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第27話 知ってるだろ



 時は、英雄が目覚める前に遡る。

 親友が誘拐された栄一郎は、迅速に行動した。

 一つは担任教師、跡野茉莉から聞き出した情報から割り出した範囲の捜索。

 一つはヘリの向かった方向へ、人海戦術で聞き込みと追跡。


「『こちら焼け跡捜索班リーダー越前、捜索は難航している!』」


「了解、エテ公はすまんがそのまま続行してくれ。もしかしたら地下かもしれない、こっちからスコップ持たせた増援を送るにゃ!」


「『オーケー、続行する』」


「『こちらヘリ追跡班Bリーダー、伊良部だ。どうやら途中でもう一機合流したらしく、情報が錯綜している!』」


「わかった、C班……は駄目だな。D班の剣道部が行く! 彼らと分担して追ってくれ!」


「『こちら聞き込みE班! 不振な車が英雄んチの近くを周回してるらしい』」


「わかった、そっちは任せたでおじゃ! 進捗があったら教えてくれ!」


 教室を司令室代わりに悪戦苦闘。

 またも空振りの報告に、栄一郎の隣で地図とにらめっこしていた愛衣はため息を一つ。


「……もう四時間経つのに、一向に見つかりません兄さん」


「何処まで用意周到でおじゃるかあの女っ!? ダミー情報に、謎の黒服の男達による妨害! そこまでやるのかっ!?」


「ええ、謎の黒服の男達は強敵でしたね……、エテ公さんが脱衣ホームランダービーに勝たなければ、全滅していたかもしれません」


「エテ公は凄かったでおじゃ……、まさかバットをケツに挟んでピッチャー返しからの、カレー大食い競争に持ち込むとは、見直したでゴザル」


「まさか命を削ってまで、アメリカ横断ウルトラQ殺法を使うなんて……、あの人、ただの変人じゃなかったのですね」


「おーい、栄一郎! ウチの女子どもを集めてきたぞ」


「茉莉先生、ご苦労でおじゃ」


「……裏切り者がっ! 兄さんは認めてもわたしはぜぇーーーーったいに! 認めませんからねっ!!」


「愛衣、その話はまた今度にゃ。今は――彼女達に聞きたい事があるにゃ」


 栄一郎は、集まったクラスの女子を座らせると。

 ジュースを配りながら話し始める。


「さて、みんな。事情は聞いているでおじゃ?」


「一応は」「這寄さんがやらかしたって?」「アタシら探索に回らなくていいの?」「というか、ほっといても良いんじゃない?」


「まず確認したい事がある。――お前等、這寄の事を何か知っていたな?」


「机っちマジモードだっ!?」「これは素直に言わないと駄目ね」「やっぱ机には気づかれてたかぁ」「仕方ありませんね」


「その反応、何処まで知っている?」


 彼女達はひそひそと話あった後、代表が一人挙手。


「じゃあ、あたしから。這寄さんが脇部狙いだって事は一年の頃から知ってた」


「こっちに全然伝わって来てないぞ!?」


「あったりまえでしょー。これは女子だけの秘密ってヤツよ。お互いの恋愛を支援しあう、この学年だけの秘密グループがあんのよ」


「それ、言っても良いのか?」


「こんな事態になっちゃたからね。それに言った所で男子達が参加できる話じゃないし」


「それもそうか。――それで、這寄が家を焼いた事とか、英雄を誘拐している場所とかは? 何か心当たりはないのか?」


「家の事はこっちも初耳、ただまあ、前日にとっておきの策を使って同棲に持ち込むからって連絡があったから。何となくは察してた」


「それで、誘拐の場所の方は?」


「実はね、茉莉センセからの連絡があったから、こっちでも心当たりに部活の後輩パシらせて――あ、ちょっと待った。連絡来てる」


「読み上げてくれ」


「ちょい待ち……、あーゴメン。這寄の実家ならって思ったんだけど空振りだった」


「実家? そうか、そっちもあったか!! 学校の住所録に乗ってないから失念していた! ……空振りなのは残念だが、調べる手間が省けた感謝する」


「まぁねぇ……、這寄さんの実家はあたしらの中でも一部しか知らない事だし」


「だが、困ったな……。これで捜索班が見つけられなければ向こうから出てくるのを待つだけになってしまう」


