第2話 国王陛下?!
「んっ…ん?」
俺は目が覚めると見知らぬベッドに横たわっていた。しかもとても豪華な装飾が施されたふかふかのベッドである。そんなことを考えているうちにだんだんと覚醒していき、思い出してきた。
たしか、異世界に召喚されたんだっけ? しかも、この様子をみるに、昨日のことは本当だったらしい。ベッドのサイズは、日本で言うところのクイーンってやつぐらいだし、俺に美的センスはないが、なにやら高そうな絵画や、置物も飾ってあるところをみると、本当に異世界に来たんだなと感じられる。
しかしまだ眠い・・・さすがに昨日は、疲れているのに考えすぎて、まだ眠い。なんて考えていると、コンコンと、扉の方から、ノックが聞こえてきた。
「亮太様起きていますでしょうか?」
若い女性の声が聞こえてきた。その声に対し俺は、
「起きてませ~ん」
そう答えつつ、俺はまた深い眠りに…がばっ!!布団が巻き上げられ、許可していないのになぜかメイドさんが部屋に入ってきていた。さすが異世界! 黒髪ショート、方目隠しに紅眼で美少女! 身長が高いのが残念だが、
「ちょっと亮太様?! ぼうっとしてないで早くしてください! 何回起こしに来たと思っているんですか! もう皆さん集まってるんですよ?!」
「!? すいません、さすがに寝すぎました。着替えるのでちょっと外に出ていてください」
そう言うと、顔を真っ赤にしながら急いで出て行った。内心、俺は危なかった、と安堵していた。というのも、俺はたまに寝起きだけテンションが異常に高いことがあるのだ。怒られたから正気を取り戻したが、とこんな説明してる場合じゃねぇ。急いで着替えないとな。
そう思いつつ、素早くこの世界の服(シャツ? と黒のカーディガン?)だと思われるものに着替えを済ませて、部屋を出ると、先ほどのメイドさんが立っており、頭をさげて、謝ってきた。
「先程は、申し訳ございませんでした勇者様に対してとんだご無礼を。どのようにお詫びしたらいいか…」
メイドさんはこう言うが、自分の方が悪いと思ったので、俺もすぐに頭をさげ、
「いえ、こちらこそごめんなさい。初めて会った人に対してあんな態度をとってしまい、寝起きのときだけ、人が変わったようになってしまうもので…。もし、またあのようになってしまったら、遠慮なく怒ってやってください」
「ええ、じゃあガツンと…じゃなくて、今度は普通に起こしますので…」
メイドさんがまだ話そうとしていたので、俺はそろそろ行かないとやばいと思い、
「僕が言うのも何なのですが、そろそろ行かないとやばいんじゃないですか?」
「! すいません、では、歩きながら話しましょうか」
と言いながら、俺とメイドさんは歩き始めた。いつまでもメイドさんと言うわけには行かないので、名前を聞くと、『ミシェル』さんというらしい。
「さっき、なんであんな感じ態度をとったんですか?」
気になることを聞いてみた。いくら、俺の態度がダメだったからと言って、実感は湧かないが勇者なのにいきなり部屋に入ってきたりなんてことはたぶんしないだろう。
「ちょっと私の友達に亮太さんと似た方がいまして、いつもみたいに怒ってしまったというかなんというか・・・」
あははと言いづらそうに苦笑いしていたので、聞かない方がいいと思い、やめた。
「すいません、ちょっと話しづらい話題を振ってしまって」
「いえいえそんなことは、それよりも亮太様は異世界から来たんですよね?」
ミシェルさんは小首を傾げながら言ってきた。シンプルに可愛いが、今はそんなことよりも、なぜ異世界から来たことについて聞いてくるのだろうか?
「はい、確かに異世界から来ましたが、なぜでしょうか?」
「そこって『地球』って場所ですか?」
「っ! はい、地球から来ましたね。それがどうかしましたか?」
おい! ちょっと聞いてないぞ! こういう異世界系のものでは地球から来たは普通最初の方で出てこないでしょ!?
「実は、私もその地球の『日本』という所に住んでたんですよ」
俺が動揺している所にさらに動揺を誘うことを言ってきた。え? なんだって? 日本?! そう言われてから俺はミシェルさんに対して警戒を始めようとしたが、たぶん動揺しすぎてただの不審者にしか見えないだろう。
動揺している頭を必死に働かせてこの状況を考えてみる。この手の小説では、同じ境遇の人を除く同じ世界から来た人たちは大体敵対することになるのが俺が読んできた小説のテンプレだ。しかし、もしここで戦闘になったら、勇者の1人とはいえ流石にLv1では分が悪い。とかいうレベルの話ではないだろう。
「す、すいません。突然訳の分からないことを言い始めて、あなた方勇者の人たちが日本人かもと思いまして、髪も瞳も黒いですし、高橋や佐々木などの苗字も、名乗り方も日本人そのもの、さらには、まるでこんな状況を知っているかのような反応をしていたので・・・」
話しているうちにミシェルさんの目が潤んできた。これって俺が泣かせたことになるんだろうか? じゃなくて!
