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第41話 親友の妹



 話は少し遡る。

 熟練夫婦(仮)のイチャつきテロから間一髪で脱出した愛衣であったが。

 自分のクラスへ向かう途中で、エテ公もとい越前天魔に引き止められた。


「ヘイ! 待つんだ可憐なガール! ちょっと俺とお茶しないベイべー?」


「……急に寒くなってきたから教室に戻りたいのですけど?」


「あ、やっぱその反応なんだ。悲しいけど安心するぜ」


「そう言いつつ、前を遮らないでくださいません?」


「まあまあ、まだ昼休みは残ってるんだし、俺とお話しようぜ机妹。――聞きたい事がある」


「格好つけてても、どこか三枚目ですね越前センパイ。……類は友を呼ぶってこういう事なんですかね?」


「それって暗に脇部も三枚目だって言ってる? それとも栄一郎の方?」


「兄さんは顔も成績も優秀な二枚目です! そりゃあ少し言動はアレですけど」


「あの気持ち悪いオタク丸出しの言動が少し? いやまぁ、アイツのはピエロってるのはみんな知ってるから笑って流してるけどさ」


「あら、ご自分は三枚目だとお認めに?」


「ははっ、それぐらい自覚してるって。んでさ、ちょっと込み入った話なんだが――ここでも大丈夫か?」


「それなら、そこの空き教室にしましょう」


 黒髪の和風美少女と、二枚目を気取る三枚目はキョロキョロしながら空き教室へ。

 中に入ると、天魔は真剣な顔で切り出した。


「なあ、愛衣ちゃん。最近、変だろ」


「越前センパイの事ですか? それとも英雄センパイの?」


「脇部もすっかりニヤケ顔が板に付いちゃって……じゃなくてだな」


「ではフィリア先輩?」


「本気で言ってる? あのマジ無表情が? 脇部以外はさっぱり分かんないあの顔が?」


「…………失言でした。あの顔でゾッコンラブだなんて未だにちょっと疑ってます」


「だよな! でも行動と言動はマジもんなんだよなぁ……――、でもなくて」


「センパイもしつこいですね、話がそれなら教室に戻っても良いですか?」


「しつこく話を反らしてるのは愛衣ちゃんだろ」


「はぁ? わたしのどこが――」


「――英雄の事、まだ好きなんだろ」


「ッ!? い、いきなり何を」


「ほら動揺した。っていうか色ボケしてる脇部と這寄さんは騙せても、俺は騙されねぇって」


 エテ公はむすっとした顔で、呆れた様にため息。

 彼は栄一郎より英雄と出会ったのが遅いとはいえ、中学時代からつるんでいるのだ。

 自然と、英雄を追い回していた愛衣の事も知るようになる。


「お前さ、三年……今年で四年目だっけか? それだけの間、脇部を狙っててさ。這寄さんとくっついた途端、俺に惚れる? いくら機会があったてよ。そんな器用な女の子だったっけ?」


「そう言うコト言うから、越前センパイはモテないんじゃないんですか?」


「ははっ、悪いな。俺に言い寄ってくる女の子って、みんな何かに利用しようとしてる奴ばっかでさ」


「うわ、この年でもう女運悪いとか言うんですか?」


「そんな事言うには似合わないツラだって? それぐらい自覚してるってーの。栄一郎がいるから英雄も俺もフツメンなのに、余計に三枚目扱いだからな」


「その三枚目を好きになったって子が目の前に居るかもしれませんよ?」


「冗談キツいぜ? 俺の知ってる愛衣ちゃんってのはな。――最初はムリヤリ英雄を好きになろうとして、段々と本気になって言っちゃうような不器用な子だ」


「……ホント、それだからモテないんですよ越前センパイ」


「もう一つ言わせて貰うけどな。――いったい誰がお前の恋愛相談に乗ってやって、ラブレターに使う便箋まで面倒見てやったんだ?」


「うっ、それを言い出しますか今っ!」


「いや、今だから言うんだろ?」


「まあ、あのラブレターが同棲騒動に繋がったって聞いた時は、あちゃーって思ったけどさ。一年以上恋愛相談に乗った俺が! 今更俺に恋したとか信じるわけないだろ! 言え! 何を企んでるんだ!」


