第6話 米兄ちゃん
遅いな。壁に掛けられている時計を見ると、既に7時を過ぎていた。資料も読み終わったが、まだ帰ってこないのか・・・。1度部屋を出て、またレイラさんに聞いてみたところ、303号室に苺花さんと歌音さんの2人が同じ部屋を取っていて、真守は207号室にいるらしい。俺はレイラさんにお礼を言ったあとに、まずは真守の部屋に向かった。
階段を上がって2階ズラっと茶色の木でできたドアが並んでいる廊下を進み、プレートに207と書かれたドアにノックをした。
「真守ーいるかー? 俺だ、亮太だ」
「亮太? 入っていいよ」
真守に許可されたので、部屋の中に入った。内装は特に俺と変わった所はなく、真守はベッドに腰掛けていたので、俺も適当に床に座る。
「ちょっと遅くないか?」
「ごめん、ごめん」
俺の質問に対し、軽く謝ってきた後になぜこうなったかの理由を説明してきた。ただ一言。
「楽しくてつい」
ハハと分が悪そうに苦笑しながらそう言ってきた。いや、昨日の真面目感はどこに行ったんだよと俺は呆れもしたが、やはり異世界というもので討伐を早くしてみたいなという気持ちもあった。
「今日は苺花さんと歌音さんの2人も一緒で討伐に行ったんだよ。武器と防具は3人とも適当に武器屋と防具屋に寄って買ってさ」
そこからはモンスターと戦ったという話が長かったのでまとめると、この近くのコレット草原と呼ばれる場所では、主にグリーンスライム、ゴブリン、コボルトといった三大雑魚モンスターが出るらしい。3人もこの3種を主に狩ったとのこと。
俺がものすごい気になったのが、内蔵とかを見ても気持ち悪くならなかったのかとか、解体はどうしたのかとか、回復手段はどうしたのかとか、質問したら、それにも丁寧に答えてくれた。
内蔵とかは3人とも気はしていたらしいのだが、早く戦いたくて勢いで行っちゃったらしい(危ないな)しかし、ゴブリンとかを殺したとしても、そこまで嫌悪感もなく、気持ち悪くもなかったらしい。真守も理由は分からないとのこと。
解体は気持ち悪さもないので、さっき俺が読んでた資料の通りに自分たちで解体しようと思っていたらしいのだが、さすがに技術もなく、そこまで頭が回らず解体用のナイフも買っていなかったので、そのまま道具袋の中にしまって、ギルドで解体してもらったらしい。
回復は、サブマスターにランク1の赤と青のポーションを1人あたり各10個ずつもらったので、それを使ったとのこと(俺、もらってないんだけど・・・)
それから3人の戦闘スタイルは、真守は武器を飛ばして操り、遠距離から倒したり、普通に切ったり。苺花さんは、その辺にある土から俺たちの身長の半分程のサイズのゴーレムを3体作り出し、変わりに攻撃を受け止めたり、足止めしたりをして。歌音さんは、まだできることが少ないのか土を盛り上げて壁を作ったりして、相手の妨害をしているらしい。
3人ともレベルが5に上がった時に「鑑定」を覚えたらしく、今度はこれを使って、武器の性能やモンスターのステータスなどを見てるらしいが、人のステータスは名前しか見ることができなかったので、もしかしたらレベルがあるのかもと言っていた。
「僕たちがしてきたのはこんな感じかな? そろそろお腹も減ってきたし、ご飯にしようと思うんだけど、亮太も来るよね? もちろん、歌音たちも誘うつもりだけど」
「俺はもう飯は食べたけど、朝言っていた市場調査の結果も報告したいし行くよ」
「じゃあ行こうか」
