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第34話 初めてのチュウ



 愛衣が訪問してから数日、エテ公と会話している度に彼女が現れるという現象にも慣れた頃。

 英雄としては、スルー出来ない事が起こった。

 そう、原因は栄一郎である。

 普段は妙な言葉遣いでノリの良い親友が、常に頬杖をつき色気のあるため息。

 声をかけても生返事、おまけに一人称は常に俺。

 そして……。


「なあ英雄、知ってるか? 女の唇って柔らかいんだぜ?」


「そりゃあ、僕にはフィリアが居るから知ってるけどさ。何回目だいその言葉」


「今の俺は、何度でも言いたい気分なんだ。うへ、えへへへへ」


「栄一郎ってばイケメンで、もし僕が女の子だったら惚れてたかもって思った事もあるけど」


「へぇ、そりゃ光栄だな」


「光栄なの? とにかくさ、今の顔って結構酷いよ? 常にデレデレして眉尻下がってさ、鼻の下だって伸びてる」


「そうかぁ、ははっ、そうかもなぁ。いつもなら言い返すかもしれないが、今の俺は心が広い。この幸せを知る同士である英雄になら、何を言われても構わない…………はぁ、俺は幸せさぁ」


「うーん、重傷だねコレ。恋の病だって誰が見ても分かるけど。草津の湯でも治らないっていうからなぁ。――ああ、愛衣ちゃんが来たのもこの所為か」


「愛衣か? アイツもなぁ、いい加減に諦めて理解の一つでも示してくれれば良いのに」


「栄一郎は愛衣ちゃんの事を、ちゃんと見つめ直すべきじゃないかな? 今、彼女がご執心なのは何か知ってる?」


「いいや? お前の靴の臭いでも嗅いでるんじゃないのか?」


「ちょっと情報が古いみたいだね」


「まあな、俺は今。家から出て暮らしているから。――エヘヘヘヘェ」


「きしょい」


「良いんだ。アイツさえ俺を見ててくれれば、それで」


 重傷にも程がある。

 今の会話も視線を合わさず、栄一郎は黒板の方向。

 正確に言えば、教卓辺りに注がれている気がしたが。

 生憎と、教卓の前は男子生徒の席だ。

 誰が相手かさっぱり掴めない。


「ところで栄一郎、キスに浮かれてるみたいだけど。君ってば童貞卒業したとかダイブ前に言ってたよね。しかも、さんざん熟女と熱い夜を過ごしてるとか聞いたし」


「ああ、そうだな。――ちょっとコッチに。お前には話しておく」


「カーテンの裏に隠れて? 僕、そう言うのはフィリアとしたいんだけど?」


「そういうのはまた今度頼め、お前の頼みなら断らないだろ」


「そうだね、ちょっと憧れてたんだ………………顔近くない? 近くない?」


「二度も言うな、あまり他の奴には聞かれたくない話しだからな」


「それなら、放課後に買い食いしながらとかでも良くない?」


「ダメだ、今の浮ついた気分の時じゃないと。勇気が出なくて話しそびれる」


「君が浮ついてる自覚あったんだ、とか。勇気が居る話しなの? って思ったけど。さあどうぞ。わくわくするね! 僕、こういうの大好きさ!」


「実は俺もだ」


「わお、初めて聞いたよ」


「そうでなきゃ、お前とツルんでいないって。――で、話なんだがな。あー、何処から話したものか」


「取り敢えず、同棲関係からで」


「了解だ。相手は三十代半ばで、俺がガキの頃から面倒みてくれたショタ趣味があったヤンキーっぽい美人のお姉さんだ」


「なるほど、続けて」


「童貞卒業もガキの頃で、――実際には卒業というより食われたって感じだったが」


「地味に聞きたくない感じだけど、続けて?」


「まあ、俺としては。もう運命の人って感じでな。ずっとアタックし続けたんだ」


「事あることに熟女とか言ってたのは、もしかしてその人の年齢に合わせてた?」


「そうだ、ナンパどうこう言ってたが。スケジュール手帳を盗み見て、先回りして偶然装って口説いてた」


「…………つまり、相手は一人だと」


「ああ、そうだ。――お前には感謝してる、這寄と同棲したお陰で俺もそれを口実にして同棲に持ち込めた」


「うーん、ちょっと待って? 少し考えを整理するから」


 栄一郎は何故、浮かれてたのか。

 それは件の同棲相手とのキスで、だ。

 つまり、長いこと肉体関係はあれど恋人ではなく。

 むしろ、栄一郎が無理矢理迫っていた可能性も出てきている訳で。


「………………なぁるほどぉ? 愛衣ちゃんが僕にさせたかったのって。栄一郎と、謎の同棲相手を別れさせる為だね?」


「その件については、本当に申し訳ないと思ってる。両親との仲を修復してくれただけじゃなく、愛衣の不満の捌け口にまで押しつけてしまっていたからな」


