表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/210

第43話 クリーンタイム



 掃除の時間である。

 普段使う教室と廊下は勿論、英雄の高校では持ち回りで屋上や体育倉庫などを掃除する事となっている。

 そして今日、彼らが掃除をするのは――焼却炉周辺。

 ついでに言えば、掃除をサボった他クラスの者が何名かギャラリー兼審判として。


「諸君! 約一ヶ月ぶりにまたこの時がやってきた! ――そう! 脱衣ゴミシュートゲームの時間だ!」


「今日こそは負けないでゴザルっ!!」


「ああ、前回は全裸になった上にフィリアに美味しい所を全部持って行かれけど。今回は挽回しよう栄一郎! いえーい、ハイタッチ!」


「イエーイ、ハイタッチ! 拙者達のコンビプレイで蹂躙するでおじゃ!」


 燃える二人に、他の男子達は。


「はっ、また全裸にしてやるぜ脇部ェ!」「おし協力しようぜ机から狙うんだ!」「性格がアレな事が判明したが這寄さんと付き合ってる事を許したと思うなよ?」「あの馬鹿二人から狙うぞ」「まてエテ公を忘れるな」「俺もかよっ!?」


 然もあらん、謎の才能を発揮して常に優勝候補である英雄、全てをそつなくこなす栄一郎。

 しかも英雄にはフィリアが、栄一郎もモテ男と認識されているのだ。

 狙われない訳が無い。


「まったく……男子達は何故毎回こんな馬鹿騒ぎを……」


「と言いつつ」「今回は参加するき満々だね」「まぁアタシらも参加するし」「今回の優勝賞品なにかなぁ」「ふふっ、机くんの裸体……」「ふひひ……エテ公の裸……」「え、アンタの趣味ってそうっだったの? ナイわー」