「企むってセンパイ……、フィリア先輩じゃないんだからそんな事」


「おい、英雄に憧れてる一年を口説けとか言った事は忘れてないぞ?」


「越前先輩ったら、そんな前からフィリア先輩の手下だったんです?」


「お前が言ったんだよっ! そして俺はお前にゲンコツした! もう一回するかバカオンナっ!!」


「ああっ! 禁句ですよその言葉っ! 最近言わなくなったから忘れたと思ってたのにっ!?」


「いや、美少女の言葉だぞ? 忘れる訳ねーじゃん」


 さらりと出された口説き文句の様な言葉に、愛衣は複雑な表情で天魔を見るが。

 当の彼は、ハテナマークを頭上に浮かべ気づく様子は無い。

 彼女はため息を一つ、のうのうと言い放った。


「じゃあこうしましょう、少女マンガで良くある展開です。――恋愛相談に乗って貰ったが、残念にもフラれてしまい。その瞬間、そんなにショックじゃない事に気づいてしまって」


「その恋愛相手が本当に好きな相手だったってか?」


「ご名答、ええ、わたしの本当に好きな人は越前センパイ……、いいえ、天魔さんだったのです!」


「はい、異議あり」


「ええぇー、そんなあっさり否定しなくても」


「いや否定するだろ」


「どうしてです?」


「どうしてって……、おい、まさか気づいてねぇの? …………マジか」


「そんな天井見上げて、何なんですか」


「あーと、そうだなぁ。今日ってば雨だろ?」


「いえ、晴天ですが?」


「馬鹿、んでもって寒いだろ? ……声が震えるくらいにさ」


「…………ばか。だからモテないんですよ」


 気づけば愛衣の声は震え、頬を伝うは大粒の涙。

 敬愛する兄にも、友達にも、誰にも言えずに封印してきた胸の痛みが。


 か細く鳴き声をあげる愛衣の手を、天魔は優しく握った。

 抱きしめたりはしない、それは英雄だって持ち合わせていない権利だ。


 やがて授業開始の鐘が鳴ったが、天魔は泣き続ける彼女の側に居続けて。

 繋いだ手はそのままに、愛衣は未だ震える声で言葉を紡いだ。


「すき、だったんです」


「ああ、良く知ってる」


「ずっと、……ずっと好きだったんです」


「側で見てた」


「最初は、嫌い、だったんです」


「……ご両親と前は仲が悪かったんだっけな」


「仲が悪い、というよりあっちが興味無かったんです。……もっとも、今では誤解だったって分かってます」


「それを脇部が助けた」


「はい、多分。初恋だったんです、英雄センパイはあの時からわたしのヒーローで、英雄センパイなら何でも解決してくれるって。……兄さんを助けてくれるって」


 兄さんを助けて、その台詞はこれまでに何度も聞いていたが。

 天魔は今回も深くは聞かなかった。

 栄一郎本人が何も言わないし、彼が助けを求めている様には見えなかったからだ。


「だから、脇部を好きになろうとした?」


「英雄センパイは優しいから、兄さんが助けを求めなくても、恋人になったらわたしの悩みなら解決してくれると思ったんです。――打算、だったんです」


「最初はな」


「はい、知れば知る程、好きになって。でも気づけばどうやって接して良いか分からなくなってて」


「見透かされてたしな」


「もっと英雄センパイが朴念仁だったら良かったのに、そしたら嘘を本当にして……」


「アイツはきっと、最初から見抜いてて愛衣ちゃんを恋愛対象から外していたんだろうな」


「ですね、わたしへの態度は一貫して。兄さんの妹って扱いでした。――――でも、好きだったんです。本気で、好きになってしまっていたんです」


 涙をこぼす彼女に、天魔は何と言って慰めていいか分からなかった。


 もっと良い出会いがある? ――そんなもの、慰めにすらならない。彼女を傷つける言葉の刃だ。


 英雄を諦めるな? ――馬鹿馬鹿しく無責任な言葉だ、たとえあの二人が喧嘩して距離を置いたとして。もう英雄は彼女を諦めないし、彼女しか見ていないだろう。


 だから。


「…………泣き終わるまでは、ここに居る」


「優しかったんですね、天魔くんは」


「今更気づいたのか? というかもう好きなフリすんの止めようぜ。――俺が勘違いして惚れちまうからな!」


「ふふっ、優しい天魔くんだから。わたしは恋愛相談したんです。――ええ、わたしは狡い女の子なんです。フィリア先輩の様な全てを賭ける覚悟も無くて、英雄センパイの好意に甘えて。今も天魔くんの好意に甘えています」