「今度、新作のポテチが出たら栄一郎のおごりだよ。そして二人で食べながらゲームするんだ。それぐらいはしてよね」


「お前が親友で、俺は今、泣きたいぐらい嬉しい」


「さあ、親友である僕の胸の中でお泣き。何があっても僕は栄一郎の味方さ――――……ってっ!? マジで泣くのっ!? 鼻水付けないで」


「もう少し、このままで」


「僕としては、フィリアに言って貰いたいんだけどさ。今日ばかりは許そう」


 このまま授業が始まるまで、胸を貸すのも青春の一幕。

 そう英雄が微笑んだ瞬間であった。


「英雄が許しても――――、この私が許すものか! ええい正体を見たぞ机! やはり熟女はフェイクで英雄を狙っていたか貴様っ!?」


「フィリアっ!? 聞いてたの!?」


「聞いてはいないが、泣き声すれば気になる! ――そうだろう皆!」


 彼女がカーテンを開けると、クラス中の視線が栄一郎と英雄に。

 男子の半分は生温かく、残りは一歩後ろに下がってお尻を隠し。

 女子の一部は興奮してスケッチブックを取り出し、残りは生暖かく。

 そんな中、おずおずとエテ公が近づいて。


「なあお二人さん、大変申し訳ないが。熱い友情のシーンをぶち壊して本当に申し訳ないんだが…………熟女好きがフェイクで男が好きってマジか?」


「本当にぶち壊しだけど。――安心して、これは本当にただの友情。みんなは知らないけどさ、栄一郎ってば意外と涙もろいんだよ」


「あ、ああ。それなら良いんだ、邪魔してすまない」


「だが私は邪魔をするぞ! その言葉が本当だとしても、何か事情があるのかもしれないが! ~~~~っ、英雄の胸は私の物だ!」


「いや、僕の胸は僕の物だからね? 貸す相手も僕が選ぶ」


「……なぁ、借りてる身分で言うのも何だが。お前って自分の彼女にも結構セメントだよな」


「セメントにもなるでしょ。まあ、僕としても涙めで制服の袖をちょんちょんって引っ張って、おずおずと上目遣いの無言のアピールしてくれたら。栄一郎を放り出して抱きしめるけどさ」


「しまったっ!! その手があったのかっ!! リテイク! やり直しを要求する!」


「はっ、ダメだな這寄。今日の所は俺たちの友情に、お前の女子力が敗北したんだ! 大人しく引き下がれ! 英雄は俺のものだ!」


「男に顔ぐりぐりされても、全然嬉しくないんだけど?」


「それは私だけのなのにっ!! こうなれば力付くで引き剥がす!」


「おーい、テメェら席につけー。午後の授業が始まるぞ」


「あ、茉莉センセ! 助けて! 親友と僕の女が僕を巡って争うんだ! センセの胸で慰めて!」


「あ、英雄テメェ! それをやったら戦争だろうがよっ!!」


「ほほう、良い度胸だ英雄。家に帰ったら君ののり塩ポテチを全部食べてやるからな!」


「それをやったら戦争だよフィリアっ!?」


「アタシの周りで喧嘩するんじゃない! このバカ野郎共がっ!! ――っ!? こら脇部! 這寄が怖いからって後ろに隠れるな!」


「英雄、俺を怒らせないウチに茉莉から離れような?」


「栄一郎、いくら頭に血が上ってるからってセンセイを呼び捨てにしちゃダメだよ? というか何で怒ってるのさ」


「英雄、私の堪忍袋の尾が切れないウチに。この胸に飛び込むのだ。い、いまならっ!? お尻を触ってもっ~~~~、い、良い事にすりゅ!」


「はい英雄くん離れたよ、さあフィリア――」


「教師の目の前で、堂々とイチャつくな! そしてアタシを抱きしめるんじゃねぇ机栄一郎! オマエら全員後ろでバケツ持って立ってろおおおおおお!!」


 そして、三人なか良くバケツを持って授業を受ける中。

 英雄は疑問に思っていた事を聞いた。


「ところで栄一郎、恋人になって初めてのキスはどうだった?」


「今聞くか? まぁ、長年の夢が叶って幸せって感じだな。一生をかけて彼女を守り幸せにする覚悟をした」


「テメェら堂々と雑談とは良い度胸だ! 脇部だけ座ってよし!」


「よっしゃ!」「ふむ、なるほど?」「なんでだっ!?」


 その後、フィリアは首尾良く座る許可を得て。

 結局、栄一郎は跡野茉莉にずっと睨まれながら一人で立って授業を受けた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しそうな学校だなぁ~ こんな学校に行きたか… やっぱいいかw [一言] 卒業早かったんだな… うらやm…しくなんてないんだからね!!
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