第46話 サンタのプレゼント
土曜日に一大イベントが控えているといっても、それはそれ、これはこれ。
放課後、英雄を急かして帰ったフィリアは。
家の前に立っていたメイド、未来から紙袋を受け取ると英雄を閉め出して。
「――うん? どゆこと? 未来さん何か知ってるでしょ」
「それは…………グッドラック!」
「あれ? 帰っちゃうの? 中に入ってお茶ぐらい飲んでいっても」
「いえいえ、今日のは業務ではなく妹分への支援ですし。これから酒のつまみに親友の愚痴を聞くという大役があるので」
「………………茉莉センセ?」
「ご想像にお任せします。では、フィリア様によろしくお伝えしておいてくださいな」
「……………………あの人、まさか日常的にメイド服を着てるんじゃ?」
以前も非番と言いつつメイド服を着ていた未来に、実は主人に負けず劣らず変人なのでは?
という疑惑が芽生えつつ、手持ちぶさた。
「そう言えば、未来さんの持ってくる物ってロクなもんじゃなかった様な?」
アダルディな犬耳と尻尾セット、あの事件を引き起こしたアルバム。
その二点だけで、十分過ぎる程に不審。
「へへっ、オラなんだかワクワクしてきたぞ!」
「――ほう! 英雄もワクワクしているのか!」
「あ、もう入って…………――――わーお! どうしたのそれっ!! サイコーだよフィリア! ね! ね! 僕の分もあるのっ!!」
「……君、食いつくのは其処か? 愛する恋人がミニスカサンタの格好をしているのだぞ?」
「うーん、中に入ってじっくり見てから感想を言いたいな。ローアングルも許してくれると嬉しい」
「ふふっ、素直で嬉しいぞ。さあ入れ!」「たっだいまーー!!」
喜び勇んで部屋の中へ、綺麗に靴を揃え手洗いうがいは忘れない。
構えるはスマホ、残り容量確認ヨシ。
さし当たっては、ノータイムシンクで撮影開始。
「さ、ポーズ取ってフィリア! まずはオーソドックスに女豹のポーズだ!」
「ふふっ、はしゃぐのは良いが。少し親父臭いぞ英雄」
「対面を気にして、目の前の素晴らしい光景を逃す事なんて出来ないさ! あ、もう少し胸の谷間を強調して?」
「こうか? ……一応聞いておくが、君はトナカイで良かったか?」
「ほほう? 美少女にこき使われる赤鼻のトナカイさん! 着るよ!」
「成程、では撮影する手を止めたらどうだ? 後で頻繁に見返すものでも無いだろう」
「その心は?」
「生身の私が居るのに、過去の写し身に心囚われるのは悔しいと思わないか?」
「同じ自分じゃないか」
「同じではない、悔しいと感じる私は君の目の前の私のみだ!」
「うーん、フィリアってば僕に写真撮られるのを、お気に召さない? 君は僕に無断でどんな写真でも撮ってたよね?」
「それはそれ、これはこれだ」
「聞く耳持たないと? じゃあこうしようよ、僕の撮った写真は二人の思い出として二人の時だけみる」
「ふむ、もう一声」
「フィリアのエッチな写真で、僕はエロ本を持たずに住むし。いざとなればそのエッチな写真やムービーで君を束縛出来るよね?」
「………………んん? ま、待て英雄」
「どうしたの、そんな腰が引けて……それとも腰を振って誘惑してるの? それなら喜んで押し倒すけど」
「ふ、ふん! そうやって軽口叩いてもだ! 押し倒したその先までしない事は知っているんだぞ!」
「それって君が気絶するからだけど?」
「…………つまり、気絶しなければ?」
にっこり笑った英雄に、フィリアはぶるりと身を震わせた。
恐れるなかれ、彼女は目的があってミニスカサンタになったのだ。
そして正式に恋人になった今、体まで繋がるのは本望ではないか、と。
「少し、話を変えるぞ」
「別に良いけど、ああ、折角だし僕も着替えようかな」
「うむ、そのままで良いから聞いてくれ」
「赤鼻とトナカイの角はゴム紐で固定、そして茶色の上下。……そっか、着ぐるみじゃないから背中にチャックとか要らないんだねぇ」
「楽しんでいる所すまないが、本題があるのだが?」
「大丈夫、聞いてるから始めて良いよ!」
「ゴホン! では……実はな? このミニスカサンタ衣装の下なんだが」
「どうしたの? 生地薄くて寒いとか?」
「ではなくてだな。――――ビキニ、を、着ているのだ」
「パードゥン?」
「恥ずかしいのだから、な、何度も言わせるなっ! この下は際どいビ、ビキニだけだっ!」
「何でそれ言ったのっ!? 恥ずかしいなら黙ってればいいじゃんっ!!」
と言いつつ、英雄の視線はフィリアに釘付けだった。
今の彼女を一言で表すと、金髪巨乳ミニスカサンタ。
上はオフショルダー、男の英雄から見ればブラ紐ドコー? な過激なヤツで。
加えて、母性に塊が大きいので綺麗なお腹がチラ見。
下はミニスカートと、――白のストッキング。
スカートとストッキングの狭間の絶対領域に映えるナマ太股が眩しくて。
その下が、…………ビキニ水着ときた。
恋人という立場に甘え、すぐさまローアングルで確かめるべきか。
いやいや、堂々と上の裾をめくり確かめても良いのではないだろうか。
