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相性の良さというものがあるのだろうか、二人の間に穏やかな空気が流れる。確信、とまではいかないが、彼女とは上手くやっていけそうだと感じられた。
やがて、
「玲華様」
と改まった様子で千早が切り出す。玲華が首を傾けると、彼女は言葉を継いだ。
「早速ですが、一つお尋ねしたいことが」
「何かしら」
話を促すと、千早は一つ頷いて続けた。
「慣れない土地で、気苦労が絶えないのではないかと、第二王子が心配なさっておいでです。何かご不便はないでしょうか」
どうやら呉羽は、律儀に玲華への約束を守ろうとしているらしい。彼は、玲華に政略結婚の心得を叩き込みながらも、こう約束してくれた。普段の生活に関しては、決して不自由はさせない、と。
「……」
玲華は、どう答えるべきか、少しだけ考える。そして、このように応じるべきだと結論づけた。
「いえ。私は龍綺様のお計らいで、何不自由なく過ごしているわ」
その言葉に嘘はない。
龍綺は、意に染まぬ相手であったはずの玲華に対しても、正妃として不足のないように取りはからってくれているように思う。……大層、面倒くさそうに、ではあるが。
その玲華の答えに対し、千早はどこか釈然としない様子で、
「そう、ですか」
と相槌を返したが、これ以上この話題を続けるのも不適切だと考えたのだろう、話題を切り替える。
「ですが、恐らく時間を持てあまされているのではないかと、危惧しておられます。ですから、玲華様が退屈することなく日々を過ごすことができるようにと、いくつか預かりものをしております」
それらは、これからも定期的に贈られる予定です、と告げ、千早は微笑んだ。
「今回は本がほとんどなので、後から係りの者に持ってこさせますね」
そうして二人の初対面が一段落ついて、用を終えた千早が退室する。
その後、程なくして部屋に運ばれた本の山を見て、玲華は喜ぶと同時に、首を傾げた。
確かに呉羽は以前から、玲華によく本を贈ってくれた。しかし内容といえば、高貴な者の立ち振る舞いに関するものや、教養を深めるものなど実用的なものが多かった。
しかし、今回贈られてきた本は、どちからといえば大衆向けの小説や、美しい絵画などが載った芸術関係のものが多く、有り余る時間を消化することを目的とした品揃えであった。
つまり。
(駒としての役割は十分果たした、ということなのかしら)
結婚することこそに意味があり、それ以外の役割を求めていない、ということだろう。族っぽく言えば「結婚してさえしてしまえば、こちらのもの」ということだ。
しかし、これらの図書は本当にありがたいものだったので、玲華は素直な喜びを持って受け取った。