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第32話 ネズミの王国



 昼休みの事である。

 話題になると言えば、クリスマスに大晦日に――つまりは冬休み。

 今日の英雄は、栄一郎とだらだらダベり。


「そういえば、エテ公は今回も赤点だらけで冬休みは補習漬けらしいでおじゃるよ」


「マジで? 可哀想だけど自業自得だね。その点、僕なんかは全教科平均点以上っていう、僕史上最高の出来なんだけどね!」


「おーおー、這寄女史に毎晩勉強見て貰ってるお陰で、赤点逃れた奴がよく言うでゴザルな」


「へへっ、フィリア様々だね。いやー、僕も優秀なカノジョが居て鼻が高い」


「そう言うなら、都合の良いオンナからカノジョに格上げしたらどうにゃ?」


「それとこれとは別の問題だね、もうちょっと上手く手綱を締める事が出来たらって感じ?」


「これまた上から目線でおじゃ、――ゆめゆめ、油断めされるなよ英雄殿。ミイラ取りがミイラになるでおじゃるよ」


「…………わりとそれが怖いんだよね、何たって暴走する所を除けば、顔良し、体良し、性格良し、料理上手で掃除洗濯もばっちりなんだ」


「おまけに、ゲームにも付き合ってくれると? モゲるでおじゃ英雄殿!」


「美人な年上の人と同棲してると噂の栄一郎は、言うことが違うなぁ」


「何で知ってるでおじゃっ!?」


「未来さんが茉莉センセと話してるの、聞いちゃった。――という事はだ、茉莉センセなら黙っててくれるだろうけどさ、学校側にバレたら大変だよ?」


「そっくりそのまま返すでおじゃ」


「そこだよね、もしバレても何とかする自信はあるけど。問題にならないのが一番だし」


「ちなみに聞いても良いにゃ?」


「何が?」


「英雄殿の同棲は、学校側は何処まで把握してるでおじゃ?」


「ああ、あんな騒動起こしちゃったしね。取り敢えず両親公認って事で、親父達に頼んで校長センセと教頭センセには根回ししておいた」


「根回し万全でおじゃっ!? ガチじゃないか英雄殿っ!?」


「ふふっ、こういうのは正攻法が一番だって、フィリアが言ってた」


「ああ、這寄女史の案でおじゃったか…………いや、待つにゃ。外堀を埋められてるでゴザルよっ!?」


「だよね。もしかしたら発覚してないだけで、これまでにも沢山あるかもしれないのが怖い」


「…………迂闊にカノジョに格上げ出来ないでゴザルな」


 顔を見合わせた二人は、何とも言えない顔で半笑い。

 いつかは解決しないといけない問題だが、今はその時では無い。


「話題を変えよう!」


「そうでおじゃ! ならば――冬休みの話なんてどうでゴザろう?」


「お、良いねえ。今年も何処かに遊びに行く?」


「拙者、幾ら仲が良くても。ネズミの王国や富士山の遊園地はこりごりでおじゃ……」


「一昨年のネズミは散々だったね……、クリスマスイブに行くもんじゃないね」


「去年の大晦日に行った、富士山遊園地も大変だったでおじゃ」


「栄一郎のナンパで!」「愛衣のナンパで!」


「…………あれ? 栄一郎ってば自覚なかった?」


「いやいやいや? 愛衣の方が酷かったでおじゃろうっ!? 拙者などは可愛いものだったでゴザル」


「待って、ちゃんと思いだそう? 確かに愛衣ちゃんは酷かった。なまじ美人さんだから、ナンパがウヨウヨ寄ってきて、遂には芸能スカウトまで寄ってきてたけどさ」


「あの時は拙者もスカウトされて大変でだったにゃ…………、あ、でも英雄殿もスカウトされてなかったでゴザルよ?」


「見てたの? アレは酷かった……、僕もついに芸能界入りかって思ったら。二人のマネージャーとしてって言われたからね」


「英雄殿がマネージャー……、それなら我輩。ちょっと考えてしまうでおじゃ」


「いや、二人が芸能人で僕マネージャーとか。楽しそうだけど、エンジョイするには不満だね」


「そういうモノでゴザルか? 案外似合ってそうでにゃあが」


「ま、僕の事は良いさ。問題は栄一郎、君だよ?」


「拙者、何かしたでゴザル?」


「したよね? 目を離した隙にさ、人妻やら熟女やらをナンパしまくってたじゃないかっ!! 僕が愛衣ちゃんガードするの、どれだけ大変だったか!!」


「そうだ、机。仲が良いとはいえ、英雄に迷惑をかけるものではない」


「あ、フィリアどしたの? というか、君が言う言葉じゃないよね?」


「まあそう言うな、この男の問題行動は私にも一言あるのだ」


「ほう、言ってみるでおじゃ這寄女史」


「では言うぞ。一昨年のネズミの国では十回、富士山の遊園地では十二回、――何か分かるか?」


「はい! トイレに行った回数!」


「違う」


「はい! 愛衣がナンパされた回数にゃ!」


「違う」


「正解は――」「越後製菓!」「それCMでおじゃ!?」


「茶化すな英雄。正解はな……、この男がナンパしに行った回数だ」


「マジでっ!? そんなに多かったのっ!?」