「今後甘えるのは俺ぐらいにしとけ、特に英雄は止めとけな。這寄さんがまた暴走しかねん」


「ええ、そうします」


 すると、愛衣は天魔の手を自分の胸に導いて。

 そのままポスンと彼の胸に倒れ込む。


「お、おいっ!?」


「甘えさせてくれるって、言いましたよね」


「言ったけどさぁ」


「言質は取りましたよ。それで何ですけど。……もう一つ、良いですか?」


「ぐっ、上目遣いで言うの反則だぞ」


「――もう少し、天魔くんを好きなフリで居させてください。わたしきっと、本当に好きになるので。もう少しだけ、天魔くんを好きなわたしで、胸に空いた穴を塞がせてください…………」


 それは、普通の男子なら迷わず頷くシーンであった。

 だが相手は英雄では無いが、恋愛相談相手だった越前天魔、ともすれば学校イチ女運が悪い男。

 愛衣の裏に、何か思惑がある事などお見通しである。


「いや、お前ホントに狡い女の子だな? 何を企んでやがるんだっ!?」


「えー、こんな可愛い女の子が好きなフリするんですよ? 素直にイエスって言っても良いじゃないですか」


「こっちも何となく察してるんだからな? お前、脇部にやらせようとしてた栄一郎のコト、俺に頼む算段だろう」


「分かりますか」


「分からいでか」


「ちぇっ、じゃあ言っちゃいますけどね。――兄さんと婚約者を別れさせるのに協力してください! そうじゃないと心配で心配で、真剣に恋が出来ないんですっ!!」


「それ、もしかして脇部は栄一郎に付いたな?」


「はい」


「じゃあ俺も栄一郎につく!」


「そんなっ! 後生でーすーかーらーっ!!」


「ええい揺さぶるなっ! 目が回るっ! ああっ、俺の制服で涙を拭くんじゃねぇっ!?」


「デート一回! いえ、二回もデートしてあげます! だから協力してくださいよ!!」


「ああもうっ! 分かった! でも条件があるぞっ!!」


「何て外道……っ! わたしの足下を見るなんて!」


「帰る」


「嘘です嘘っ! 愛衣ちゃんジョーク! 可愛いジョークです天魔くん!」


「ったく……。じゃあちゃんと条件飲めよな?」


「はい、何でも言ってください! デート料金は天魔くん価格で一時間千円からにしておきます!」


「ちょっと栄一郎に言いつけてくるわ」


「ジョークですジョークなんですっ! ちょっと失恋を冗句で誤魔化す健気なアテクシを演出したかっただけなんですっ!!」


「…………お前、そう言う素を出した方が英雄の気を引けたんじゃないか?」


「馬鹿言わないでくださいっ! 英雄センパイにそんなみっともない面なんて見せれませんよ!!」


「ああ、だから這寄さんは英雄を落とせたんだなぁ……」


「言わないでくださいっ! 結構後悔してるんですっ!!」


 天魔のお腹に抱きついて、半泣きで縋りつく残念美少女の姿に。

 彼はとてもとても可哀想な子を見る瞳で。


「はいはい。哀れな愛衣ちゃんや、俺からの条件は三つ」


「いつでもどうぞ」


「一つ、股間に響いたから天魔くん呼びは続けろ」


「うわ、最低……」


「一つ、デートは一回で良い、割り勘だ」


「その心は?」


「美少女とデートはしたいが、一回以上は俺がマジで勘違いする」


「成程、では三つ目は?」


「三つ目は……、もう誰かを打算で好きになるな。自分の心に嘘ついて、見抜ける奴は見抜くんだ。それで痛い目見たろ? 次に好きになる時には、素の自分を出せる奴で、打算抜きに好きになれ」


「…………センパイって」


「何だよ、そんな変な顔して。つか泣きすぎ。目の回りとか頬まで赤くなってるじゃねぇか」


「……………………そんなんだからモテないんですよ?」


「分かってるわいっ!!」


 キャシャーと吠える天魔に、愛衣は微笑んで小指を出した。


「その条件で合意します、だから指切りしましょ」


「指切り必要か?」


「はい、必要です!」


「あいよ……指切りげんまん」


「兄さんの恋人兼婚約者である、跡野茉莉という女狐を別れさせるのに協力しなかったら、包丁持って刺しに行きます! 指切った!」


「……………………――――うん? 今なんて?」


「天魔くん達の担任である、跡野茉莉と兄さんを別れさせるのに協力しなかったら殺すって、ちゃんと言いましたよね?」


「き」


「き?」


「聞いてねぇぞ栄一郎ううううううううううううう!! というか脇部ぇ! お前コレ知ってて味方してるんかいっ! 人生エンジョイ勢も大概にしろよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 越前天魔は、盛大に頭を抱えた。



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[一言] おぉエテ公カッコいいぞ
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