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第16話 パーカー大好きひでおくん



 エアコンも修理が終わり、英雄ハウス最大の危機は回避された。

 ついでに、マンガ喫茶には半年出禁になった。(配点・店長の嫉妬)

 それはさておき今日は平日、時間にして昼休み。


「ところで英雄殿、我輩少し前から気になっていた事があるのにゃが?」


「何でも聞いてくれよ栄一郎、――親友に閉ざす口など、僕には無い!」


「では聞くけど……最近、そのパーカーよく着ているでおじゃるな」


「へっへー、良いだろこのパーカー。黒色がカッコイイと思わないか? 実はバックプリントなんだぜ? かーっ、ブレザー着てるからお見せできないのが残念だ!!」


「脱げば良いのでおじゃ? はいいとして。這寄女史も最近、良くパーカーを着ているにゃが、珍しい事もあるもんだ」


「うーん、何が言いたいのさ? 確かにフィリアはお堅いから珍しいけどさ。ウチの校則って結構緩いじゃんか、卒業式とか始業式以外だったら別に変じゃなくね?」


「ふぅーん、そうでゴザルかぁ……?」


 栄一郎は訝しげな視線を親友にプレゼントした。

 彼の記憶が正しければ、英雄のパーカーは以前ボウリングの時に着ていたモノ。

 そして這寄フィリアのソレも同じ。


「おーいエテ公、ちょっと来るでゴザル」


「あいよぅ!! ――……で、何々? 何の話?」


「英雄殿のパーカーの話でゴザル」


「ああ、最近頻繁に着てるな。それがどうかしたのか?」


「ではここで、視線を右に」


「女子達が見える」


「ふぉっふぉっふぉ、もっと詳しくゥ」


「姫とそのお付きの従者が見える」


「ではその姫の今日のお召し物は?」


「ブレザーの下にパーカー着てるな、英雄と同じ黒色の」


「そこでちょっと小耳に挟みたい、みんな大好き机栄一郎ニュースのお時間でおじゃ」


 そして栄一郎は叫んだ。


「おーーい、みんなァーーーー! 英雄殿と這寄女史が同じパーカーを着てるでおじゃあああ!!」


「え、何々?」「色が一緒ってだけだろ」「栄一郎は何を言ってるんだ?」


「聞けい者共!! 拙者は先日! 英雄殿と遊びに行った! 這寄女史も一緒にだ! ――はいそこっ! 英雄殿が逃亡しようとしてるぞ! ひっ捕らえるにゃ!!」


「畜生! 誰だ僕の邪魔をするの……ってフィリアっ!? 何で邪魔するのさ! 襟延びちゃうから離してくれない!?」


「はっはっは、興味深いではないか。共に机の言葉を聞こうではないか」


「予想付くでしょこんなのっ!? ああ、早く離してっ! 非モテ男達の視線が痛い!!」


「うむ、殺すか」「処す? 処す!」「脇部……チミは良い男だったが行動力が有りすぎるのがイケナイのだよ」


「まーた男子がバカやってる」「でも気にならない?」「確かに、実は私も疑問に思ってた」


 何かを察したのか嫉妬で殺気立つ男子と、これまたいつもの様に傍観を決め込む女子。


「クソッ! 離してよフィリア! ――ああっ、何で腕まで組むのさ!? 僕幸せ!!」


「こうでもしないと逃げるだろう、この幸せ者め」


「お二人さん、お二人さん。拙者の記憶違いでなければ、あの時に着ていたのと同じ『お揃い』のパーカーだと思うのじゃが……如何に?」


「うむ、良い質問だ」


「では?」


「私と英雄は……お揃いのパーカーだ!」


「では本題でおじゃる」


「これが本題じゃないのっ!?」


 何だかんだと満更でもなさそうな表情で叫ぶ英雄に、男子達は包囲しつつ舌打ち。


「へっ、分かってるんだぜ。お前達は側に居たら僕に手を出せないって! はっはー、良い気味だね!」


「おおっと、突然離れたくなったぞ」


「嘘嘘超コワイ!! 是非とも側に居て一生離れないでお願いっ!!」


「夫婦漫才は後にして欲しいでおじゃる、というか本題があるって言った所にゃが?」


「ソーリー、マイベストフレンド。続きをどうぞ」


 栄一郎はこほんと咳払いをすると、クラス中が感じている疑問を口に出した。


「二人は、付き合ってる?」


「違うよ」「違うな」


「本当に?」


「違うね」「違うぞ」


「…………。では、何故お揃いのパーカーを着ているでおじゃるっ!? 急に仲良くなってるし! それで付き合ってないって嘘だろっ!!」


 栄一郎の叫びに、皆は一様にうんうんと首を縦に振る。

 だが、そう言われても英雄とフィリアからしてみれば付き合っていない事は確かなのだ。


「僕とフィリアが同じパーカーを着ているのは、深い、深い訳があるんだ」


「私がこの所、ポリシーを曲げて着ているのにも訳があるのだ」


「ええー、本当でゴザルかぁ?」


「まず僕から訳を話そう…………ごめん、思いつかなかった。そもそも僕はパーカー好きだしね、これ着てるのも気に入ってるってだけだし。いやー、フィリアってば良いチョイスしてるよね」


