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 玲華と龍綺は政略結婚であり、関係者の大部分が二人の結婚を「愛のないもの」と承知しているわけが、それでも二人は、対外的に円満な夫婦を演じる必要がある。


 こういった夜会の席も、その一つだ。


 華やかに装飾された会場と、豪華な食事、そして煌びやかな衣装に身を包む招待客。いわゆる社交場というものだが、玲華にとっては、


(億劫ね……)


という感想以外に思い浮かばない。


 こういった場所における礼儀作法は、ある程度呉羽から叩き込まれているため、必要以上に不調法な姿を晒さずに済んではいる。

 ……今のところは、であるが。


(いつ、ボロが出るか、不安だけれど)


 努力はしているものの、庶出である玲華にとって優雅な立ち振る舞いというものは、いわゆる「無理をしている」状態であり、常に緊張している状況だ。とにかく気疲れするのである。


(それに……)


 ちらり、と玲華は瞳だけで斜め上を見上げる。そこには、玲華が最も苦手とする人物……つまり夫たる龍綺の存在があった。


 玲華の彼に対する第一印象は「気難しい」以外の何ものでもなかったが、彼はあくまで社交界の華であった。こういった場では、驚くほどの社交性を発揮する。

 今も、二十歳以上離れているだろう年上の男性と、愛想良く話し込んでいる。時には冗談を交えたりと如才ない。


 会話が一段落つくと、龍綺はこちらを見やった。そして、


「玲華」


と、そう呼びながら、龍綺が手を差し伸べてくる。その手に、玲華は己の手を重ねた。

 そのまま、すっと前へ出るように促された後、


「ご挨拶を」


と声をかけられ、玲華は相手に柔らかな微笑みを向けた。そして望まれた役割を果たす。


「玲華と申します。以後、お見知りおきくださいませ」


 微笑みを絶やさず、喋りすぎず、しかし寡黙すぎず。この加減が難しい。しかし、それについては、過剰に心配したりはしない。何故なら龍綺の助け船があるからだ。

 彼は私生活では決して見せない柔らかな笑みを、玲華に向けながら、会話を継ぐ。


「皇女という身分でありながら、私のような無粋な男の元へと嫁ぐ決心をしてくださった彼女に、心から感謝しております。ところで……」


 彼もまた、玲華にあまり喋られては困るのだ。心にもない言葉を並べながら、さりげなく話題を逸らす。

 その後の玲華の仕事は、ひたすら相槌を打つだけで良い。


(それにしても……)


 今はこうして、互いに「良好な関係を築いている夫婦」を演じているが、招待客もまた、玲華と龍綺がそういった演技をしていることを知っているのだ。

 冷え切った関係であるという噂のある夫婦の、白々しい演技を見て、


「仲がよろしくて結構ですな」


などと言ってみせなければならない招待客らも大変なことだろうと思い、玲華はこっそりと溜め息をついた。

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