「ミ、ミシェルさん、大丈夫ですか?」
「すいません、日本人の方に会えるのが嬉しくて・・・」
どうやら嬉し涙のようなので安心した。まぁ、この光景を見られたら勇者の権限みたいなので横暴を働いてるように見えなくもないし。見られないうちにさっさと移動することにした。
「すいません、このままでは俺が不審者に間違われること間違いなしなので、早く朝食に向かいましょうか」
そう言うと、ミシェルさんはそれもそうですね。と軽く笑ったあと、先程と同じような態度に戻った。それからは気持ち早歩きをしながら2人である程度遠い朝食への道を話しながら向かった。
話していくうちに、俺は警戒のような何かをいつの間にかすることはなくなり、それどころか食堂じゃないけどなんて言うんだろう? 食堂の豪華版? みたいなところに着く頃には結構仲良くなっていた。
☆★☆
俺とミシェルさんが着いた時には他の人たちは既に席に着いていた。昨日いの一番に助けてくれと頼んできたお姫様に、ノルドさん、真守たち勇者と、昨日はいなかった青年が椅子に座っていた。
他にも護衛なのか騎士の人たちも周りに立っていた。みんなこちらを見て「お、やっと来た」みたいな顔をしているわけではないが、そんな感じのオーラを感じる。
「遅れてしまって、申し訳ございません。少々寝坊をしてしまって…」
俺は力なく笑いながら頭を下げた。すると、それに対して青年が笑みを浮かべながら言葉を返してきた。
「大丈夫ですよ、亮太さん。その間私たちも楽しませて頂きましたから。ね?」
と青年がみんなにそう聞くと、真守たちや、ノルドさんもそうだなと言いながらその言葉を肯定した。ならまだ良かったと思いつつも、俺はこの青年は誰だろうと思った。
歳も身長も俺とそう変わらないように思える。青と言うよりは蒼といった感じの髪に、白に金の刺繍が入った、豪華だが、成金って程ではなく、綺麗だなと思えるローブを羽織っている。
誰だろう? 王子様かな? と思っていたことが顔に出たのだろう。その疑問に答えるように青年は話した。
「失礼。名乗っていなかったね。僕はこのイグニアス王国の国王を務めさせていただいている。グラシアン・ワン・アイン・イグニアスと申します」
笑顔を見せながら名乗ってきた青年、いや、グラシアン国王陛下に言われて俺は心底驚いた。そんな俺にグラシアン国王陛下は言葉を続ける。
「信じられないって顔をしているね? でもこれは本当のことだ。けれども、僕とは普通に接して欲しいかな。こちらにいる真守たちにも友達のように接してもらっているし。亮太くんにも国王だからって堅苦しくならなくていいよ。他の3人と同じように国王なんてものがいない国から呼び出しちゃったかもしれないしね」
さも当たり前のように言ってくるグラシアン陛下に、俺は、本当に大丈夫なのかとも思ったが、ノルドさんはやれやれといった顔をしているし、真守たちも普通に接していることから本当に大丈夫なんだろうと思った。
グラシアン国王陛下が名乗ったのに、俺が名乗らないのもおかしな話なので、俺も名乗る。
「グラシアン国王陛下」
「グラシアンでいいよ」
「いや、それはさすがに…」
「言ったでしょ? 堅苦しくなくてって僕も真守たちのことを呼び捨てにしているし、逆に僕のこともグラシアンって呼び捨てにしてもらっているからね。だから、僕も君のことを亮太って呼んでも大丈夫かな? 僕も堅苦しいのは嫌いでね。それでも場が場の時は立場通りの話し方になるけど、今はプライベートだからね。どうかな?」
どうかな? って聞かれても、と俺は思ったが真守たちも普通に接しているし、ここで俺だけ敬語なのも変な話なので素直に頷いた。そして、改めて名乗った。
「俺は、高橋 亮太って言います。真守たちと同じ日本からやって来ました。グラシアンこく…グラシアン。これからよろしく」
俺が手を出して握手を求めると、グラシアンもそれに応じて握ってくれた。そこからは、何故かまだ温かい朝食を食べながらみんなで雑談をした。その時に昨日聞いていなかったお姫様の名前も聞いた。名前はニルルと言うらしい。
そのニルルも兄と同じように接して欲しいと言ってきたので、普通に接したが、俺はニルルがグラシアンの妹だということに驚いたが、改めて考えると、俺たちと同じくらいの歳で10歳ぐらいの娘がいるわけないかと思い、その驚きはすぐに治まった。そして、朝食を食べ終わった後に、これから何をしてもらうかの説明に入った。
☆★☆
「さて、朝食も食べ終わった事だし。ノルドー! そろそろこの後のことを話してやってくれ」