 そして、若干覚めた目で見つつ。

 戦意満タンの女子達。


「良い感じに場が暖まったようだね! じゃあ毎度お馴染みルール説明!」


「各自一つ、ゴミ袋を所持! そのゴミ袋を焼却炉にぶち込めば一点でゴザル!」


「妨害アリ! 横取りアリ!」


「ゴミ袋を喪ったら、脱衣して再所持しなければならないでおじゃ!」


「暴力行為禁止! 即失格! 全裸の場合、土下座でワンチャン! それでもダメだったら敗北だ!」


「途中棄権、降参もアリ!」


「それじゃあ、ルールを守って――」


「――楽しくデュエル開始にゃあ!!」


 スタート開始と同時に、彼らは各教室から集められたゴミ袋の争奪戦。


「よっし、これ僕んの! お先に行くぜ!」


「あ、狡ぃ!? 英雄殿のゴミ袋、全然入ってないでゴザルっ!?」


「っ!? そうか! 君という奴は、事前に他のクラスの者と共謀して軽いゴミ袋を用意していたなっ!!」


「はっ、お前だけがしてると思うなよっ! 俺だって――うわっ!?」「よし! エテ公のゲッツ!」「あ、テメェ俺が狙ってたのに!」「脱衣!」「だーつーい!」


 開始早々、ゴミ袋を奪われたエテ公がブレザーを脱ぎ。

 そうしている間に英雄が一点を、続いて栄一郎が一点を取り。


「あ、脇部くん、降参するからこれどうぞ」


「らっきー! ニューゴミ袋ゲット!」


「アタシのもどぞー」


「やったね! これで二点獲得のチャンス!」


「ふふ、見事に罠にかかったでゴザルな英雄殿……」


「何っ、どういう事なの栄一郎っ!?」


「ふっ、――周りを見るでゴザル」


「はっ!? 囲まれてるっ!?」


「そして、英雄殿の両手は塞がって居る。――かかれぇっ!! 両方奪って二枚脱衣させろぉ!」


「裏切ったな栄一郎!! ヤメロォ! 僕に近づくんじゃあないっ!!」


 四方八方からゴミ袋で挟まれ、呆気なく両方のゴミ袋を喪う英雄。

 それを横目に、焼却炉にダッシュする栄一郎であったが。


「やったな栄一郎! 俺達の友情の勝利だ!」


「我輩達の策が上手くハマったでゴザるなエテ公!」


「それじゃあ仲良くシュート――って行くかよっ! お前等やれぇ!!」


「ぐわああああっ!? 裏切ったなエテ公っ!!」


「はっ、これも面倒な妹を持った事を恨むがいいぜっ!」


「あ、エテ公のもーらいっ! 秘技・分裂してるように見えるだけシュート!」


「テメェ脇部っ!? いつの間にっ!」「おい誰か英雄っちを止めろぉ!」「チクショウ! なんで陸上部より早いんだっ!」「でも帰宅部だから体力無いんだよなアイツ」「ジェットストリームアタックをかけるぞマッシュオルテガあと誰か!」「いや、お前だれだよ」「というか全部名前言えよ」


 ブレザー、ワイシャツと脱ぎ。上半身Tシャツネクタイの英雄は次々と攻撃を回避して焼却炉は目前。

 だが。


「――――私を、越えられるか?」


「いくらフィリアでも、手加減しないよ」


「ああ、君はそうだろうな。だがこれならどうだ?」


「くっ、卑怯な! リタイア組で焼却炉の前に壁を作るとはっ!!」


「すまんなヒデオ、リタイアしたから俺の拳が使えるんだ……」「優勝賞品の校内美少女グラビア(写真部制作)は俺たちの共有財産にするからよ」「往生せいやぁ!!」


「ネズミの国の一日パス貰ったからねぇ」「優勝賞品の校内美男子グラビアはBL同好会(非公認)を代表してわたしが貰う!」「ごめんね、栄一郎くんに頼まれちゃって」「エテ公に賄賂貰っちゃってさぁ」


「賄賂使いすぎじゃないみんなっ!?」


「いや、前回の英雄殿がやった手だニャ?」


「そしてコレもだ、――くらえ脇部ェ! ゴミ袋流星拳!」


「まともなのは僕だけか!!」


「お前以外だな」「ヒデオっち以外だね」「脇部以外だな」「お前を野放しにしたらなぁ……」「ああ、どんな卑怯な手を使うか分からん」


「では、打ち合わせ通りに」


「了解」「ほうれプレゼントだ」「くらえ、これがリタイア戦法だ!」「悲しいけど、美少女のお願いなのよねこれ」「私のゴミ袋は凶暴である!」「ところで今回ってガンダムネタ縛りなの?」「最近、三位先輩の影響で伊良部がハマってるんだとよ」


「ぐわあああああああああああっ!?」


 あっという間にゴミ袋の山に埋もれる英雄、クラスの半数がリタイアするからゴミ袋プレゼントと英雄に投げつけ。

 英雄の手持ちゴミ袋としてカウントされた途端、残るメンバーが次々と奪取。


「はっはっはっはっはっ!! これが戦いというものだ英雄! …………と、ところでっ、前を隠してくれると嬉しいのだが?」


「くっ、もう脱ぐ物が無い僕に、隠す所なんて無い! 全裸ラストチャンスだ!」


「敵ながらスゲェよ英雄殿っ!? 全裸土下座スライディングでゴミ袋を取り返したっ!?」


「というか、膝痛くねぇの?」


「かなり痛いよエテ公! 後で二人とも保健室行くの付き合って!」


「分かってたがしぶといな」「というか、いくら全裸ワンチャンあるからって……」「実行出来るのはヒデオっちとエテ公ぐらいだもんなぁ」「馬鹿やってるけど机はあんまり脱がないよね」