「…………這寄女史が選んだでおじゃ? つまり英雄殿は這寄女史に服を選んで貰う仲だと?」


「少し違うぞ机。私のは英雄が買ったし、英雄のは私が買った」


「お二人は付き合ってるのにゃ?」


「ノー」「いいえ」


「どうしてそれで付き合ってないのにゃ!? ええいっ! 次、這寄女史! 言い訳は何じゃ!!」


「発端は机妹である愛衣から、英雄が誘いを受けた事だな」


「そう言えば、英雄殿お一人の筈が一緒に来ていたでおじゃるな」


「答えは一つ!」


「やっぱり付き合ってるにゃね!!」


 シャーと威嚇する栄一郎に、フィリアは英雄と指を絡ませながら答えた。


「クドい、私と英雄の関係は――主従関係だ!」


「言い訳は見苦しいぞよ!」


「まあ聞け机よ……、あれは先日の事だった。英雄が土下座して頼んできたのだ。あの時買ったパーカーを一緒に着て登校して欲しいと」


「ダウト! 異議アリ!! 裁判官、フィリアは嘘をついてます!!」


「では被告人、英雄殿。反論を述べよ」


「僕は頼んでないよ! ただ、たまにはフィリアも制服の下にパーカー着たらって提案しただけだ! きっと可愛いからって!」


「では這寄女史、反論があるならどうぞ」


「ふむ……似合うか英雄」


「ああ、最高だよ! ブレザーの下にパーカーを着てる事で可愛さアップ! 相乗効果で綺麗さも引き出されてビューティホー! そして僕はお揃いのパーカーが着れてウキウキさ!」


「二人はお付き合いされていらっしゃる?」


「違うよ?」「違うな?」


「だから! なんで! それで付き合って無いんだよおおおおおおおおお!?」


 栄一郎は魂の叫びを上げた。

 女子達は頷き、男子どもは二人のやりとりで悶死。


「まぁまぁ、栄一郎。君ってば大事なことを見逃しているよ」


「何でゴザルぅ……?」


「第一に、僕はフィリアを愛していない。友人としては大好きだけどね」


「私は君を愛しているぞ英雄」


「リップサービスありがと、そんな君が好きだよフィリア」


「今のがリップサービスっ!? 確かに仏頂面だったけどマジトーンだったでおじゃ!?」


「栄一郎、……耳鼻科行く? 今やフィリア検定一級の僕が言うんだよ? 間違いないって」


「誰かっ!? 誰か助けてっ!! 俺には分からねぇ!!」


「栄一郎が壊れたっ!! 大変だフィリア救急車だ! 栄一郎が俺って言うときは病気で弱ってる時だけなんだ! 机兄妹検定一段の僕が言うんだから間違いないよ!!」


「机兄妹検定一段剥奪でゴザルっ!!」


「マジでっ! 僕超ショックなんだけどっ!!」


「というか這寄女史ィ! スマホで何をしようとしてるでおじゃるか!! 拙者は病気でも何でも無いでゴザル!!」


「ハハハ、冗句だ。どうだ私も冗句が上手くなっただろう、英雄を見習ってユーモアを取り入れてみたんだ」


 フィリアの言葉にがっくりと肩を落とした栄一郎は、救いを求める様に周囲を見渡すが。

 男子は変わらず悶死、よくよく見ると廊下で立ち聞きしていた他のクラスの男子も悶死している。

 女子はといえば、生暖かな視線と共に首を横に振り。


「這寄女史が英雄殿の悪い所に染まってるでおじゃああああ!? 英雄のばっきゃろーーーー! 付き合ってないならウチの愛衣を貰ってくれぇええええ!!」


「ああっ、栄一郎どこに行くのさ!? もう直ぐ午後の授業始まるよっ!?」


「ちょっと熟女に癒されてくるでゴザルうううううう!!」


「女遊びも程々にな机、先生には私から言っておこう」


 彼を見送る二人に、瀕死のエテ公が這いずって近づいて。


「ひ、ひで、お……。こ、こ、こ……」


「こ? 何だい? ああ、次は公民の授業だったっけ」


「いや、現代国語の筈だが」


「じゃあなんだろ……こ、こ、こ? こけこっこー!」


「殺すだバカ!! 付き合ってなかろうが、実質付き合ってるも同然じゃねぇかっ!! この裏切り者めっ!!」


「はっはー、これだから非モテは。女友達居たことないの? いくら仲が良くてもライクとラブぐらいの区別がつかないとモテないよ? ……あれ? なんで僕に手錠かけたのフィリア? というか前にもあったけど何で持ってるの?」


「――やれ、越前天魔。顔と急所は止めておけよ」


「全員起きろ!! 英雄を祝福してやろうぜ!」


「うおおおおお! 姫のお許しがでたぞ!」「寝てる場合じゃねぇ!」「羨まけしからん! ころちゅ!」「脇部、女心検定の教科書をお前にやろう……墓に埋めてからな!」


 エトセトラエトセトラ、クラスは男の醜い嫉妬の声で溢れ。


「うおおおお! 僕大ピンチ! いざ行かんダイナミック脱出! 味方してくれたらフィリアの湯上がりジャージ写真をやるぞおおおお!」


「殺してでも奪い取る」「ころちゅ」「地の果てまで追って何処までも残酷に、残酷にィィィィ!!」


「馬鹿なっ!? 味方が居ないっ!?」


 二階だというのに窓から脱出した英雄は、今回も無傷で逃げ切って。

 授業をサボった罪で次の日、男子全員仲良く廊下でバケツを持って立った。



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