真守と俺は立ち上がって部屋を出て3階に向かう。3階の廊下もさして変わりはなく、強いていえば、ドアとドアの間隔が広くなったぐらいだろう。303と書かれたプレートがあるドアを真守がノックする。
「亮太と真守だー、そろそろお腹が減ったから食堂で夕食にしようと思うんだけど、2人はどうする?」
「私たちもそろそろ行こうと思っていたから行くわ。準備したら食堂に向かうから先に行っててちょうだい」
「分かった。じゃあ先に行こうか」
真守が階段に向かって歩き始めたので、俺もその後に続く。1階まで降りてきて、食堂に入っても、特に何か言われるようなことは
「さっきは米兄ちゃん災難だったな」
「米兄ちゃんさっきは笑ったりして悪かったな」
「米兄、米兄ぷぷぷ」
食堂に入った途端米兄、米兄と笑いながら連呼される始末だった・・・。どうしてこうなった。完全にやらかしちゃってるじゃん。俺は頭を抱えたくなって、部屋に逃げたい衝動に駆られたが、このまま、また逃げて変なあだ名を付けられる訳にもいかないので、このまま椅子に真守と座った。もちろん真守にスルーされるはずもなく、すぐに質問してきた。
「りょ、亮太一体何があったんだ? 米兄ってお前のことだろ?」
俺は真守にこうなった経緯を話した。すると真守は
「ハッハッハ、あの女の子ので爆笑しちゃったのか、確かにちょっと面白かったけどそうか、爆笑しちゃったのか、ハハ」
「あんまり笑わないでくれ」
「ごめん、ごめん」
真守が笑ってしまったことに、結構傷ついた顔で笑わないでくれ、と言ったらすぐに謝ってくれた。本当に初日の真面目感はどこに行ってしまったんだろう。
「まあ、気を取り直して、すいませーん」
「はい、ただいまー」
真守がそう呼ぶと、レイラさんではない店員さんが反応して、しばらくしてからこっちに向かってきた。
「ご注文は?」
「今日の分の夕食を1人分お願いします」
「鍵を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
店員にそう言われた真守は、道具袋から鍵を取り出して、見せると店員さんはかしこまりましたと言って厨房の方へ向かっていった。数分後料理が運ばれてくると同時に、苺花さんたち2人も食堂にやってきた。2人も料理を運んできた店員さんに鍵を見せて同じものを注文し、席に着いた。米兄ちゃんの連呼は小さくなっていたので、ほとんど聞こえていなかったことに俺は安堵していたが。
「さて、これで4人集まったわけだけど、亮太、市場調査の結果報告をお願いします」
「いや、そんな丁寧にやらなくてもいいだろ」
とツッコミつつ、俺は市場調査の結果を報告した。やはり、円とGの価値はほとんど変わらないこと。香辛料の類は軒並み値上がりしてこと。武器と防具の値段はゲームで見た事のあるものはゲームと値段が近いということなどだ。俺が話し終わることに3人は俺と同じ夕食を食べ終わっていた。
「じゃあじゃあ、食べ物に関しては今までとそう変わらないって事だよね!」
「今実際に、シチューを食べ終わったところだしね」
嬉しそうに歌音さんが言ったことに対して微笑みながら苺花さんがそう答える。苺花さんもスイッチの切り替え上手いな。転生してきた時のキリッとした表情はどこに行ったんだ・・・真守の真面目感と一緒に逃避行でもしてるのか?
歌音さんは相変わらず元気な所もドジそうな所(やっぱり失礼)も変わらないが、俺にも特徴ができたけどね! 米兄という嫌な呼び名で呼ばれるようにね!