 唇を噛んで悔しそうに俯く栄一郎の姿に、再び女子達は集まってひそひそ。

 やがて、BL歴女趣味の女子がおずおずと手を上げて。


「あの……、もしかしたら、なんだけど」


「心当たりがあるのか!? 何でも言ってくれ」


「前にね? 机くんと脇部くんのコピー本出した時にね、這寄さんに見つかっちゃって……」


「センパイ、後で一部くださいな」


「愛衣シャラップ! …………中身は聞きたくないが、色々と抗議したいが後だ。続きを」


「脇部くんが机くんを監禁調教するって内容だったんだけど」


「俺が監禁されるのかっ!? せめて逆にしてくれ!!」


「もっと詳しくお願いしますセンパイ!」


「ええとね? 机くんの熟女趣味が実はフェイクで、茉莉先生と禁断の関係だったんだけど、実はそれもフェイクで……あれ? 先生、どうしたんですか? そんなに冷や汗かいて」


「い、いやっ!? て、テメーは後で説教だ! 後、アタシにも一部くれ」


「わたしも頂戴」「ちょっと興味有るわ」「後輩にも布教するから五部頂戴」「次は脇部×エテ公本にしない?」


「いい加減にしろっ!? 腐ってやがる遅すぎたんだっ! 続きをどうぞっ!!」


「それで……、監禁場所は脇部くんのアパートの地下って設定にしたんだけど。その時、這寄さんは『これは世に出すな、誰にも言うな。他の内容なら構わない』って」


「それだっ!! 這寄は金持ちで権力持ってる! そして英雄はわりと馬鹿だ! 密かに作ってても気がつかない! ああ、そうだ! きっと大家さんも買収済み……、否、そのアパートは既にヤツの物件だっ!!」


「――っ!? 捜索班の皆さんに連絡しますっ!!」


「今から英雄のアパートに向かう! お前等も一緒に来い! 英雄が結婚式を上げて一児のパパになる前に助け出すぞ!!」


「あ、それは不味い」「やりすぎだって這寄さん……」「あの子ならヤるって思ってました」「脇部って意外女子と人気あるけど、全部矛先を逸らしたのは這寄さんだもんねぇ……」「ゴメン、今まで机くんとの仲を誤魔化すフェイクだって思ってた」


「いいから向かうぞっ!!」


 そしてクラス全員と、剣道部と茶道部、その他の部活動からも何人かがアパートの前に勢揃いし。

 すると一階の一室から出てきたのは、巨乳のメイドさん。


「――――ここにたどり着きましたか、フィリア様は灯台もと暗し、見つかる訳が無いと仰ってましたが」


「はっ、その顔、英雄を連れ去ったメイドだな? アイツの所まで案内して貰おうか」


「仕方ありませんね、ゲームオーバーって奴です。……その前に、机栄一郎。貴方だけちょっとコッチに」


 メイドさん、もとい未来を全員で包囲する中、栄一郎は彼女に耳元で囁かれた。


「茉莉ちゃんと同棲してるって本当ですか? 本当に愛してます?」


「…………………………何で知って、いや、知り合いだって話を聞いたな」


「彼女とは幼馴染みなんです、相手は誰かまでは知りませんが逐一相談に乗っていました……それで? どうなんです?」


「その話は、今回の事に関係あるのか? 話したら案内してくれるのか?」


「ええ、案内しますとも。それに――今回の騒動の原因の一つは机栄一郎、貴方なんですよ? ちなみに、茉莉ちゃんが協力したのも同じ理由です」


「何でだっ!?」


「何でだって…………気づいていませんか?」


「何を」


「そうですね、ではこう考えてください。絶世の美少女がいくらアプローチをしても生殺しにしてきた少年がいるとします」


「英雄の事だな?」


「そしてその少年には、いつも行動を共にし、BL本と書かれる程に仲が良い親友が居ました」


「聞いたことがある話だな」


「その親友は、とても顔がよく長身。変人だとしても恋人が居ないのが不思議な人物です、しかも成績優秀で、美人の妹も居る」


「完全に俺だな」


「さらに不味い事に、その妹とのデートを邪魔するのに成功したのに、少年は親友と遊ぶことに夢中です。さて、美少女と同棲もしたのに押し倒しもしないその少年は、本当に女の子が好きなのだろうか? 仮にノーマルであっても、親友の方が大切なのではないか?」