「わかりました。勇者様方にはこの後冒険者ギルドに向かって頂くのがよろしいかと思います。なぜなら勇者様方はみな高いステータスやすきる? と呼ばれる特殊な能力を持っているからです。そうなると、その力を最大限に生かすことができる1番の場所でしょう。ギルドについての説明はギルドマスターと呼ばれるギルドで1番偉い方への紹介状を書いておきますので、その方に聞いてください。それと、勇者というのはなるべく隠した方が良いかと。もしも、勇者だと公表してしまうと暗殺者がくるやもしれません。戦争の時に公表するつもりですが、戦争に出ない方に関しては公表するつもりはありませぬ。ちなみに、国家間の戦争に出ないという方は?」
ノルドさんが聞いても誰一人手を上げなかった。みんな、多少グラシアンやノルドさん、ニルルたちと話して、悪い人たちではないと思ったからだ。俺もそう思う。
真偽がわかるスキルとか、鑑定のようなスキルは持っていないが、多分大丈夫だろうと思った。
純粋に楽しかったからだと思うが、裏があるやつとあそこまで楽しい雑談ができるとは思えない。
みんな手を上げないことに感極まった表情をしながら、ノルドさんは「ありがとう」と、一言だけ言って話を続けた。
「では、約束の300万Gを渡そう」
ノルドさんはそう言って麻袋? って呼ばれそうなものを渡してきた。中を覗こうとすると、ステータスの時のような画面が出てきて驚いた。これは・・・
「この麻袋は「道具袋」と呼ばれるマジックアイテムと呼ばれる魔法の品の1種だ。低いランクの物しか人数分は用意出来なかったから、時間の流れが止まるといった効果はないが、内部は27㎥まであり、そこまでならあらゆるアイテムを収納することできる。だが、生物を収納することはできない。これは全ての道具袋に共通することだ。冒険する時に少しは役に立つだろうから受け取ってくれ。君たちが着てきた服以外にも、生活に必要だろうものも全てそこにいれておいたから確認しておいて欲しい」
ここまでの説明を聞いて俺は心底驚いた。それは真守たちもらしい。目を見開いていた。いきなり道具袋を渡されたのである。ゲームや異世界ものの小説を読んでいる人たちにとっては驚きものだろう。
これの有用さは読んでいる人たちならみんな知っている。それを最初から持てるというのはとても大きいだろう。しかも、それを4人分である。俺たちが心の底から感謝の言葉を述べたことにノルドさんは少し驚いていた。
多分俺たちにもこのような道具があった世界から来たのかとか勘違いしてるんだろう。もちろんそんなものは無いが。
「それから、この世界の貨幣については知らないと思うので説明しておこう。とは言ってもこの紙に書いてある通りだが」
ノルドさんは1枚の紙を見せてきた。そこにはこう書いてあった。
1G=小銅貨
10G=銅貨
100G=大銅貨
1000G=銀貨
1万G=大銀貨
10万G=金貨
100万G=大金貨
1000万G=王金貨
手の平サイズのパン1つあたり100G程
これを見る限り1G=1円とみて良さそうだ。ご都合主義ってやつかな? あんまりメタいこと言わない方がいいか。いや、現実にメタも何も無いか。
まぁ、つまりこの袋の中には金貨が30枚入ってるって事だな。って300万円ってことか?!贅沢しなければ1年は余裕で暮らせるってわけだな。
これよりも金額の高い貨幣もあるらしいが、国家ですら滅多に使わないとのこと。これより高いってなると1億円硬貨みたいな感じってことだろ? 普通に考えれば必要無さそうだな・・・。
「お金は自由に使ってくれて構わないが、もし冒険者になると言うのであれば、まずは武器を揃えるのがよろしいかと思います。それと、この王都の地図とギルトマスターへの紹介状です」
ノルドさんから懐から折り畳まれた白い紙と、赤い蝋で封をされた黒い手紙を各々渡された。
「こちらがこの王都の地図です。この王都にある工房や、ギルド、宿屋などの場所も書いておりますので、お役立てください。そして、こちらの黒い手紙がギルドマスターへの紹介状です。こちらの手紙をギルドを入って目の前の所にある受付にいる受付嬢と呼ばれる女性にこの手紙を見せれば、ギルドマスターのところまで案内していただけるよう手配しておりますので。」
「何から何までありがとうございます」
真守がノルドさんにお礼を言ったのを皮切りに俺たちもお礼を言い、そのあと地図と手紙をしまったら、各々お世話になったメイドさん(俺はミシェルさんに)や執事の人、国王のグラシアンや妹のニルルにもお礼と別れの挨拶をして、俺たちは居心地の良かった王城を後にした。