第8話 小さき強者
なんとも締まらなかったアルマ武具店(名前も覚えてきた)を出て、コルート平原へと向かう為には北の関所を通る必要があるので、まずはそこに向かう。武具店からはなかなかに遠いので、それなりに時間はかかったが、地図を見てたどり着くことができた。
関所の近くは人通りが商業地区よりも多く、次々と人が出入りしていた。俺も関所を出るための列に並ぶ。
「カードをお持ちの方はそれらを出す準備をしてお待ちください!」
衛兵? の方たちが列に並ぶ人たちに声をかけている。カードというのは冒険者カードのことだよな。俺は言われた通りに冒険者カードを登録本コレクトブックから取り出し、手に持った状態で順番が来るのを待つ。
数分ほど経って次が俺の番といったところで問題が発生した。前に並んでいた赤、いや緋色の髪の女の子が止められてしまったのだ。
「お嬢ちゃん、ごめんね、15歳未満の子は15歳以上の方と同伴じゃないと外に出しちゃダメなんだよ」
「だーかーらー、16だって言ってるでしょ?! 冒険者カードにもほら!」
衛兵が優しい顔をして諭しているあとに冒険者カードを出して年齢を必死に証明しようとする女の子。しかし、それでも信用ができないのか今度は困った顔をする衛兵。俺もその光景を眺めてまだかなーと待っていると、女の子が予想だにしない一言を放った。
「それに、今日はお兄ちゃんを連れてきてるんだからいいでしょ!」
俺の方を指さして言ってくる女の子。衛兵もびっくりした顔をしている。俺が1番驚いているとは思うが。そんな俺に対してちいさくウインクをしてくる女の子。
「本当か?」
「は、はい、兄の亮太です」
この判断が正しいのかは分からなかったが、俺は女の子に話を合わせることにして、冒険者カードを提示した。ちなみに数分後後悔します。(盛大なネタバレ)
「うーん、まぁ、いいだろう。ちゃんと兄として責任持って妹を守ってやれよ」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
衛兵の人はやれやれといった様子で、特に手荷物検査などがある訳でもなく、そのまま通してくれた。俺は見知らぬ女の子を連れて。冷静になって考えてみるとシンプルに犯罪なんじゃ・・・。とか被害妄想を膨らませていると、
「いやぁ、助かったよー。ありがとうお兄さん」
「お役に立てたようで良かったです」
門を潜り終えたところで女の子が安堵した様子でお礼を言ってきたので、俺もそれに対してどういたしましてという気持ちを込めて返事をする。
「お兄さんこの後暇?」
「暇じゃないけどなんで?」
おっとつい口調が崩れてしまったが、それは特に疑問に思われることはなく、俺の質問に女の子は答えてくれた。
「これからもお世話になろうと思って」
「は?」
俺は実にマヌケな顔をしているだろう。さっきよりも驚いている。なぜそうなるんだと。1回限りじゃないのかと。
「いやー、だって衛兵のおじさんにはもうお兄ちゃんって言っちゃったし、帰ってくる時に別々はおかしいじゃん? また別の人に頼むにしても毎回兄や姉が変わるのは怪しまれるでしょ? それにお兄さんだって怪しまれるよ?」
「確かに。じゃなくて!」
危ない、納得してしまいそうになっていた。でも、この子の言う通り、毎回変わるのは怪しいし、俺だってどうなるかわからないだろう。
「私こう見えて意外と強いし、本当に16歳だからさぁ、何とか頼むよー! お願い!」
「いいですよ、わかりました!」
「本当! 助かったー!」
おーけーしてしまった。女の子めっちゃ笑顔だけど、本当に大丈夫かな。俺捕まったりしちゃうんじゃないの? そもそもどうやって真守たちに説明するんだよ。傍からみたら10歳ちょっとにしか見えないぞ。もうこれ誘拐だろ。
「じゃあ自己紹介からだな! 私はリコリス! さっきも言った通り本当に16歳だぞ! 職業は一応武器製造士だ! よろしく!」
そう言って緋色の髪の小さな女の子もといリコリスさんは俺に握手を求めてきた。
「俺は亮太、同じく16歳だ。職業は強化使い。よろしく」
ため息をつきながら俺も自己紹介をして握手を交わした。なんか普通に始まっちゃったけど本当の本当に大丈夫なのかな。
「じゃあ早速だけどパーティー登録しちゃおうか! 亮太さんがリーダーでいいよね?」
そういってリコリスさんが冒険者カードを出したので、俺も冒険者カードを出す。