英雄はスマホで撮る事を忘れ、鼻息荒くフィリアを舐め回す様に血走った目で見る。
「~~~~っ! だ、騙されないからなフィリアっ!! 君ってばまた何か企んでいるだろう!! キスで失神する君が、脚を震わせながらこんな格好を我慢するなんて、何かがあるとしか思えないっ!!」
「ほう、良く吠えた! 恋人に対する心遣いを無駄にすると言うのか!」
「恥ずかし過ぎて顔を隠しながら言うぐらいならさ、着替えたら良いんじゃない?」
「乙女が覚悟しているのだぞ!!」
「何の覚悟? 僕、君に無理強いするつもりはないけど?」
「このヘタレがっ!! 私が勇気が出ないから、ちょっと強引に来て欲しいのではないか! そう! 未来の部屋にあったレディコミやTL小説みたいに!」
「み、未来さーーんっ!? 知りたくなかったよそんな事っ!?」
「どうだ、今の私が出来る全力だ! さあ、恋人として抱くのだ! 勿論ゴムは用意してあるぞ!!」
「くっ、ここまでお膳立てして貰って……僕は良い彼女を持ったよ! じゃあソレ貰うね?」
「ああ、エチケットだからな。買うのが恥ずかしかったが未来と一緒に勇気を出して薬局に行ったんだ……」
「未来さんと? ふーん、なるほど。…………なるほどぉ…………」
それは、万が一の確認だった。
「おおっとっ!? てがすべったゾー!」
「うむ、いくら未使用未開封とはいえ。ゴミ箱に入ってしまった物は使われたくないな。ああ、大丈夫だ、代わりもあるぞ!」
「ありがとう! 今度は足がすべったゾーー!!」
「はっはっはっ、今日は英雄も浮かれているな? 何、まだ予備はある」
「ごめんねフィリア、ちょっと舞い上がってるみたいだ。箱ごと貰って……――そぅいっ!! ダンクシュート!!」
「何をするんだ英雄っ!! 君は避妊をするつもりが無いのか!? アレだけ私に言っておいて!!」
「…………それ、僕の目を見て言って?」
「ふん! 何だかんだと言って英雄の本性は野獣! 私という美しい獲物を独占したくてたまらないのだな! ああ、美しさとは罪!」
「ねぇフィリア? ちゃんと僕の目を見て言って? ね? ね? ね?」
「ふぉふぇふふぁふぁい」
「聞こえない、もう一度」
「ふぉふぇふふぁふぁい」
「…………本当に反省してる?」
「ふぁい!」
フィリアのほっぺたを掴んで、上下左右にぐーにぐに。
最後にデコピンを一発、思わず彼女は涙目になって。
然もあらん、彼女の用意した避妊具もといコンドームは。
――その全てに、穴が、開けられていたのだ。
英雄とて、親戚一同から吹き込まれた先入観がなければ騙されていたのかもしれない。
「はぁ……、親戚揃って、コンドームは自分で用意しろって口を酸っぱくして言う筈だよ」
「穴を開けた身で何だが、大丈夫か? 脇部の一族は?」
「大丈夫じゃなかったから、みんなが忠告してるんだよね。――それじゃあ話して貰うよ? なんでこんな事したのさ」
「……………………黙秘権を行使する」
「別れる?」
「孕む為にやった! もっと上手くやれば良かったと後悔してる!」
「うん、後悔する所が違うね。そして君はこうやって騙し討ちするよりか、僕に媚びて理性を失わせる方法を学んでどうぞ?」
「な、なるほどっ!?」
「その手があったか、みたいな顔しないの。……というかさ、何で孕もうとしてるのさ」
「うむ、正式に恋人になった。それは即ち、正式に別れる可能性が出てきたという事だろう?」
「それ、本当に言葉上だけの可能性だね。現実的にはゼロパーセントじゃない?」
「それが慢心なのだ! 世の中何があるか分からないのだ! ならば――先手を打つしかないだろう!」
「えっちなコスプレで誘惑して、ゴムに穴開けて騙し討ち? …………もしかしてフィリア、俗に言う危険日だったりするの?」
「違う、――安全に孕める日だ!」
「危険日だよそれっ!? 僕を高校生の身分でパパにするつもりっ!?」
「イクザクトリー!!」
そう我が儘で豊満な胸を張って、仁王立ちするフィリア。
しかして、その瞳は不安そうに揺れて。
ならば仕方ない、と英雄は立ち上がって制服のポケットを漁る。
「まー、フィリアってなそういう子だよね。僕が間違ってた」
「何と! パパになる決心がついたのか!?」
「いやいや、僕ってばヘタレだったよねって」
そして取り出したるは、小さな四角い。
遠目から見ると中に円型の何かが入ってる、フィリアからしてみればゴミ箱にダンクされたソレの色違い。
「僕も始めてだから、痛かったらゴメンね?」
「ほわっ!? な、なにをしゅるぅ!!」
「ナニって、……長年、フィリアが望んでた事だよね?」
「……………………足の指とか舐めて、愛してる女王様。捨てないでください。って言ってくれる?」
「ソコまで性癖拗らせてたのっ!? ええい男は度胸っ!! 君にもやって貰うからねっ!!」
「まて、その前に電気を消せ!」
「それは却下~~!」
二人は超絶仲良く過ごし、夕飯を届けた未来に祝福され恥ずか死した。




