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第14話 マネー・イズ・サティスファクション?

※2019/11/11その2




 担任教師・跡野茉莉の恋路を、もといその知人の恋バナの続報を期待した英雄をフィリアであったが。

 特に話があった訳でも、彼女に目に見える変化が見られないまま、世界の摂理に従い時は進み週の終わり。

 つまりは休日に突入。


「さて、今日は何を…………そういえば」


「何かレジャーを思いついたか? ジャージマン」


「僕がそれなら、フィリアはジャージマンレディだね。――じゃなくて」


「ふむ、ジャージマンレディにも関わる問題かね?」


「あ、それ気に入ったの? まあいいや、この前の茉莉センセの話の時だけどさ」


「続編が是非聞きたかったな」


「それは僕も、んでその時にさ。フィリアってばさり気なく超金持ち発言してなかった?」


「うん、言ったか? 私が金持ちだという事は既に君も知っている事だろう」


「そうじゃなくて、這寄家の系列企業のスイートルームに部屋を取れたけど、住所は学校向けのダミーだけ……とか言ってたじゃん」


「スイートルームまでは言ってないぞ、事実ではあるが」


「マジで!? モノホンのお嬢様だったの!? いや、そんな感じはしてたし噂もあったけど!?」


「ウチは名字と企業としての名前は切り離してるからな、それで、それがどうかしたのか?」


 ずずずと、朝食後の烏龍茶を飲むフィリアにつられ英雄も一口。

 そういえば、もともと英雄の部屋に烏龍茶など無かった筈だ。

 しかも、高級茶葉から出す暖かい物は。


「つかぬ事を聞くけど、これ幾らぐらい? 香りも良いし美味しいんだけど」


「さて、同棲始める前にメイドから持たされた物だからな……、グラム千円ぐらいの安い奴じゃないか?」


「マジで!? 結構あったよねコレ!?」


「グラム千円ぐらいで驚くな、話はそれで終わりか? なら――」


「待った、わりと真面目な話なんだ」


「……ふむ、聞こうではないか」


 浮かしかけた腰を据え、フィリアは英雄を威圧するように睨む。

 だがそれで怯む英雄ではない。

 対抗する様に、殊更に笑い返して。


「同棲を誘ったとき、僕は金銭面を理由にしたよね?」


「ああ、そうだな。大変助かる申し出だった」


「ダウト、さっきの発言と矛盾するよ。ホテルのスイートルームがあるなら同棲する理由無いじゃん」


「実家との折り合いが悪いと、私は言った筈だが?」


「グラム千円以上の烏龍茶を渡されてる人が? 本当に実家と仲が悪い?」


「渡したメイドは私付きのメイドでな、彼女は私の味方だ」


「…………ねぇ、さっきから誤魔化そうとしてない?」


「そうだとしたら、――君は、どうする?」


 身を乗り出し、ア゛ア゛ン゛? とメンチを切って威圧するフィリア。

 眉間の皺といい、獰猛に剥き出しの歯といい、美少女のする面ではない。


「威嚇したって無駄さ、――そんな顔も綺麗だよ」


「誉めたって、無駄、だ!」


「ではこうしよう」


 英雄はニマリと立ち上がり台所へ、そして腕いっぱいに抱えて戻る。


「そ、それは――――ッ!?」


「ふふふ、中毒症状から抜け出したとはいえ。これは効果的でしょ。は~~い、ポテチセット! のり塩! コンソメ! ピザ! ゆず胡椒! わさび! ザワークラフト! かーらーのー、…………コーンポタージュ十本!! もしもの時に用意してたけど、このカードを今切らせて貰うよ!」