「……………………答えだな?」


「さて、どうでしょうか?」


 栄一郎は深く思案し、そして決断した。

 己も、覚悟を決める時が来たのだと。


「彼女には秘密にしてくれ」


「ほう、聞きましょう」


「俺が在学中に婚約までこぎ着けるつもりだ。絶対に、逃がさない」


「なるほど、その言葉を聞きたかった。――はい、皆様! 交渉は纏まりました! これよりご案内致します!」


 一同は、決意に満ちた瞳で担任教師を睨む栄一郎に、揃って首を傾げたが。

 それはそれ、これはこれ、話が纏まったならと頷いて。

 そして、管理人室の地下の扉の先で見たものは。


「やあ、助かったよみんなっ! 助けに来てくれるって信じてた!」


「くっ、裏切ったな未来!!」


「いえ、フィリア様の幸せを思っての事ですとも。主人の間違いを正すのもメイドの役目ですので」


「というか英雄…………何でお前じゃなくて這寄が拘束されてるんだ?」


「まぁ、色々あってね」


 英雄は抱きしめていたフィリアを膝から退け、手錠は未来が外し。


「みんな、今回はごめんね? 後で埋め合わせをするよ」


「気にするなって」「お前の為ならな、結構楽しかったし」「エテ公の勇士、見せたかったぜ!」「這寄さんとちゃんと話し合えよー」


「さ、みんなにも謝ろうかフィリア……フィリア?」


「――っ、ぁ……――ッ」


「え、ええっ、あれっ!? な、何で泣いてるのっ!?」


 英雄が見たものは、ぼろぼろと大粒の涙を流すフィリア。

 その瞳は、あの熱烈な告白の時より暗く淀んで。


「――――で、…………何でっ! 何でだっ!! 英雄っ! お前はっ! お前はぁっ!! ~~~~っ!!」


「よく分かんないけどさ、部屋に帰って休も?」


「私にっ! 優しくするな馬鹿っ!! 私なんかっ、私なんかっ!」


「はいはい、落ち着こうね。僕は君のこと、嫌いになんてならないからさ」


「うぅ~~っ、離せっ! 抱きしめるなっ!」


「暴れない暴れな――――うごっ!?」


「英雄なんて、大好きなんだああああああああああああああああああああああああああっ!!」


「ちょっとフィリアっ!? 何処行くのさっ!!」


 フィリアは号泣しながら猛ダッシュして、取り残されるは顎をさする英雄と、ぽかんと口を開ける一同。


「英雄様っ! 追いかけてください! フィリア様の位置は此方から教えますっ!」


「ゴメン! みんな行ってくる! ちょっとメンドクサイあの子を口説き落としてくる!」


 途端、脇目をふらず後を追う英雄。

 その姿に、栄一郎はぽつりと一言。


「スゲェな、この状況でまだあんな台詞出てくるのか……」


「らしいというか、何というか。拉致監禁された相手だっていうのに英雄センパイは……」


「しゃーない英雄っちだもんな」「這寄さん、面倒な女の子だったんだなぁ」「なるほど、脇部とお似合いだな」「ところで何で泣いたの?」「気になるが、これに口出せるのは脇部だけってね」


「いけっ! 脇部くん!」「男を見せる時だよ脇部!」「大丈夫ですかね?」「大丈夫でしょ、だって脇部と這寄さんだし」「収まるところに収まるって」


「……では皆の者! 我輩と愛衣は残るでゴザルが、皆はどうするでおじゃ?」


「気になるし残る」「賛成」「せめて交際宣言は聞きたいよな」「んでもって祝福(物理)だね」「英雄の部屋からトランプ持ってこよーぜ」「メイドさん、この部屋にジュースってある?」


「アタシらも残る」「あ、ポテチ発見」「ゲーム発見」「画材発見、せめて脇部×這寄本のプロットでも……」「まあ、残って見守りますよ」


「………………ねぇ茉莉ちゃん? この子達というか、フィリア様と英雄様の学校生活って」


「人望があるんだアイツら、この調子でいっつも悪巧みしてるからなぁ……、もうちょっと別の方向にしてくれればアタシも教頭から説教くらわないんだが」


「といいつつ、満更でも無い感じですね」


「未来だって」


「ワタシはフィリア様のメイドですから。そうそう、例の相手の事、今日こそ話して貰いますよ?」


「はっ、何のことだかアタシは知らねーなァ?」


「『コチラ脇部くんチの英雄くん! フィリアを見失ったんだけど助けて!』」


「はいはい英雄様、そっから二十メートル先で右折です」


「『了解! 待ってよフィリア!!』」


 こうして、彼らは和気藹々と二人の帰りを待ったのだった。



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