「必殺! フルチン扇風機前進! はっはー! フィリアはウブなネンネだから直視出来ないだろう!!」


「ええい、前までの私だと思うなよ! お前のを寄越せ机!」


「おじゃあああ!? 拙者がスピードで負けた!? 拙者がスロォリィ!?」


「あ、栄一郎がゴミ袋取られた」「今パンイチだろ?」「じゃあリタイアか」「たまには全裸の机くん見たいなぁ……」「よく考えたら、変な台詞じゃね?」


 両手にゴミ袋を持ったは良いが、直視出来ず、近づけも出来ないフィリア。

 前回は部外者なのでルール外であったが、今回は参加者だ。

 ルール上、そして愛する者に直接攻撃など出来る訳が無い。


「よぅし! これで三点目を――」


「ふむ? よく考えたら私はこの二つで十点目だから戦わなくても良いのでは?」


「マジでっ!? いつの間にっ!?」


「よっ、もう一つ追加でっ、――うむ! これで私が十点でダントツだ!!」


「しまった! 英雄殿を対策し過ぎてノーマークでおじゃったっ!?」


「つーかヤバくね? 這寄さんが一位確定だろ? んでもって残るは俺、栄一郎、英雄、伊良部、鎌鈴」


「え、鎌鈴残ってたの!?」「カマンベールチーズ大好き鎌鈴がっ!」「調理実習でカレーに巨大カマンベールチーズをホールでぶちこんだ女、鎌鈴が残ってるのかっ!!」


「……これぞ、カマンベール流ステレス殺法。アタイはこの方法でカレーにチーズをぶちこんだのさ!」


「マジでっ!? スゴいじゃないカマンベールチーズ! ――じゃなくてっ! 鎌鈴さんは一枚も脱いでないっ!?」


 英雄達は焦りを覚えた。

 なにせポイント最下位には過酷な罰ゲームが待っているのだが。

 そこにリタイア組は含まれないのだ。

 勝者が決まれば、後は最下位争いの過酷な足の引っ張り合いが始まる。


「…………停戦しよう栄一郎」


「いや、拙者はリタイアするでゴザル。パンツは死守しないと明日からブリーフにされてしまうからにゃ」


「何それっ!? 超気になるけど超絶聞きたくないよっ!?」


「ともあれ、栄一郎はリタイアか……。伊良部、脇部、今日こそお前達に敗北与える時が来たようだな」


「あ、オレもリタイアするぞ? 下手に動いて全裸になったら部活の奴らに迷惑がかかるからな」


「くうっ、伊良部ったら流石サッカー部の鏡だね! …………鎌鈴さん、共闘と行こうじゃないか」


「いや? アタイもリタイアするぞ? 這寄に賄賂貰ってるからな」


「フィリアっ!? 君ってばどこまで僕の邪魔するんだいっ!?」


「英雄に勝てて、私は大変気分が良いなぁ。ああ、負け犬の遠吠えが良く聞こえるようだ」


「ガッデム!」


「ふっ、と言うことは……俺とお前の最下位争いだな」


「お互い条件は互角、ゴミ袋一つに全裸――――あれ? いつの間に全裸になったの?」


「お前のカノジョにやられたんだよっ!! カレシならどうにかしろっ!!」


「グッジョブだよフィリア!」「うむ、出来たカノジョだろう?」


「ええい、リア充死すべし!」


「ああ、ズルいっ!!」


 英雄とフィリアがイチャついた隙をついて、越前天魔は猛ダッシュ。

 一拍遅れて英雄も追走するが。


「よっしゃあああああああ! 四点目ぇ!! 最下位は逃れたぞおおおおおおお!!」


「チぃっ!! 間に合わなかった!!」


「英雄殿も入ったけど、エテ公の方が早かったからノーゴールでおじゃ」


「うむ、では優勝は私だな!」


「最下位は脇部だ!」


「あ、それは違うよエテ公」


「負け惜しみか? 俺の方が早かったじゃねぇか」


「いや、そっちはそうだけどさ。――記録係? 僕の点数を言ってみて?」


「あ、なるなる」「あっちゃー」「そうだったわ」「ご愁傷様」「これだからヒデオっちは油断ならないんだよなぁ」「ハイリスクハイリターンだよな、そこに痺れないし憧れない」