「それで大丈夫だけど、俺がリーダーでいいのか?」
「もちろん! 私はリーダーとか向いてないからさ。手重ねて?」
「分かった」
リーダーであることを了承した俺はリコリスさんの手に自分の手を重ねる。そして、パーティー登録。と一言いうだけでカードが光だし、およそ成功したのだと思われた。
「これで登録できたんだよな?」
「うん、そのはずだよ」
一応確認を取りはしたがこれで大丈夫らしい。実際冒険者カードの裏側に新しい項目が増えていて、俺の名前とリコリスが表記されていた。
「じゃあ行こうか!」
「あ、ああそうだな。と言いたいところなんだが、実はこの辺りのことはほとんどというかほぼ知らないんだけど、道とか、モンスターの生息域とか分かる?」
「マジかー、お兄さん"も"知らないのか」
「"も"ってことはリコリスー・・・」
「呼び捨てでいいよ」
「リコリスも知らない?」
俺はいつもなら呼び捨てなどはすぐにはできないのだが(真守たちは例外)リコリスは年齢となによりその見た目のせいで普通に呼び捨てができるという。これはリコリスにとっていい事なのか悪いことなのか。
「もちろん!」
「そんな自信満々に言われても」
そんなこと考えてるとは露知らず、ない胸をはるリコリスを見て苦笑する俺。しかし、困った。地図は持っているが王都の中までしかない。周囲に関しては特に何ももらっていないのである。まぁでも
「考えてても仕方ないか、とりあえずこの道なりに進もうか」
俺がだだっ広い平原の中にある1本の踏み固められただけの道を指さすと、そうだね。と同意してくれたので2人で軽く話しながら進んで行った。
☆★☆
「亮太さん、あれ」
「俺のことも呼び捨てでいいよ」
「分かった」
軽くやり取りをしながらリコリスが指さした方を見ると緑色のスライムがいた。たぶん全体完全回復魔法は使ってこない。はず。
「グリーンスライムだな」
「それは知ってるんだ、私も知ってるんだけど」
「本で読んだんだ」
「なるほど」
グリーンスライムは弱いスライムの1種で自分から攻撃してくることはない。攻撃されたら体当たりはしてくるものの、そこまでの威力はなく、他には逃げることぐらいしかしない。雑食。
だったかな? 俺の記憶が正しければこれであってるはず。
「どっちから戦ってみる?」
「まずは亮太がリーダーとしてバシッと決めちゃってよ」
「おーけー」
まずは俺からになったので登録本から片手剣と盾を取り出して構える。何も知らない素人なので、ゲームやアニメで見た感じでなんとなく構える。
そしてグリーンスライムに近づいて剣を振りかぶり思いっきり叩きつける。がしかし、その攻撃は意外にもあっさりと避けられ逆に勢いをつけてグリーンスライムが突進してくる。
「痛っ! 強くね!? 普通に強くね!?」
その後も1人と1匹の攻防は続く。
「いってぇ!」「ぐふっ」「ガハッ」「ゴホッ」
しかし、俺の攻撃は一切当たらず、逆にスライムの攻撃は全て俺に当たった。にも関わらず、痛みは一瞬あるもののすぐに引き、かなりの勢いで顔にぶつかってきても鼻血が出ることなどはなかった。
そしてそれがわかってからは実はステータスをほとんど使いきれてないんじゃないかと思って色々と試した。結果はこうなった。
「避けてからのオラァ!」
ザシュッと俺の攻撃が命中しスライムが倒れる。今少し分かったことは行動を行う部位に意識を集中させることだ。早く動きたいなら足に、もっと力強い攻撃をしたいなら腕に。といった感じだ。ちなみにHPは20回ほど攻撃を受けたにも関わらず、15しか減っていなかった。まだまだ余裕だ。
「やっと倒れたー、疲れたー」
「お疲れ様。初戦?」
「ん? ああ、初めての戦闘だったよ」
地面にぶっ倒れながらそう言うとなるほどと一言呟いて手を差し伸べられた。
「休んでる暇はないよ亮太。次は私が戦うんだから獲物見つけなきゃ」
「わか、うぉっと!」
「あと、これ」
思いっきり引っ張られて立たされたあと、リコリスは小さな薄い緑色をした小指の先くらいの石を渡してきた。これが魔石だろう。かなり小さいけど。
「それしまったら早く行こ!」
「はいよー、ちょっと待って」
とはいっても念じるだけでしまえるのだから本当にちょっとだ。しまい終えたらすぐにリコリスが走り出したので、俺も後を追うように走った。
☆★☆
「いたいた、早速やっていい?」
