第40話 熟練夫婦は犬も食わない
※2010/01/05
この話を飛ばしているのに、今更ながら気づきました。
大変申し訳ない。
その日、珍しく二人は学食であった。
となれば、栄一郎がお邪魔しついでにエテ公も、そしていつの間にやら愛衣が合流。
英雄とフィリアは仲良くカレーを頼んだのだが。
「はい」「うむ」
「おお、これはまさしく熟練夫婦のワザでおじゃ……」
「ご結婚は何時で?」
「羨ましいです。ところで越前センパイ、ああいう夫婦的なやつって憧れませんか?」
「憧れるっちゃあ憧れるけどなぁ、俺にはイマイチ遠い感じがするね」
「っていうかさ、いきなり何だいみんな?」
「そうだ、私たちが何かしたか?」
「今まさにやってる事でゴザルよ」
「今まさに? ……何か特別な事ってしてたっけ?」
「ふむ、……醤油を取って渡しただけだな」
「ソースを取って上げて」
「ついでに福神漬けも貰ったな」「あげたね」
「言葉にしてみれば、それだけの事でおじゃるが……」
「お前ら、何一つ言わずにさ」
「アイコンタクト一つ無かったですよね? なんかもう同棲一ヶ月の熱々カップルっていうよりか」
「熟練夫婦でゴザル」
「それは嬉しいね、僕ってばフィリアの事を分かって上げられてるんだって」
「確かに、私はそれ程までに英雄を理解していたのか。それは嬉しい事だ」
二人仲良く頷く光景に、栄一郎達もカレーを食べてる筈なのに口の中が甘い。
「エテ公、ちょっとハバネロ持ってないでゴザルか? 拙者ちと口の中が砂糖だらけで」
「奇遇だな、俺も口の中がサッカリンだらけだ」
「サッカリンって何です?」
「あれ? 知らない? 人工甘味料なんだけど」
「いや、むしろ何故。君たちがそんなもの知っているか不思議なのだが」
「ああそうか、あのゲームが流行ったのは男子だけでおじゃったからにゃあ」
「アニキが持ってた古いゲームだったけど、中々楽しかったよな」
「一年前だっけ? ソフトはエテ公で本体は僕が持ち寄って学校でやってたよね」
「何回、お腹を刺されて。何回、男同士でエッチな雰囲気になったでおじゃったか……」
「一つのセーブデータでみんな好き勝手プレイしてたからねぇ、デートばっかりしてたら仲間がバタバタ死んでいったよねぇ……」
「聞いているだけで意味不明なゲームなんだが、いったい何のゲームなんだ?」
「あー、ほら。巨人が進撃するマンガあるでしょ? あれの元ネタの元ネタとか言われてるやつ」
「いえ英雄センパイ、さっぱり分からないです」
「ダメでゴザルよ英雄殿、あれはあくまでゲーム。第六世界にエールを送る魔法の儀式…………で良かったでゴザル?」
「いや、普通に異世界からの侵略者を倒すときメモ戦争シミュレーションでいいんじゃね?」
「ますます分からん」
「あ、じゃあ家に帰ったらプレイする?」
「越前センパイ! 興味出てきたんで、一緒にやってくれませんか?」
「何で俺に頼むんだ? フィリアに英雄が取られたからって当てつけは良くないぜ」
「とカッコつけてるエテ公でおじゃったが、内心は?」
「何はともあれ美少女のお誘いだヤッホー!!」
「良かったな愛衣」「良かったね愛衣ちゃん」「なあ愛衣、お兄ちゃん考え直すべきだと思うでゴザルが?」
「えへへっ、言質取りましたからねーー」
等と、カレーを食べながらゲームの話をしたり、愛衣がエテ公にモーションをかけていた昼休みであったが。
食べ終わり食器を片づけ、さて残り時間はどうしようと思案を始めた時だった。
「ところで英雄殿、さっきは這寄女史を理解したとか言ってござったが…………ホントに理解してるでにゃ?」
「それ、フィリア先輩にも聞きたいですね。英雄センパイの事、本当に理解しています?」
「お、これは面白くなりそうな予感」
「エテ公? 君もいずれコッチ側……になるのかな?」
「五分五分でござろうなぁ……して、お二人さん。これからちょっと余興と洒落込もうではござらんか?」