「みんな酷くないっ!?」


「お、おいっ!? 脇部は何点なんだよっ!?」


「残念なお知らせにゃエテ公……、英雄殿は九点。拙者達の目を盗んで得点してたでゴザる」


「マジかよっ!? 何したんだお前っ!? さっき三点とか叫んでたじゃないかっ!」


「あれはブラフさ。んでもって――ふっ、他のクラスから協力して貰うのはルール違反じゃないんだよ」


「はーい、協力者の愛衣ちゃんでーす。」


「ギャラリーを使っただとっ!? 次から禁止だからなっ!!」


「英雄殿がシュートする時、ゴミ袋が分裂したように見えたのは見間違いじゃなかったでゴザるなぁ……」


「この手が使えたのは乱戦だったから、――次は違う手を考えないとね」


「程々にするでおじゃよ?」


「越前を対英雄用に追いつめておいて良かった、危うく負ける所だったな」


 ともあれ、最下位は越前天魔に決定した。

 そして罰ゲームの内容とは。


「じゃあエテ公、パンイチで告白ね」


「情けとして、罰ゲームと前もって言うのと、覆面はアリでゴザる」


「…………くっ、これも敗者の宿命か。ああ、相手は男でも良いんだっけ?」


「ダメだね、この校内美少女グラビアの中から選んでよ」


「くぅ、欲しかったなぁコレ…………うん、愛衣ちゃんも入ってんだ」


「僭越ながらわたしも、美少女ですから!」


 ふふん、と威張る愛衣に、天魔は盛大にため息を吐いて。



「――――机愛衣! 俺と付き合ってくれ!!」



「はい! 喜んで!」



 瞬間、沈黙が流れた。

 そしておずおずと、英雄が手を上げる。


「愛衣ちゃん? 聞いてたよね、罰ゲームにノッてくれたんだよね?」


「はい、勿論です! でも――本気で付き合っても良いんでしょう? 言質は取りましたよ?」


「マイシスターっ!? 何を考えてるでおじゃっ!?」


「兄さん、わたしはフィリア先輩から学んだんです。――――外堀埋めて既成事実を作ったもん勝ちだって!」


「すまん愛衣ちゃん、俺たち別れよう?」


「別れたら、天魔くんに空き教室で泣かされたあの事を言いふらします」


「エテ公っ!! 愛衣に何したんだゴラァっ!!」


「エテ公……、僕も一緒に着いていくから警察行こう?」


「おい、エテ公を粛正すっぞ」「エテ公が裏切った!?」「そっかぁエテ公の告白にオッケー……」「愛衣ちゃんも地雷だったんだな」「ウチの美少女って地雷多くね?」「最後の希望は去年と今年のミスコンで二位だったあの子だけだ!」「あの子、恋人居るよ?」「神は死んだ!」


 栄一郎を先頭に、クラスの男子(英雄除く)から全裸で逃げ出す越前天魔。

 それを呆れた目で見送ったギャラリーと女子達は解散。

 残るは英雄とフィリアと愛衣。


「真面目な話なんだけどさ愛衣ちゃん、ドコまで本気なの?」


「真面目な話なんですけどね、恋心は少し前まで無かったし。今も、この胸の想いはそうなのか分からないんですが…………後悔はしたくないので」


「ふむ、形から入ると言う事か? 茨の道かもしれないぞ?」


「かもしれませんが、――知ってます? 天魔くんは意外とガチ恋勢が居るって」


「あー、エテ公ってば下心なければ雰囲気イケメンだからねぇ」


「英雄にも居たがな、私の尽力によって穏当に排除したのだ。褒めてくれていいぞ!」


「後でお説教ねフィリア」


「何故だっ!?」


「ま、そう言う事ですから。取り敢えず確保しておこうかと。――わたしも天魔くんを追いかけますね、わたしの為に争わないでって、一度言ってみたかったんです!」


 駆け出す愛衣の後ろ姿に、二人は仲良く手を振って見送って。


「こりゃあ、エテ公も大変だ。というかよくよく思い出したら、中学時代からあの二人ってば一緒に居た気がするね」


「ふむ、何故一緒に居たか分かるか?」


「いや、流石に知らない。後で栄一郎に聞いてみる」


「私の方でも調べてみよう」


「何にせよ」「ああ」


 もしあの二人が上手くいったのなら、それはとても楽しくて幸せな事だろうと。

 英雄とフィリアは笑いあったのだった。

 ――なお英雄は全裸のままで、その所為でフィリアの視線は微妙に外れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] さっぱりわからんが白熱したディエルだったw とりあえずはよ仕舞え [気になる点] フィリアはともかく他の女の子は平気なのか? 見慣れたのか 粗末物なのか… [一言] 脱衣ゴミシュートゲー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