「リコリス、ちょっと速い。ふぅ」
息を整えながらそう言っても、特に気にした様子もなく、許可を求めてくる。
「攻撃していいけど、毎回許可とる必要ってあるのか?」
「緊急時とかは許可とらないかもだけど、平時はとったほうがいいんじゃない?」
「なるほどなー、わかったとりあえず攻撃していいぞ」
「わーい!」
改めて攻撃の許可を出しつつ、まるで精神年齢までもが10歳のように喜ぶリコリス。たぶんこれも小さくみられる原因の1つ。なんてバカな
「うぇ?!」
「すごいでしょ?」
俺が驚くのも無理はないと思う。なぜなら目の前に正確にはリコリスの手元に突然"銃"が生成されたのだから。
「いっくよー!」
そう言ってゲームで見るようなスナイパーライフルの形状をした銃のスコープを覗き狙いを定めている様子。そして、ヒュンという音がなったかと思うと目線の先にいるスライムがパァンと弾けた。
「よし! 命中ー!」
「お、おめでとう」
ガッツポーズをしながら満面の笑みを向けてくるリコリス。俺は唖然しつつも賞賛と拍手を送る。
「今のはスキル?」
「あ、亮太も本名知ってる? そうだけど。伝わるってことは亮太もスキル保持者?」
「たぶん、俺も種類は違うがスキルが使える」
つい聞いてしまったが特に問題はなかったようだ。にしてもスキルが本名? となると偽名が存在するはずだが・・・。それに偽名が存在する理由は? それらを全てリコリスに聞くと、分かる範囲で答えてくれた。
「うん、スキルが本名。一般的には特殊能力や不思議な力なんて言われてる。なぜかスキルを持たない人たちはスキルがわからない。偽名が存在する理由は私も分からないけど、スキル保持者とそれ以外を見極めるためって言われてたりするよ。実際、私も亮太がスキルって言葉を使ったから持ってるだろうなーって予想したんだし。私が知ってるのはこれぐらいかな」
「なるほど。ありがとう」
「それと、私はスキル見せたんだから、亮太のも見せてよ!」
「いいけど、まだ1度も使ったことがないんだけど」
「使いたいって思えば自然と使い方が分かるはずだよ?」
困り顔で見せたい気持ちは山々だがといった感じで伝えると、リコリスはそんなことならとアドバイスをくれた。俺はそのアドバイスに従い使いたいと思う。使いたい、使いたい、使いたい、使いたい、使いたい、使いたい、使いたい!
まるで心の中で念仏のように唱えると、スっと頭の中に1つのアイデアというか使用方法が浮かび上がってきた。しかし、これはこの前試した通常強化シンプルブーストの使い方であり、素材不足で使うことができない。
どうしようかと思っていた時にふと視界の端に映っていた小石に目がいく。これを強化したらどうなるのだろうと。武器や防具ならその性能が上がり、目に見えて強くなる。がしかし、特に性能なんてないそのへんの小石を強化したら何が強くなるのだろうと。
ただ純粋に疑問に思い、小石に通常強化を発動させると、そこには必要素材に石系10gとだけ表示されていた。他に能力値の上昇などは書かれていなかった。これはこれで試してみたいが、結局は見える範囲にはこれ以外の岩はおろか、石や小石さえも存在しなかった。
「ダメかー」
「使い方がわからなかったのか?」
「いや、使い方はわかってたんだけど、必要素材である石がないんだよ。できるだけ多く欲しいから大岩でもあってくれたらいいんだけど」
「そんなことなら任せて」
リコリスが俺に向かってにっこりとしながら言うと、手の平を地面へと突き出した。そして、ふっという声とともに力を入れると、リコリスの前に小石が出現した。かと思うと、みるみるうちにその小石は大岩と言うべき大きさになった。
「これくらいで足りる?」
「あ、ああ。たぶん足りる。ありがとう」
特に疲れた様子も見せずに本当にそんなこととしか思っていないようなリコリスだが、俺にとっては銃を見せられた時と同じくらいの衝撃であり、反応はしたものの、心ここに在らずといった感じだった。
しかし、ないと思っていた大岩をリコリスが出してくれたことで、俺がやりたいことができるようになった。武器や防具を強化しようとしたら能力が上がるのは簡単に予測できた。がしかし、そこらに転がっている石を強化したらどうなるのか、そんなこと予想がつくわけもなかったが、やってみなくちゃわからないので、その岩を使って、限界まで強化してみるのだった。