「とは言っても、食べられるものの種類はどうしても減りそうだけどね」
「仕方のないことなんじゃないか? やっぱり日本と違って食の研究以外にも魔法とか、武器防具にモンスター対策とかもしなきゃいけないし」
真守が言うことに、米兄に関しては一旦考えを放棄(諦めたともいう)して、仕方ないだろと言う俺。なぜここまで俺たちは食にこだわっているのだろうと思うが、美味しくないご飯は食べたくないので重要なことだろう。シチューは美味しくて安心したけど。
「武器防具にはお金が結構かかりそうよね」
「僕たちが買ったのは初心者用の安いやつだけど、武器1つでも普通に10万20万してたよね」
「1つ3000万Gの凄そうなやつも飾られてたよ!」
「「「3000万・・・」」」
歌音さんが言ったことに驚きすぎて声が重なる3人、まるで親友のようなことになっているが、俺たち4人は昨日あったばかりである。
「そういや、武器の話してて思い出したけど、道具袋を見ても誰も驚かれないのが不思議なんだが、そんなレベルで流通してるのか?」
「市場調査したのは亮太くんでしょ? 道具袋は売っている場所には確かに売っていたわ。でも、内容量8㎥のもので500万Gはしていたわね」
さっきの3000万Gのせいで若干凄さが薄れてしまってはいるが、それでも500万Gするのだ、俺たちが持っているのが、27㎥なので、価値は単純計算で3倍強。でも、同じ大きさで容量が変わるとなると2000万は軽く超えそうだな。やばいな・・・。
この後に軽い雑談をしたあとに、各々部屋に戻った。もちろん、俺も部屋に戻った。ただ、すぐには寝ずに、少しスキルについて試そうと思い、もう少しだけ起きていることにした。
☆★☆
部屋に戻った俺は、早速スキルについて試すことにした。他の3人のスキルと違って、攻撃的なものじゃないことは名前からすぐにわかるので、先にしておいた方がいいと思ったからだ。俺はステータス画面を開いて、スキルの欄にある通常強化をタップする。ピコンという音とともに、画面が切り替わる。
通常強化
道具などを素材を用いることによって強化すること
ができる。
最大強化値 10
まずはこれだが、不思議と使い方はすぐに分かったので、今着ている服に対して通常強化を使う。すると、こんな画面が出てきた。
装備名 服
装備種 服(防具)
装備場所 上半身
強化回数 0
効果
なし
必要素材 布系アイテムを300g ※足りません
強化後
強化回数0→強化回数1
HP+0→HP+30
DEF+0→DEF+10
この画面を見た途端にワクワクしてきた。早く通常強化を試したいが、布系アイテムというものが分からないので、一旦保留。
靴やズボン、下着なども試したが、ステータスの上がり方と靴が革系アイテムが必要なこと以外は変わりなかった。
登録本
存在するあらゆるものを収納し登録する本。ただし
生物は収納できない。登録した数だけ自身が強化さ
れる。
次はこっちのスキルだ。こっちも先程と同じく使おうと思ったら使い方が分かった。道具袋から部屋の鍵を取り出し、それを持ちながら「収納」と念じる。すると、鍵が手の中から消えた。代わりに、今度は「登録本」と念じると、本のような画面がでてきて、そこに「鍵」と書かれた文字があるので、そこをタップすると、ページが切り替わった。
道具名 鍵
効果
宿屋『黄金の小麦亭』の303号室を開けるための鍵。
登録効果
スキル『万能鍵』を入手
登録必要素材 鍵✕1
とりあえず登録してみることにする。すると、本が眩い光に包まれた。その光が収まると、本に書かれていた「鍵」の文字が無くなり、代わりに俺のステータスを見ると、しっかりとスキル欄に「万能鍵」が追加されていた。
万能鍵
登録本で登録した鍵に変化する鍵を召喚するスキル。
複数登録した場合は、登録した鍵にあった扉を
開ける時にその扉に合う鍵に変化する。
つまり、登録した鍵がAとBの2つあって、同じように扉もAとBの対応した鍵で開くとして、万能鍵がBの扉を開く形態の時にAで開く扉を開けようとすると、変化して、Aの鍵になる。って解釈であってるのかな?
「あ」
ここまでで気づいてしまった人もいるかもしれない。そう。宿屋の鍵無くした扱いになっちゃうんですね。だってスキルになっちゃったもん。この宿屋出る時に3万Gだっけ? 支払うか・・・。
衝撃の事実を知ってしまったことにやる気が削がれてしまったので、スキルの研究はここまでにして、もう寝ることにした。明日こそはモンスターとか倒したいしね! 時計を見ると、夜の10時とまだ寝るには早い気もするが、やる気がない今。やりたいこともないので、道具袋からパジャマを取り出して着替え、お風呂の入っていないことに今更ながら気づいたが、1日ぐらいなら大丈夫だろうと思いながらベッドにダイブし、そのまま10分程ゴロゴロしたらいつの間にか寝ていた。