「というか、何で知っているでおじゃ?」


 その疑問に、英雄もハッとフィリアを凝視。

 もしかして、もしかして。


「なんだその視線は? 私が何かしたか?」


「フィリア? そういえば君ってば僕の事、ストーキングしてたよね?」


「我輩達、見張られてたでおじゃ!?」


「それはイエスであり、ノーだ」


「もうちょい詳しくどうぞ?」


「…………実はな、偶然を装って合流しようと目論んでいたのだが」


「去年はともかく、一昨年は偶然あっても初対面扱いだね」


「そこだ、一昨年はそれで断られるのが怖くてな」


「純情でおじゃ、けどその行動力があるなら強引に行って…………、いや、その結果があの騒動でゴザったか」


「イイネ! 栄一郎にはフィリア検定二級をあげよう!」


「要らないでゴザル。では這寄女史、昨年は?」


「英雄を机兄妹とセットでアイドルデビューを企む者が居たからな、少し圧力をかけるのに手間取ったのだ」


「うーん? それってマネージャーの話?」


「あのスカウトマンは強情だった……、マネージャーは建前で、アイドルは無理でも机とコンビ芸人として売りだそうと考えていたからな。諦めさせるのに時間がかかったのだ」


「それは英断だったでおじゃ、英雄殿なら食いつきそうな話でゴザル」


「君たち、僕を何だと思ってるの? そんなの直ぐに飛びつくに決まってるじゃん!!」


「ダメだ! 君が芸能人など、たとえピン芸人だとしても私が許さん!!」


「その心は何でおじゃ?」


「英雄の魅力は私だけが、知っていれば良いのだ!! 不特定多数の者に分け与えてたまるかっ!!」


「嬉しいけど、嬉しくないような……」


「愛されてるでゴザルな……、さらば幻のコンビ芸人『ヒーローデスク』」


「何それっ!? 今からでも芸人養成所、一緒に通わない英一郎! お笑い界で天下取ろうよ!」


「英雄殿となら、どこまでも着いていくでゴザル!! でも拙者イケメンだから人気一人占めしてすまないでおじゃ!」


「くっ、男は顔だけじゃない! 僕だって芸を磨いて売れっこになってやる!」


「おい、私の話を聞いていたか? 泣いてしまうぞ私は」


「ははっ、メンゴメンゴ。そう言うのも面白そうだけどさ、フィリアとの時間も大事だからね。将来の事は大学に入ったら考えるさ」


「それは手遅れだと思うでゴザルが……、いや、拙者の勝手な思いこみで英雄殿を混乱させたくないにゃ」


 下手をしたら、高校卒業前に結婚。

 大学卒業したら這寄一族の関連企業に就職が決まってそうな英雄の未来が、栄一郎は考えるまでも無く思い浮かんだが。

 他人の恋路の邪魔をする者は馬に蹴られると、当人が助けを求めるまで静観の構え。


「え、何さ栄一郎。その生温かい視線は」


「気のせいでゴザル」


「そう? ――あ、そうだフィリア。今年の年末は何処に遊びに行くって話なんだけどさ」


「大晦日と正月三が日はダメだぞ、私の両親と会って貰うからな」


「…………それってもしかして、僕の両親も呼んである?」


「勿論だ、君のご両親を仲間外れにするつもりは無い」


「堂々と外堀を埋めてるでゴザルなぁ……」


「まー、一応今回は不問かなぁ。近い内にって思ってたし」


 ため息を吐き出す男子二人に、フィリアは首を傾げて。


「それで、だ。私にプランがあるのだが」


「この流れで言うでゴザルかぁ」


「何か不安だけどさ、取り敢えず言ってみてよ」


「クリスマスイブだがな、ネズミの国を貸し切りに――」


「はいストップ! そこまで! しゅーりょー!」


「何故だっ!?」


「英雄殿じゃなくても分かるでおじゃ、やり過ぎでゴザルよ這寄女史ィ」


「む? では富士山の遊園地はどうだ?」


「貸し切りはダメだよ?」


「では、カップル専用デーにする圧力を……」


「反省しよ?」


「あ、英雄殿のマジトーン」


「ぐぬぬっ、ではどうすれば良いのだっ!! 私の誕生日でもあるんだ! ロマンチックにしたいじゃないか!!」


「気持ちは分かるけど、……僕の言いたい事は分かってるでしょ? でないと英雄くんポイント没収するよ?」


「クリスマスイブと皆で遊びに行く予定は君に任せた」


「はい、良く出来ました! ご褒美に僕の膝にご案内~~」


「え、いきなりイチャつくでおじゃっ!?」


「では遠慮無く」


「よしよし、この調子で少しずつ前進しようね」


「はわわっ!? 英雄殿ったらダイターン! 公衆の面前で髪にキスするでゴザルかっ!! 羨まけしからんモゲロ!」


 イチャつく二人は、周囲の視線も声もなんのその。

 今日午後イチの授業担当、跡野茉莉がやってきて拳骨を落とすまで。

 クラスメイトは全員、砂糖を吐き出すはめになった。

 ついでに言うと、遊ぶ予定は決まらず未定であった。



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