なんですから」
そう言うと、愛衣はぽふっと天魔に寄りかかり甘い雰囲気。
二組のゲロ甘な空気に、栄一郎と茉莉も顔を見合わせて。
「――よ、よし! アタシも覚悟決めたぞ」
「うん? どうするんだ茉莉」
「いや違ぇぞ栄一郎、今のアタシは。……あの頃の茉莉お姉ちゃんだ! さあ、甘えろ!」
「~~~~っ!? お姉ちゃん! 俺、ぎゅってして欲しい!」
「ははっ、栄一郎はこんな大きくなっても甘えんぼだなぁ…………うう、ちょっと恥ずかしい」
「そんな茉莉お姉ちゃんも大好きだよ、さ、抱きしめてくれ」
「フン! …………これで、いい?」
三者三様なラブラブが始まる、救いだったのはそれぞれの相手の一人が理性的だった事だろう。
甘いというには甘すぎる空気以上にはならず。
「あ、忘れてた。今回は残念だけどセンセ抜きで初詣を……一月三日でどう?」
「さんせー」「愛衣ちゃん了解しました」「オッケー」「では、初詣の後は此処に集合だ。未来も呼ぼう」
となれば、栄一郎とお姉ちゃんプレイしたまま茉莉は締めくくった。
「それじゃあ、アタシは此処で未来と飲んで待ってるさ。初詣の帰りはここで騒ぐんだろ? ならこれで決定だ」
その後、夕食は女性陣の手料理で。
机兄妹と天魔が一緒に部屋を出て、タイミングをずらして茉莉は変装し無事帰宅した。
なお、さらにその後で英雄は避妊するのに苦労した。