「くぅ~~~~~~~~っ! ひ、卑怯だぞ英雄!! こ、この私がこんな誘惑になどッ! だが、だ、だがっ!! ――これでも喰らえ!」


「何ぃっ!? フィリアってば、まさか――っ」


「フハハハ、考えることは一緒の様だな! ポテチ! のり塩! のり塩! のり塩! のり塩! 更にのり塩! そしてコーラ! なんと十本セットだ!」


「ああ、何て物を用意していたんだフィリアはっ! 悪魔! アデージョ! ファムファタール!! 超好き!!」


「君だって最高の男だ!」


 二人は奪い合う様に、用意されたポテチと飲み物を抱え。


「くっくっく、こいつでゲームと洒落込めば最高の休日になるぞ……ああ、幸せだなぁ」


「うむ、それだ」


「え、何が?」


「その幸せ、というモノだ」


「ちょっと話が見えませんね、もう少しヤらしく」


「ああん、しあわせっ、ということっ、かんがえたこと、ありゅ?」


「ノッくれたは良いけど、凄い棒読みだっ! 普通に詳しくして」


「くっ、畜生め! 君は考えた事があるのかっ! 幸せという事にだっ!!」


「悔しくっ!?」


「北海道の知床半島沖にある島から見てだな、根室海峡の――」


「それ国後島だよ!? 幸せの話は何処にいったのっ!?」


「ゴホン、お付き合いありがとう。君と栄一郎達の会話を聞いてな、一度やってみたかったのだ」


「ああ、うん、フィリアの気が済んだのなら良いけどさ……ああっ、しまった! スマホで撮っておけば良かった!」


「それをしたら、君のスマホを壊すしかないな。話を戻すが――」


 彼女は姿勢を正して、英雄を見つめた。

 いつもの仏頂面の筈が、何故だか少し和らいで見えて。


「――幸せとは、何だと思う? 自慢に聞こえるだろうが、私は親が金持ちで、有名人で、物理的な物なら何一つ不自由なく育った」


「その物言いからすると、心的な?」


「ああ、正しくそうだ。正直に言おう、私は君に頼らずとも、親のホテルを頼らずとも。君の基準でも豪華な一人暮らし出来る金銭を自力で稼いでいる」


「でも、そうしなかった」


「一人暮らしには一人暮らしの幸せがあるだろう……、だが」


「僕と居る事に幸せを見いだしてくれた?」


「それは自惚れ過ぎじゃないか? 少し引くぞ」


「え、マジ!? その反応は傷つくんだけどっ!!」


「――……ああ、君のその顔を見ていると。心が満たされる思いだ」


「僕の心を殺す為に同棲したの!? クソっ、なんて女だ! 可愛いのは顔だけにしておけっ!!」


「体は要らないのか?」


「体も最高だっ! おっぱいを揉みしだけたら女神って崇めてたよ!」


「君だって体目的じゃないか、酷い男だ」


「フィリアが言い出したんだよね? ブーメランいる? あるよ?」


「冗談はここまでにして」


「良かった、心が殺される可愛そうな男の子は居なかったんだね……」


 ほっとする英雄は天井を仰ぎ、その姿にフィリアは優しく微笑んだが。

 彼が顔を戻した瞬間、いつもの鉄面皮に戻った。


「私が言いたいのは、だ。……誰かと一緒の幸せというモノもアリだろう?」


「とはいえ、仲が悪かった僕の誘いをよく断らなかったねぇ……。逆の立場なら、後ろ髪引かれても一晩以上は一緒に居なかったかも」


「理由を聞いても?」


「男の子の意地って奴さ、多分これは……仮にだけどフィリアが体を差し出しても駄目だったかな。むしろ余計に男の意地を張りそうだ」


「だからだ、君の誘いに乗ったのは。そんな君だからこそ、一緒に居てみようと思ったのだ――――遠い、遠い昔からな」


「え、今最後小さな声で言った? 聞こえなかったんだけど?」


「今の小声が聞こえて居たら、私は君に体を許していただろう。残念だったな」


「マジでっ!? かーっ!! 惜しいことしたっ!! ワンモア! ワンモアプリーズ!?」


「駄目だ、駄目駄目だ。絶好の機会を逃して惜しかったな」


「わかった、裸踊りをしよう」


「駄目だな、でもそんな君を愛おしいと思う」


「っ!?」


「愛玩動物の様に」


「上げて落とすっ! 分かってた……分かってたのにっ! 期待した自分が恨めしい――」


 がっくりとちゃぶ台に突っ伏す英雄に、フィリアはよしよしと頭を撫でた。


「ふふふ、英雄は可愛いな」


「男の子に可愛いって言うな」


「そこで男の子と言うから可愛いんだぞ」


「ああ、その言葉で僕のちょろい心は堕ちそうだ……」


「実はな、今だから言うが。……よく君は裸になるだろう?」


「自滅というか、賭けに負けたりして不本意だけどね。楽しんでる事は確か」


「その度に私の視線は釘付けだった。ガン見だ」


「リップサービスありがと、そんなフィリアも好きですよーだ」


「ふむ、リップサービスありがとう。素直に礼を言える英雄がとても好ましい人物に見えているぞ」


「はいはい、実は規律を重んじるフィリアって、僕と正反対だけど好ましく見えてる」


「何だかんだと理由を付けたら、体を強引に求めない君が好きだが苛立つ」


「羞恥心が全然顔に出なくて残念だけど、きっちり貞操を守る少し古風な君が愛らしいけど苛立つ」


 英雄はちらりと上目遣いでフィリアを見て、フィリアは仏頂面だが、口元を優しく歪めて見下ろして。


「……そうだな、今日はゆっくりしてても良いだろう」


「そうだねぇ……」


「特別だ、同棲相手らしく君に膝枕をしてやろう。代わりに後で君は腕枕をするがいい」


「誰かといる幸せってやつだね、良い提案だ」


 その日、二人は陽が沈むまでゆったりと過ごしたのだった。



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