「勿体ぶった言い方をするな机兄、――何をすればいい? 私が英雄を理解している所を見せつけてやろう!」
「良いね! やるやるぅ! 何すれば良いの!」
「簡単でゴザル、片方づつ相手にアイコンタクト無し、言葉無しで、意志を伝えるでおじゃ」
「ジェスチャーも禁止ですよセンパイ方」
「題して、熟練夫婦ゲームってトコかな?」
「ナイスネーミングだよエテ公!」「そうでおじゃ?」「そうだな!」「そうですかねぇ?」
ともあれ、ゲームは始まった。
それに気づいたクラスメイトや知人が周りと取り囲むが、ギャラリーが多いほどゲームは盛り上がると言うものだ。
「では解説は我輩、大心友の机栄一郎と」
「実況は越前天魔こと、学校イチのナイスガイ・エテ公でお送りするぜ」
「兄さん、越前センパイ、あとでマイク代わりのスプーンは自分で返してくださいね」
「厳しい妹を持って、机も心強いでしょう。でもこの対決は英雄と這寄さん」
「このバカップルが真にバカップルなのか、試される時が来たのでゴザル」
「で? もう始めて良い?」
「どうぞどうぞ」「先行は英雄殿! さあ、なにを言わんとするでおじゃ!」
「じゃあ行くよ、――――。わかった?」
「おい栄一郎、けっこう地味だぞコレ?」「無言でジェスチャー無しでゴザルからなぁ」
「それで、フィリア先輩。英雄センパイは何を?」
「…………今のは、キスして良い? だ!」
「おお! よく分かったね!」
「では私の番だ。…………。分かったか?」
「くっ、無言を良いことに。なんて破廉恥な事を言うんだいフィリアっ!? こんな公衆の面前でさっ! どうせ途中でヘタれる癖にっ!!」
「おいエテ公、今の分かったでゴザル?」「いや、さっぱりだ」
「ふふ、流石は英雄だな」
「本当に合ってるんですか?」
「では僕の番だ、…………。分かったかい?」
「はぁっ!? 何を考えているのだ君はっ! 教頭先生のカツラを取ってこいだなどとっ!!」
「いや、ちょっと待とうお二人とも?」「高度過ぎて拙者達にはさっぱりでゴザル」
「二人だけで分かり合ってないで、説明してくださいよ」
「実況と解説は二人だよね? 分かんないの?」
「我々のラブラブぶりの勝利という事だな!」
「説明を要求するでゴザルっ!?」「そうだそうだ!」「せーつーめいっ!」
三人のコールに、ギャラリーも頷いて。
英雄は仕方なしに説明する。
「ほら見て、今のフィリアとさっきのフィリアは違うでしょ。はい、さっきのして」
「わかった。――。どうだ、わかりやすいだろう?」
「いつもの様な仏頂面でおじゃっ!?」「クールな眼差しがピクリとも動いてなかったな」「フィリア先輩、表情筋死んでません?」
「ははっ、まだまだだねみんな。確かに普段のフィリアは表情筋が死んでるけどさ」
「おい英雄、帰ったら話し合うぞ?」
「こう、雰囲気で分からない? キスして欲しいとか、手を繋いで欲しいとか、ポテチ欲しいとかさ」
皆はフィリアの顔を凝視したが、そこにあるのは普段と変わらぬ鉄面皮。
「むぅ、どうして分かんないかなぁ……こんなにわかりやすいのに。はいフィリア、キスして欲しい感じして」
「――。どうだ?」
「ね、簡単でしょ?」
「瞼が一ミリも動いてなかったでおじゃっ!?」「唇も動いてなかったな?」「というか全体的に微動だにしなかったですよね?」
「えー、ビビッとこない?」
「流石は英雄だな、良し頭を貸せ、イイコイイコしてやろう」
「それじゃあ、僕は君をだっこしてギューしちゃう!」
「はい解散!」「バカップルテロだ!」「あ、わたし授業の準備するんで教室戻りますね」
「英雄……君はなんて良い男なんだ」
「フィリア、君ってばこの世で最高の女の子だよね」
ラブラブし始めた二人に、ギャラリー共々栄一郎たちは解散。
二人は時を忘れてイチャつき、探しに来た跡野茉莉(栄一郎と秘密の同棲中)の拳骨を仲良く頭に落とされたのであった。




